第2章 安定経済成長下の輸送動向

  昭和48年秋の第1次石油危機を契機として戦後最大の長期不況に陥り,49年度には戦後初のマイナス成長を記録した我が国経済は,50年度以降徐々に安定成長への調整軌道に移行した。51年度から54年度にかけては実質GNPで年率5%台の成長が続いた。しかしながら,53年末からの第2次石油危機を契機として,再び景気後退を余儀なくされ,52年度から54年度までの内需主導型の経済にかわり,再び55年度においては,輸出に支えられた外需依存型の経済になった。55年度においては,民間設備投資は53,54年度と比べると伸び率は半減し,全体としてはなお堅調さを見せたものの,中小企業においては不振であった。更に,公共投資,個人消費,民間住宅投資の停滞等から,実質GNPの対前年度比伸び率は3.8%に低下した。ちなみに高度経済成長期の40年度から48年度においては,実質GNPは平均年率9.5%増であった。このように,50年度以降の安定経済成長下にあっては,実質GNPの伸びの鈍化,とりわけ55年度の不振が自立っている。このような我が国経済の動向は産業活動と国民生活に大きな影響を与えており,53,54年度と順調に発展してきた国内輸送も,55年度は不振であった。輸送機関サイドにおいては,それぞれの特性に応じた輸送分野の分担が進展するとともに,競合する輸送分野での競争が強まっている。一方,利用者サイドでは輸送機関の選択の幅が広がるとともに,「より速く,便利で,価格とのバランスのとれた」輸送サービスヘの選好が進んでいる。輸送力不足に対応して施設整備を中心として輸送力増強が図られた高度経済成長期に対し,安定経済成長下においては,既存施設の有効利用とともに,輸送の連続性の確保,輸送サービスの質的改善が急務となっている。
  また,輸送需要の伸び悩みに対応して,事業・経営基盤の充実を図るべく,輸送・事業の一層の合理化,効率化が要請されている。


第1節 旅客輸送

第2節 貨物輸送