2 損益及び財務状況


(1) 損益状況

  53年度の海運企業の経営状況は,これを外航海運助成対象会社40社についてみると 〔II−(I)−9表〕に示すとおりである。営業収益は,不定期船,タンカーの市況好転はあったが,円高に伴う手取り運賃の減,減量経営に伴う運航船腹の縮少,円高,イラン動乱等による定期船荷動き減等により1兆7,675億円と前年度より2,955億円,14.3%の大幅な減収となった。

  一方,円高によりドル建て費用が負担減となったほか,不経済船の売却,用船のキャンセル等の収支改善努力もあって,経常損益は40社合計で166億円の損失計上となり,依然として厳しい経営であるが,前年度に比し55億円の収支改善となった。特に不定期船,タンカー等の市況の回復に伴い,53年度上期を底に収支は上向いており,40社合計で経常損失は53年度上期に123億円だったものが下期は43億円と減少した。なお,経常損益赤字計上の企業は22社で前年度より2社減少したが,運航主力会社,貸船主力会社では厳しい経営環境を反映して無配となる会社もあり,配当会社は前年度の11社から7社に減少した。
  このような収支状況を中核6社合計の部門別船舶収支の実績についてみると,在来定期船部門ではイラン動乱などの影響を受けた一部航路で荷動きの減,滞船時間の増加がみられたほか,円高の影響も手伝って前年度以上の大幅損失計上となり,従来不振の海運企業の収支を支えてきたコンテナ船部門も航路により輸出相手国の国際収支悪化から輸出荷動きが減少したところがあったことに加え,北米,欧州の主要航路において盟外船活動の影響を受けたこともあって,前年度に比べて収支は悪化している。
  こうしたなかで,前年度において大幅な損失を計上した不定期船・専用船部門では,不採算のカーバルカー(自動車/撒兼用船),鉱石船,石炭船等の整理が進み,年度後半からは鉄鋼業の景気回復から原材料の輸入にも動きが出るなどにより市況が好転したこともあって,収支は大きく改善された。また,大量のフリー船を抱え市況低迷から大幅な損失計上を続けていたタンカー部門でも,不経済船の売船,用船のキャンセルが進んだこと,石油備蓄に過剰船腹が活用されたこと,加えて秋以降中型タンカーを中心に市況が好転したこと等から損失幅は縮少している。

(2) 財務内容

  53年度末における海運企業の財務内容を中核6社についてみると,総資産は約1兆5,000億円と前年度末と大差はない。ここ3〜4年各企業が企業体質の減量化に努めており,有形固定資産の大宗を占める船舶についても既存船の減価償却が進んだほか不経済船の処分が引き続き進められており,新船建造も極力抑えられ,船舶を中心に有形固定資産の減少が続いているが,一方当年度実施された仕組船買戻しによる資産の取得があり,これらが拮抗したためといえる。また,所有船腹の中心的な部分を占める計画造船により建造された船舶は,40年代前半に大量に建造されており,これらの船舶の安定した収益がこの不況下にあって海運企業の経営を支えているが,ここ2〜3年に長期積荷保証の期限切れが集中しており,今後所有船腹の収益力の低下が懸念される。
  資本面では,転換社債の転換が進み資本が充実した企業があった反面,損失計上を続けて企業体質を一層悪化させている企業もあって,企業格差が拡大している。
  なお,財務諸比率をみても,資産の安定性を示す固定長期適合率が若干悪化しているほか,企業の健全性を示す自己資本比率等は前年度からほとんど改善されておらず,依然として企業体質の脆弱性が目立っている 〔II−(I)−10表〕


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