5 アメリカをめぐる海運政策問題


  アメリカは,定期船同盟協定等について独自の国内法をもって規制をしてきている。このようなアメリカの政策は,国内法により直接外国船を規制することとなり,他の先進海運国で長年培われてきた海運慣行及び海運政策になじまない点が多く,このようなアメリカ独特の政策は,同国関係航路において外国政府との間で管轄権の問題等種々の問題を引き起している。
  このため,我が国を含む先進海運国グループ(いわゆるCSG諸国)は,従来よりこれに対する対応ぶりを協議してきたが,1978年にはこのようなアメリカの定期船に関する海運政策との調整を図るべく,同国政府との間で協議を行った。
  この協議でアメリカ側から同国の国内法の運用に当たっては,海運の国際的な側面について配慮する確約を得たことは大きな成果であると考えられる。
  しかしながら,国際海運政策の相互の調整の観点からアメリカの海運政策の見直しを促進させるというCSG側の期待はまだ実現していない。
  アメリカにおいては,1978年以来政府により海運政策の見直しが進められるとともに,定期船関係の海運政策の基本にかかわる多数の法律が議会に提出されている。このうち1978年に成立したもので特に重要なものは,「国営船社規制法」である。同法は,国営船社が定期船同盟より低い運賃を設定することにより商業的競争原理が働かなくなることを防止するため,連邦海事委員会(FMC)に対し,これら国営船社の運賃の差止め等の措置を講ずる権限を与えるものである。
  また,1979年6月には,「届出運賃違反規制法」が成立した。同法は,外国海運企業の届出運賃違反等の不正行為につき罰則の強化を図るとともに,連邦海事委員会に運賃の差止め,在外書類提出命令等の権限を与えることにより,実効ある取締りを図るものであるが,我が国を含め諸外国との間で管轄権の抵触の問題が生ずることが懸念される。
  最近,「オムニバス法案」及び「海運政策法案」が相次いで議会に提出された。前者は,同国の海運政策を総合的に見直すものであり,海運規制,海運振興,海運行政機関の再編成,税制優遇を内容としている。一方,後者は,各行政機関代表,海運業界代表者等から成る海運政策評議会を設立し,海運基本政策を法律で宣言しようとするものである。
  両法案は,目下,議会で審議中であり,今後の成り行きに注目する必要がある。


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