5 空の安全システムの順調な充実


  航空交通の順調な発展は,その安全を確保する各種システムの近代化抜きには達成され得ない。46年の雫石事故を教訓としつつ,航空機の高速化及び大型化並びに航空交通量そのものの増加等に対応して空のより一層の安全を図るため,各種の航空保安システムは,この10年,飛躍的に整備され,その充実をみた。
  なお,雫石事故直後,その原因にかんがみ,防衛庁の航空機の訓練空域を航空路等と分離して設定し,防衛庁訓練機と民間航空機との衝突の予防を図ることとした。更に,50年には,航空機の操縦者等の機外見張り義務の明確化をはじめとして,航空交通ルールの全般的強化を主な内容とする航空法の一部改正が行われ,航空保安システムの整備と相まって安全確保に寄与している。

(1) 航空路の安全

  航空交通の安全を確保し,その秩序の維持を図るため,航空機に対し飛行経路,高度等を指示する管制業務は,従来,航空機からの位置通報に基づいて行っていた(いわゆる耳で聴くマニュアル管制方式)。しかし,43年には箱根において航空路監視レーダー(ARSR)の運用を開始し,表示装置に映し出された飛行中の航空機を目で見て行うことによって,より正確に管制することのできるレーダー管制方式への移行が始まった。ARSRはその後,三郡山,山田,八重岳,上品山等に次々と整備され,現在では,その覆域はほぼ全国をカバーするに至っているが,更に,安定性,信頼性を高めるために,その覆域の二重化の整備を上越,宮古島,四国ですすめている 〔2−4−13図〕
  また,コンピューターにより,飛行計画情報を処理し,表示装置に航空機の便名,高度,速度等を表示し,「見て読む」管制を可能とすることによって管制業務を支援する飛行計画情報処理システム(FDP)及び航空路レーダー情報処理システム(RDP)の整備を順次行ってきている。

  更に,航行中の航空機に対して,気象情報等航行の安全に必要な情報を正確かつ迅速に提供する航空路情報提供業務(AEIS)を53年から東京航空交通管制部において運用を開始し,現在では各航空交通管制部で運用している。
  このほか,超短波全方向式無線標識施設と距離測定装置を組み合わせたもの(VOR/DME)は,航空機に対し,より正確な方位及び距離情報を提供できることから,従来の無指向性無線標識施設(NDB)にかえて航空路を構成する施設として順次整備してきている。
  これらのVOR/DMEの整備と相いまって,53年からVOR/DMEを結んだVOR航空路の設定に本格的に取り組み,一方通行化して交通のふくそう化を避けるとともに,経路の短縮によるエネルギーの節約を図っている。

(2) 空港周辺空域の安全

  空港周辺を飛行する航空機をレーダー管制により安全かつ効率よく処理するため,空港監視レーダー(ASR)を39年から東京国際空港で運用していたが,その後,大阪国際空港等交通量の多い空港から順次整備し,現在では14空港で運用している。また,航空路のRDPに相当する機能を有するターミナルレーダー情報処理システム(ARTS)を51年から東京及び大阪両国際空港において運用を開始したが,更に新東京国際空港においても55年度から運用を開始すべく整備をすすめている。
  更に,航空機が空港へ進入するに際し,滑走路への適正な進入角度,進入方位を指示する計器着陸装置(ILS)をジェット機就航空港から順次整備し,現在22空港で運用しているほか,着陸の際,滑走路への進入角度を示す進入角指示燈,離着陸の際滑走路の形状等を示す滑走路燈等の照明施設の整備も順次進めている。
  このほか,VOR/DMEは航空機が離着陸する上でも重要な施設であるので,現在定期便の就航する39空港に整備している。
  加えて空港周辺の気象や滑走路の状況等の情報を提供する飛行場情報提供業務(ATIS)を48年から東京及び大阪両国際空港において運用を開始し,現在では8空港において運用している。
  このように,航空路及び空港周辺空域の安全を確保するための整備は年々順調に行われており,現在では,10年前の約1.5倍に増加した航空交通量に対応できる体制が整備され,航空機の安全かつ円滑な運航に寄与している。

(3) 航空事故発生状況

  44年から54年の間の定期航空運送事業に係る旅客の死亡(病死を除く。)を含む事故の発生状況は 〔2−4−14図〕のとおりで,旅客輸送量が年々増大しているにもかかわらず,46,47の両年を除けば旅客死亡率は,世界の動向と対比して常に低い値となっており,特に死亡率ゼロの年が計7か年を教えている。
  また,定期航空運送事業機のほか不定期航空運送事業機,航空機使用事業機及び自家用機を含めた全体の事故発生件数は 〔2−4−15表〕のとおりで,この間,航空機の総機数は年々増加しているが,事故件数は年々の変動はあるものの特に増加傾向を示していない。


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