1 船舶検査と安全基準


(1) 船舶検査の概要

  船舶は,気象・海象による特別な危険にさらされることが多く,航海期間も長く常に陸上から孤立して行動しなければならない。したがって海上における人命の安全を確保するためには,船舶の構造が堪航性を保持するために十分であることと,万一非常の危難に遭遇した場合にも人命の安全が保持できるよう必要な設備が船頭に備えられていることが要求される。このため,船舶安全法に基づき,船舶の堪航性及び人命の安全を保持することを目的として,船舶に必要な構造及び設備について技術基準を定め,検査を行うことによりこれを励行せしめている。
  船舶検査は,軍及び日本小型船舶検査機構により実施されているが,その種類及び昭和54年度の検査実績は 〔II−(V)−4表〕のとおりである。

  船舶の構造,設備等に関する基準強化の要請は,以下の点について近年急激に高まっており,これらの要請に対応した基準の制定改廃と,これを坦保するための検査体制の充実を図ることとしている。
 @ 政府間海事協議機関(lMCO)における基準強化への迅速な対応
 A 放射性物質の船舶による輸送量の増大への対応
 B 激増する危険化学物質の船舶輸送需要への対応と,新規危険化学物質に対する規制基準の整備

(2) 船舶検査体制の充実

  船舶検査実施のため全国59か所の海運局等に242名(うち沖縄5名)の船舶検査官を配置し,また,小型船舶の検査実施のため日本小型船舶検査機構の33か所の支部,支所及び分室に184名の船舶検査員を配置し,船舶検査を実施している。
  更に,検査業務の合理化を図るため,認定事業場制度及び型式承認制度がとられており,54年度末までに,全国で33物件に関し156事業場が認定された。また,型式承認された物件は1,795件である。
  なお,小型漁船の適用拡大及び技術革新に伴う船舶の専用化等に対処するため,船舶検査官の増員,認定事業場制度及び型式承認制度の拡大,予備検査対象品目の拡大,検査事務の合理化等により検査体制の充実に努めている。

(3) 船舶の安全基準の整備強化

  IMCOにおいて,1974年に採択された「1974年の海上における人命の安全のための国際条約」(以下「1974年の条約」という。)は,80年5月25日に発効した。これに先立ち第91回国会において,同条約及び「1974年の海上における人命の安全のための国際条約に関する1978年議定書」(以下「1978年の議定書」という。)の批准が承認され,昭和55年5月15日に1974年の条約に加入した。これら1974年の条約及び1978年の議定書は,1960年の海士における人命の安全のための国際条約に比べ,旅客船及びタンカーの火災安全措置,タンカーの操だ装置,航行の安全のためのレーダーの備付け等の要件及びばら積みの穀類の運送方法等に関する規定が強化されている。これら条約の規定を実施するため,昭和55年5月には,船舶防火構造規程を廃止し,船舶防火構造規則を新たに制定するとともに,船舶設備規程,穀類その他の特殊貨物船舶運送規則,船舶消防設備規則等の一部改正を行い,これらの規定を取り入れた。

(4) 船舶の安全確保に関する国際協力

  前述のとおり,「1974年の海上における人命の安全のための国際条約」が昭和55年5月に発効したところであるが,現在同条約の改正作業がIMCOにおいて行われている。主な改正項目は,操だ装置,貨物船の防火構造,救命設備,無線設備及び衝突予防装置等の航行設備についての規定の追加及び見直し並びに危険物ケミカルばら積船構造設備規則及び液化ガスばら積船構造設備規則の条約への取り入れである。
  このほか,@原子力船の安全基準の作成,A海上危険物規則の改正,B危険化学品ばら積船規則の改正,C使用済核燃料運搬船の基準の作成,D復原性基準の改正,E操縦マニュアルの改正,F船内騒音基準の作成等について作業が行われており,我が国も提案を行う等積極的にこれに参加している。


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