5 特定空港周辺航空機騒音対策特別措置法の制定


  空港周辺は,空港と都心部との交通網が整備され,空港に関連する便益施設が建設される等の要因により宅地化が進展する傾向にある。このような傾向にもかかわらず,従来の空港周辺における土地利用の進め方は,道路等の都市施設の計画的な整備が中心であり,航空機騒音による影響を受ける地域であるからといって,これと調和する土地利用が進められるわけではなく,むしろ住居系の土地利用を進めることさえ容認されていた。そこで,航空機騒音問題を根本的に解決するためには,従来の対策に加えて,都市全体の中で空港を位置づけ,その周辺について住宅等の建築規制等の措置を講じ,適切で合理的な土地利用を実現する必要があり,このための制度を確立する必要がある。
  このことについては,48年12月の中央公害対策審議会の答申(航空機騒音に係る環境基準の設定に伴う課題について),49年3月の参議院運輸委員会の決議(航空機騒音防止法の一部を改正する法律案に対する附帯決議),ならびに50年8月および52年9月の航空審議会の答申(今後の環境対策について等)において指摘されている。
  また,ICAO(国際民間航空機関)においても,土地利用に関する規制等を行い,空港周辺において航空機騒音と両立し得る土地利用を各国が積極的に実現するべきであると指摘している。
  このような事情のため,政府は52年10月14日閣議において特定空港周辺航空機騒音対策特別措置法案を決定し,同日第82回国会に提出し,同法は53年4月20日法律第26号として公布された。同法は宅地化の進展が予想される空港周辺について,住宅学校,病院等の静穏な環境を要する建築物の建築を制限する一方,生活環境施設,産業基盤施設等の整備の促進のための措置を講ずることにより,航空機騒音による障害を防止し,あわせて適正かつ合理的な土地利用を図ることを目的としており,その主な内容は次のとおりである。

(1) 特定空港の指定及び航空機騒音対策基本方針の策定

  空港周辺について航空機騒音により生ずる障害を防止し,あわせて適正かつ合理的な土地利用を図る必要があると認められる空港を政令で特定空港として指定し,この指定があれば,特定空港の設置者は,おおむね十年後における著しい航空機騒音が及ぶこととなる地域等を示して,関係都通府県知事に対し,航空機騒音対策基本方針を定めるべきことを要請しなけばならない。
  この要請を受けて,都道府県知事は,特定空港の周辺について,@航空機騒音障害防止地区及び航空機騒音障害防止特別地区の位置及び区域に関する基本的事項,A航空機騒音により生ずる障害の防止に配意した土地利用に関する基本的事項,B航空機騒音障害防止施設,生活環境施設,産業基盤施設等の整備に関する基本的事項を内容とする航空機騒音対策基本方針を関係市町村長,関係住民等の意見を聴き,運輸大臣及び建設大臣の同意を得て策定する。

(2) 障害防止地区及び同特別地区についての都市計画及び同地区内における建築制限

  都道府県知事は,特定空港の周辺で都市計画区域内の地域においては,航空機騒音対策基本方針に基づき,都市計画に障害防止地区及び同特別地区を定めることができる。障害防止地区内において住宅等を建築する場合には,防音構造としなければならず,同特別地区内においては,都道府県知事が許可した場合を除き,住宅等の建築をしてはならない。

(3) 住宅等の制限に対する補償及び土地の買入れ

  障害防止特別地区内における住宅等の建築禁止により通常生ずべき損失は,特定空港の設置者が補償しなければならず,住宅等の建築禁止によって土地の利用に著しい支障をきたすこととなる場合に,当該土地の所有者が当該土地を買い入れるべき旨を特定空港の設置者に申し出るときは,特定空港の設置者は,これを時価で買い入れる。
  障害防止特別地区に現に存する住宅等については,特定空港の設置者が,移転希望者に対し,移転補償及び土地の買い入れを行うことができる。

(4) 特定空港の設置者及び国の援助

  特定空港の設置者は,その買い入れた土地を地方公共団体が公園広場等に利用するときは,これを無償で使用させることができ,また,地方公共団体が航空機騒音による障害の防止に資する施設の整備を行うときは,その経費の一部を補助することができる。
  本法は,53年10月19日から施行され,特定空港として,新東京国際空港(成田空港)が指定された。


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