1 経営環境


(1) 海運市況の動向

  昭和53年度世界の海運市況は,タンカー,不定期船の両部門ともほぼ前年度を上回り,石油危機後5年を経てようやく回復の兆しをみせてきた。
  これは世界的な景気の回復と,53年度上期の北米の穀物輸出ラッシュ,下期の原油価格引上げに伴う駆け込み需要等によるもので,時的な要因によるものが大きいと考えられ,今後の見通しについては,エネルギーの供給不安,アメリカの景気動向等,世界景気全般に係る不安材料もあり,今回の市況の好転は定着したものではなく,まだ楽観を許さないとの見方が少なくない。

(2) 諸経費の動向

  各経費についてみれば,船員費では,船員賃金の上昇は落ち着いた動きとなっているものの,企業が一船ごとに負担する船員コストは,予備員率が高いこともあって外国船に比べかなり高く,日本船の国際競争力低下の大きな要因となっている。また,54年に入ってから運航費の主要項自の一つである燃料費が急騰し,今後も当分の間燃料油の価格上昇が続くものとみられており,船種・船型等によって違いはあるが平均すれば燃料費は総コストの約2割程度を占めるので,今後は海運企業の収支圧迫の大きな要因となるおそれもある。
  更に,54年4月,7月と相次ぐ公定歩合の引上げにより低金利時代の終焉が告げられ,企業の金利負担についても今後徐々に上昇していく懸念がある。

(3) 円高の影響

  円高・ドル安の傾向は,53年10月まで続き,11月以降は若干の円安傾向に転じたが,年度平場では52年度の1ドル=255円から53年度の1ドル=200円(インターバンク中心相場の各月末の平均)へと大幅な円高となった。
  円高の影響については,まず企業収支についてみると,定期船の運賃については通貨変動調整金(CAF)が設定されており,また,不定期船のなかでも,長期契約船については荷主との契約で実質的な円建ての運賃となっているもの,あるいは,為替変動を荷主との間で調整する条項を定めているものが多いので,円高の影響による運賃収入の実質減はある程度抑制され,他方,支出面では燃料費,借船料などドル建てで支払う費用もあり,この面では逆に円高によるメリットを受けているので,これらを総合すれば,円高が企業収支に直接与える影響は一般的にそれ程大きなものではない。むしろ,円高の海運企業に与える影響としては,日本船のコストは大部分円建てであるので,ドル払いコストの多い外国船とのコスト格差は一層拡大し,日本船の国際競争力が更に低下することに注目する必要がある。


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