3 エネルギー輸送に伴う環境への配慮


  エネルギーの輸送に起因する環境問題としては,まず石油の海上輸送に伴うタンカーからの油性バラスト水等の排出が挙げられる。また,タンカーの衝突,座礁等の事故が発生した場合には,大量の原油等が海上に流出し,広範囲かつ長期的な海洋汚染をもたらすとともに大規模な海上災害発生のおそれがある。
  1976年においてタンカーの通常活動に伴い世界の海洋に排出された油の量は,約100万トンであるとする推計もあり,タンカー事故による油の流出も加えると,これを上回る量の油が海洋に流入しているものと考えられる。
  これらの油が海洋生物資源等に及ぼす短期的,長期的影響には測り知れないものがあり,海洋環境の保全の重要性については改めて述べるまでもないであろう。これらタンカーからの原油等による海洋汚染及び海上災害を防止するため,排出規制及び監視取締り体制の強化を図るとともに,特に,船舶交通のふくそうする海域における海難防止のための海上交通諾規制の実施,海難等による流出油の防除体制の整備等航行安全対策,防災体制の強化を含む総合的な対策を推進している。また,国際的にも石油の海上輸送に伴う海洋汚染の防止の問題については近年特に関心が高まっており,53年2月ロンドンのIMCO本部において開催された「タンカーの安全及び汚染の防止に関する国際会議」においては,一定のタンカーに対するSBT(分離バラストタンク方式)やCOW(原油洗浄方式)の義務付け等の規制強化を盛り込んだ「1973年の海洋汚染防止条約の1978年議定書」が採択されている。先進海運国であり,かつ,世界有数の原油輸入国である我が国としても,国際的な責務を果たすよう努力することは当然であり,現在運輸省を中心にして同条約の批准,国内法化のための準備作業を進めている。
  タンカーの事故による油濁損害については,「油による汚染損害についての民事責任に関する国際条約(1969年)」及びその補足である「油による汚染損害の補償のための国際基金の設立に関する国際条約(1971年)」の両条約を国内法化した「油濁損害賠償保障法」により被害者の救済,保護を図っている。
  エネルギー輸送に当り環境保全上留意しなければならない場合としては,上記のほか,ガソリン等の揮発性の高い石油製品を輸送する際のタンクローリー等への積込,積即時の炭化水素ガスの漏出がある。炭化水素は,窒素酸化物とともに光化学大気汚染の原因物質であり,有機溶剤を使用する工場,石油類のタンク等の固定発生源から排出されるほか,自動車排出ガスにも含有されているなど,多種多様な発生源を持っている。
  大気環境の保全の見地から,これらの石油製品の積込,積卸の際の炭化水素の漏出防止について配慮していくことが必要である。更に,今後,石炭特に石炭火力を中心とした海外一般炭の利用増大が見込まれていることから,石炭及び石炭灰の輸送等における石炭粉及び石炭灰の飛散防止に十全の配慮を払っていくことが必要である。


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