4 不況対策の推進(大幅な設備処理)
48年秋以降の急激な市況の落ち込みの中で,造船各社は激しい受注競争を展開し,一方物価の高騰による材料費の値上がり,人件費の上昇等もあって既契約船についても採算割れが生じたことから,企業経営は次第に悪化し始めた 〔2−3−13図〕。
このため,まず,50年10月より,海運造船合理化審議会は,運輸大臣の諮問に基づき,「今後の建造需要の見通しと造船施設の整備のあり方−長期計画と当面の対策−について」の審議を行い,経済協力開発機構(OECD)造船部会が51年5月に造船不況対策を講じる際の原則として採択した「造船政策に関する一般的指導原則」を尊重しつつ,51年6月に答申を行った。
本答申は,60年においては従来のような大量の需要は期待できないが,ある程度回復するという長期的展望を示しつつ,55年における我が国造船業の建造需要量を650万総トン程度,これに見合う操業度を49年度比65%程度と予測し,これを目途として造船能力の所要の調整を図るべき旨提言した。
これを受けて,政府は,造船施設の新設等の抑制,雇用安定のための対策等を講じつつ操業度の調整を行うこととし,51年11月には1万総トン以上の船舶を建造し得る企業40社に対して,また,52年11月には5,000総トン以上の船舶を建造し得る企業のうち45社に対して,建造需要量の減少を踏まえた上で企業規模別にその翌年度及び翌々年度の操業量の上限を示す勧告を行った。
しかしながら,52年度以降,円相場の高騰による受注量の減少に加えて,船価の低落,既契約船のキャンセル,更にドル建て契約船の為替差損が発生し,造船業の経営に新たな負担が加えられた。また,発展途上国の造船業の台頭がみられる等,我が国造船業をとりまく環境は一段と厳しさを加えた。特に,外航船を主体とする5,000総トン以上の建造施設を有する造船業においては,大幅な需給の不均衡が長期にわたって継続するものと予想され,構造不況の様相を呈してきた。このため,企業の経営状況も急速に悪化し,企業体力の劣る中手以下の造船企業には倒産が相次いで発生した。これに対し,政府は,連鎖倒産の防止対策を講じるとともに雇用保険法,特定不況業種離職者臨時措置法に基づき,造船業に係る雇用対策を強力に推し進めたが,こうした措置に加え,これら造船業の不況の克服と経営の安定化を図るため構造的な需給不均衡の解消のための抜本的な対策の実施が強く要請されるところとなった。
このような情勢にあって,運輸大臣は,53年5月,海運造船合理化審議会に対し,「今後の造船業の経営安定化はいかにあるべきか」について諮問し,同審議会は,同年7月,「今後の造船業の経営安定化方策について」を答申した。
本答申の内容は,5,000総トン以上の船舶を建造し得る造船台又はドックを有する61社の年間建造能力を標準貨物船換算トン数(CGRT)で980万トン程度,60年における外航船建造量見通しをCGRTで640万トン程度,その需給ギャップをCGRTで340万トン程度と推定するとともに,造船業の不況克服と経営の安定化のため,
(1) 過剰となる設備,CGRTで340万トン程度(現有能力の35%)を早急に処理する必要があること
(2) 設備処理を行っても当面の需給ギャップは解消されないので,過当競争による経営の不安定化を避けるため操業調整を行う必要があること
(3) 設備処理等とあわせて行うべき措置として,金融対策,需要創出,事業転換対策,雇用対策,連鎖倒産防止対策等の措置を講ずる必要があることを骨子としている。
一方,石油危機以降の内外の経済事情の著しい変化により,構造不況におちいった産業について,不況の克服と経営の安定化を図ることを目的とする特定不況産業安定臨時措置法が53年5月公布されていたが,造船各社は前記の答申を踏まえ,同法に規定する特定不況産業の指定の申出をし,53年8月,政令により特定船舶製造業(5,000総トン以上の船舶の製造をすることができる造船台又はドックを使用する船舶製造業)は,特定不況産業に指定された。
これに伴い,運輸大臣は,特定船舶製造業の安定基本計画を定めるため,再び海運造船合理化審議会に対し同計画策定に関する諮問を行い,同審議会の答申に沿って,同年11月,おおむね次のような内容の安定基本計画を定めた。
(1) 処理を行うべき設備の種類は,5,000総トン以上の船舶を製造し得る造船台又はドックとする。
(2) 処理を行うべき設備の年間生産能力の合計は,CGRTで340万トン程度とする。
(3) 58年6月30日までの間,設備の新設,増設及び拡張を行わない。
こうした措置に加え,政府は,特定船舶製造業における計画的な設備処理を促進するため,53年11月に公布された特定船舶製造業安定事業協会法に基づき,同年12月,特定船舶製造業安定事業協会を設立し,これに特定船舶製造業の用に供する設備及び土地の買収等を行わせることとした。
これらの措置に基づき,特定船舶製造業を営む各事業者は設備処理の実施に努め,54年度末までに特定船舶製造業安定事業協会に売却したもの(CGRTで49万トン)を含め,CGRTで358万トン,達成率で105%の設備処理を実施した。
また,新規需要の創出を図るため,官公庁船の代替建造,計画造船制度の強化による新船建造,船舶整備公団の事業拡充,発展途上国に対する経済協力による船舶輸出,老朽船の解撤等が行われた。
しかしながら,これら需要創出を図ってもなお当面の需給の不均衡が解消されないため,運輸大臣は,53年12月,再々度,1万総トン以上の船舶を建造し得る40社に対し,54,55年度の操業度について,ベースをCGRTに変更して勧告を行った。その後,54年8月にはこの勧告に代わって,独占禁止法に基づく不況カルテルが発足し,56年度末まで操業量の調整が行われることとなっている。
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