4 近海海運問題
近海海運事業者は,3,000総トン程度の小型の船舶を用いて,日本の近隣諸国との間の航路を経営しており,その大宗貨物は南洋材である。近海海運業は,相手国の港湾事情から船舶の大型化に一定の限界があること等の制約もあって,合理化及びコストの低減を図ることが容易でなく,国際競争力の喪失という現在外航海運業一般がかかえている構造的な問題が,より顕在化している分野である。加えて,その大宗貨物である南洋材の輸送需要が,我が国の住宅建築の動向や木材市況に左右され,変動が激しいため,しばしば船腹需給の不均衡が発生し,ひいては運賃市況が極めて不安定な分野となっている。
例えば,第1次石油危機後の50年には,南洋材の輸入量の大幅な減少に伴い,著しい船腹過剰の状態が現出し運賃市況は暴落した結果,日本船の総撤退論が論じられるまでの未曽有の不況に見舞われた。その後,市況は回復に向ったものの円相場の高騰の影響を受ける等,近海海運業の経営環境は,引き続き厳しい状況下におかれた。
最近に至り,近海船建造抑制政策及び53年度以降実施されている解撤(輸出)建造方式による船舶整備公団との共有船の建造政策が効を奏してきたこと等により,船腹の需給が均衡しつつあり,近海海運業の経営は落ち着きを示しつつある。しかしながら,近海海運業の経営基盤の脆弱性に加え,日本船の老朽・不経済化が顕著となっており,これが近海海運業における国際競争力低下の要因となっているので,安定輸送を確保する観点から,今後引き続き船腹の調整を行いつつ,近海船の代替建造を早急に進めていく必要がある。
また,南洋材の輸送については,資源保有国による輸出制限の動きもみられ,これらの国による自国船優先主義政策が強化される傾向にあるため,我が国の近海海運業の将来は,決して楽観を許さないものとなっており,関係者の努力が今後とも引き続き期待されるところである。
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