2 海洋汚染の現況と対策


(1) 海洋汚染の現況

  海上保安庁が,我が国の周辺海域において確認した海洋汚染の発生件数をみると,54年は1,733件でピーク時の48年(2,460件)に比べれば減少しているが,未だに高い水準にあり,また53年(1,437件)に比べると増加していることからみて,今後も予断を許さない状況にある。海洋汚染発生確認件数のうち油によるものは,54年で全体の7割以上を占め,このうち約半数が故意排出又は取扱不注意によるものと判明している。特に,55年3月には大型タンカーからの廃油(スラッジ)の違法投棄事件が発生し,社会的に大きな問題となった。
  また,外国船舶による海洋汚染発生確認件数は,54年には239件となっており,港則法に定める特定港に入港した船舶の総隻数に対する海洋汚染発生確認件数の割合でみると,外国船舶の場合は日本船舶の場合の約8倍となっている。
  なお,54年に海上保安庁が実施した廃油ボールの実態調査によると,依然として南西諸島等黒潮流域において廃油ボールの漂流・漂着が多い。
  一方,54年度に海上保安庁及び気象庁が実施した海洋汚染の調査によれば,日本周辺海域及び西部北太平洋における油及びカドミウムの全体の濃度は,前年度並みであり,総水銀濃度は,場所により前年度よりも高い値のみられる場合もあるが,全体的に低くなっている。

(2) 海洋汚染防止対策

  海洋汚染の防止については,従来から海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律に基づき,@船舶からの油及び廃棄物の排出を規制するとともに,この規制を担保するため,ビルジ排出防止装置の設置,廃棄物排出船の登録等を義務付け,また,A大量の油の流出に対処するため,タンカー所有者等に対しオイルフェンス,油処理剤等の備付けを義務付け,更に,5,000総トン以上のタンカー所有者には油回収船等の配備を義務付ける等の措置を講ずること等により,積極的に推進してきているところである。
  また,これと並行して,排出規制を合理的に実現するための施策として,船舶内において生じる油性バラスト等の廃油を処理するための廃油処理施設,海洋性廃棄物の処理施設,廃棄物を埋立処分するための廃棄物埋立護岸の整備を図っている。このほか,海洋汚染の防除事業として,港湾区域内では有害物質等を含む堆積汚泥の浚渫事業,港湾区域内及び一般海域においては浮遊ごみ及び浮遊油の回収事業を実施しており,また,54年度より大阪湾及び広島湾において底質浄化に係る海洋環境整備パイロット事業の実施設計調査を行っており,周防灘及び伊勢湾においても55年度から同様の調査に着手している。
  一方,海洋汚染の防止に関する法令の励行を確保するため,海上保安庁は引き続き海上公害関係の資機材の整備,分析鑑定機能の充実等監視・取締体制の強化を図っている。特に,先に述べた大型タンカーからのスラッジの違法投棄事件の発生にかんがみ,海上保安庁はタンカールート海域及びタンククリーニング海域におけるヘリコプターとう載型巡視船の配備を増強する等監視取締りを一層強化しており,また,運輸省はこの種事件の再発を防止するため,大型タンカーの所有者等に対し,船内における油の取扱作業の適正な実施,特にタンククリーニング作業に関する請負作業契約の適正化及び監督体制の強化について,改善を行うよう強く指導している。
  また,外国船舶による海洋汚染の多発に対処して,海上保安庁は外国船舶に対する監視取締り及び指導の強化に努めるとともに,公海上の違反事犯についても,旗国への通報により旗国側の適切な措置を求めているが,この制度には限界があるので,国連海洋法会議においてほぼ合意が得られている200海里排他的経済水域における沿岸国の海洋汚染取締り権限の早期確立が望まれる。
  更に,海洋汚染の防止は国際間の協力により推進すべき問題であり,我が国としても国際的動向に対応して規制の強化を図っているところである。
  1972年の「廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約」の批准のため,同条約の国内法化を主な内容として,海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律の一部が第91回国会で改正され,昭和55年5月に公布された。今回の改正では,@海洋環境保全上特に注意を要する廃棄物の船舶からの排出について「海上保安庁長官の確認制度」を設けるとともに,A航空機からの廃棄物等の排出を新たに規制し,B船舶又は海洋施設における廃棄物等の焼却についても排出の規制に準じた制度を設けること等により,条約の批准に必要な国内法制の整備を図り,加えて,我が国独自の規制強化として,Cこれまでビルジの排出規制の対象外であったタンカー以外の船舶で総トン数300トン未満のもののうち,総トン数100トン以上の船舶を新たに規制の対象とした。
  また,軽質油,ばら積有害液体物質等を新たに規制対象物質に加えること,一定タンカーに分離バラストタンク方式(SBT)等を義務付けること等を内容とする「1973年の船舶からの汚染の防止のための国際条約に関する1978年議定書」についても,これを早期に批准・国内法化するための検討を進めているところである。
  更に,今後海上交通,漁業,海底資源開発,海洋レクリェーション等各種の分野において海洋の利用・開発が進むものと予想されるが,その利用・開発の影響が広範囲に及ぶという海洋の特殊性を考慮し,広域的,長期的視点に立脚して海洋の利用・開発と海洋環境の保全との調和を図る必要がある。


表紙へ戻る 次へ進む