5 国際協調


  37年頃から西欧造船諸国においては,自国の造船不況を反映して国際間で造船業の協調を図り,公正な競争を行おうとする気運が高まり,経済協力開発機構(OECD)は,38年4月,OECD諸国の造船業の不況対策を検討する工業委員会第5作業部会を発足させた。世界最大の造船国であった我が国は,OECDに未加盟であったにもかかわらず,その強い要請により,38年5月開催された同部会にオブザーバーとして参加した。その後,39年4月に正式にOECDに加盟するに及んで,我が国は同部会の重要な構成メンバーとなった。また,同部会は,41年4月に「造船業の正常な競争条件をわい曲する全ての要因の累進的削減のための勧告を立案する」ことを目的とした理事会直属の第6作業部会(造船部会)に改組された。
  OECDの場における話合いの成果は,44年5月の「船舶の輸出信用に関する了解」による輸出船の延払い条件の統一,47年10月の「造船業の正常な競争条件の障害の漸進的除去に関する一般取極め」の決議等の形で実り,我が国も,この「了解」及び「取極め」に協力し,必要な国内諸措置を講じてきた。
  また,理事会は,この「取極め」の実施に関して,「世界造船市場における需給均衡を維持することが,造船界に対する助成措置の漸進的削減を容易にする主要因であること」を認め,造船部会に対し需給状況を詳細に検討し続けることを指示した。この指示に基づいて,47年12月に造船部会の下部機構として,需給見通しのためのサブグループが設置され,世界の需給動向に関する討議が進められた。同グループは,48年5月,50年時点における需給見通しを作成したが,この結果,50年の需要量は供給量を相当下まわるものとなったため,我が国造船業のシェアの拡大を警戒していた西欧諸国においては,我が国に対し何らかの具体的な生産調整策を要求する動きが生じてきた。こうした情勢のもとで48年に第1次石油危機が発生し,その後の世界的な需給不均衡に対処して,造船部会において造船不況問題が検討され,51年5月には各国が造船不況対策を実施する際に遵守すべき事項を定めた「造船政策に関する一般的指導原則」を採択し,各国は,それぞれの国内事情を考慮しつつ,造船能力の削減をはじめとする造船不況対策を講じることとなった。
  我が国は,これら国際的な動向を配慮しつつ,種々の不況対策を講じたが,51年秋頃から日本とEC間の貿易不均衡問題の一環として造船問題が取り上げられ,我が国と同様に造船不況に悩む西欧造船諸国は,我が国造船業の受注活動に対し,特に船価面について非難を強め,更に,両者の受注シェア均等配分と我が国の受注抑制を要求する等,本問題は政治問題化するに至った。
  これに対し我が国は,新造船の船価の引上げ,特定国からの集中的な受注の自粛等の措置をとることとし,具体的には「船舶輸出に対する当面の措置」を定め,翌52年1月1日以降2年間に輸出契約が締結される100総トン以上の鋼船の船価を引上げる船価指導等の措置を講じた。
  我が国のこれらの措置や生産調整,設備削減の努力にかかわらず,その後西欧造船諸国は,短期的とはいえ船価助成等の助成措置の導入を図っており,これら助成措置は,各国が構造改善を実施する際の過渡的な措置である限りやむを得ない面もあるが,これにより,我が国造船業に影響を与えることが懸念される。


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