第1節 港湾管理者の財政状況


  港湾に対する社会的要請の多様化,複雑化に伴い,港湾の整備及び管理運営に要する費用は,上昇の一途をたどっている。これは,一つには船舶の大型化,自然的立地条件の厳しい地域での港湾建設等に伴い,港湾投資自体が大規模化したためであり,また,港湾における環境の整備,保全等の新たな要請に対応するため,港湾公害防止施設,港湾環境整備施設等への投資が増大したこと等によるものである。
  近年,国及び地方公共団体の財政がひっ迫している状況の中で,これまで国及び地方公共団体の一般財源に大きく依存してきた港湾管理者の財政問題,つまり,いかにして港湾管理者の財政の健全化をはかっていくかが大きな課題となってきている。
  港湾管理者の財政は,港湾の管理運営に要する費用(以下「管理費」という。),港湾施設の建設又は改良に要する費用,公債償還費その他の費用からなる歳出を,施設使用料,役務利用料,水域占用料等(以下「港湾収入」という。),港湾工事のための国庫補助金,港湾管理者の設立母体である地方公共団体以外の地方公共団体等の負担金,分担金等からなる歳入により賄い,歳入が不足する場合は一般財源及び公債により補てんすることとされているのが現状である。
  港湾管理者の会計は,ほとんどが官庁会計方式により経理されているため,経営成績の把握は難しいが,昭和52年度,重要港湾について,港湾収入により管理費が賄われているか否かをみると,港湾収入がある119港のうち76港が賄えているにすぎず,管理費に公債償還費を加えた額については,わずか6港が賄えているにすぎない状況にある。
  官庁会計方式による財政状況の推移を主要8港についてみると, 〔II−(III)−8表〕及び 〔II−(III)−9表〕に示すとおりである。

  歳入においては,港湾収入が徐々に伸びてはいるものの,一般財源及び公債が全体の56%と依然として高い比率を示している。なお,51年度以降,公債の歳入内訳に占める割合が増大したのは,一般公共事業に係る起債充当率が,地方財政の財源不足に対処するための臨時的措置として,従来の20%から95%に引上げられていること等によるものである。
  歳出においては,防波堤,航路,岸壁等の基本施設整備費の伸びに比べ,上屋,荷役機械,埠頭用地等の運営施設整備費が大きな伸びを示しているほか,管理費も諸物価の上昇を反映し漸増の傾向にある。また,公債償還費は,公債の発行額及び歳入に占める割合が年々増加しているため,その額も年々増加し,全体に占める比率も高くなりつつある。
  次に港湾管理者財政の損益の状況を明らかにするため,企業会計方式によって試算してみると,52年度で64港において港湾経営収益(施設使用料及び役務利用料による収益をいう。以下同じ。)が管理費を上回っているものの,管理費に減価償却費を加えた港湾経営費用と港湾経営収益とを対比した経営損益で利益を計上しているのは22港にすぎない。さらに,港湾経営費用に営業外費用(公債利子)を加えた経常費用と港湾経営収益とを対比した経常損益でみると,利益を計上しているのはわずか3港にすぎず,収支比率は約200となっている。
  企業会計方式により試算した主要8港の財政状況の推移は, 〔II−(III)−10表〕に示すとおりであるが,41年度における欠損額約48億円,収支比率176が52年度には欠損額約147億円,収支比率が143となっており,収支比率は良化の方向にあることが認められる。
  しかし,料金の適正化等による収入の増加の努力がなされている反面,費用の増加も大きいので,年女欠損額は増加しており,財政状況は依然としてひっ迫していると言えよう。


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