4 アメリカをめぐる海運政策問題
アメリカは,世界最大の貿易圏であるが,その海運は必ずしもこれに対応した発展をしていない。このため,従来よりアメリカは,自国海運業の振興策を講じてきている。
また,定期船海運に関するアメリカの海運政策は,定期船同盟の活動を認める代りに政府介入を行う等,地の先進海運国で長年培われてきた海運慣行及び海運政策になじまない規制をしているが,このような規制は,外国船にも適用されるため,外国政府との間で管轄権の問題等種々の問題を引き起こしている。
このため,我が国を含む先進海運国グループ(いわゆるCSG諸国)は,定期船海運政策に関する調整を図るべく,アメリカ政府との間で協議を行ってきた。この協議でアメリカ側から同国の国内法の運用に当たっては,海運の国際的な側面について配慮する確約を得たことは大きな成果と考えられるが,国際海運政策の相互の調整の観点からアメリカの海運政策の見直しを促進させるというCSG側の期待はまだ実現していない。
一方,アメリカ国内においては,数年来,海運政策の見直しが行政府及び立法府のそれぞれで行われている。
行政府における海運政策の見直しの結論は79年7月に発表されたが,そこで打ち出された政策は従来の政策とはあまり変らないものにとどまった。
立法府においては,海運政策の基本にかかわる多数の法案が毎年議会に提出されている。このうち79年に成立したもののうち特に重要なものは,「届出運賃違反規制法」である。同法は,外国海運企業を含め,届出運賃違反等の不正行為につき罰則の強化を図るとともに,連邦海事委員会に運賃の差止め,在外書類提出命令等の権限を与えることにより,実効ある取締りを図るものである。
80年に審議されている法案のうち特に注目すべきものは,アメリカの海運政策を総合的に見直すことを目的として提案された「オムニバス法案」と「外航海運法案」である。前者は,海運規制,海運振興,税制等を内容として下院に提出されたものであり,後者は,海運規制を内容として上院に提出されたものであるが,いずれも今年中に成立する見込みはない。
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