2 運輸事業の収支状況


  運輸事業の経常収支率の推移をみると,54年度まではおおむね上方にシフトしてきたが,55年度においては陸上輸送部門を中心に経常収支率が悪化している事業が多くなっている 〔1−3−4図〕

  55年度における事業別の収支状況は 〔1−3−5表〕のとおりである。

  鉄道部門では,国鉄は,55年4月の運賃改定実施にもかかわらず,旅客収入の伸び悩み,貨物部門の減収により,営業収入が対前年度比2.1%増にとどまった。一方,営業費用は,退職手当等を中心とする人件費の増加,電力料金の大幅値上げ及び燃料油の高騰等による物件費の増加等により対前年度比6.0%増となった。また,営業外損益は,長期負債償還等による営業外費用の増大のためマイナスとなっている。この結果,経常損失は拡大した。大手民鉄14社は,電力料金の値上げ等により営業費用が大幅に増加し,営業利益は24.9%減となった。経常損益は,営業外損益が支払利息の増加等により赤字幅が拡大したこともあり,赤字となっている。中小民鉄67杜は,営業収入が伸びたものの諸経費の増大もあり,営業損益はほぼ前年度並みとなっている。公営鉄道9社は,営業費用の伸びが営業収入の伸びを上まわったため,営業収支は悪化している。
  自動車部門では,公営乗合バス35社は,運賃改定により運送収入が増加したものの資金繰りの悪化等に伴い営業外収入が大幅に減少したため,経常損失は対前年度比66.9%増となった。民営乗合バス48社は,運賃改定に伴う増収効果もあり営業収入が対前年度比4.5%増となったが,それを上まわる燃料油脂費など諸経費の増大があり営業損益は悪化している。路線トラック50社は,燃料費,金融費用の増大などにより経常損益がマイナスに転じている。区域トラック40社は前年度と同様となっている。
  海運部門では,外航海運助成対象会社41社の営業収入は対前年度比17.2%増となった。これは、54年度に比べて円高であったことによるドル建て運賃の円貨換算額の目減り,石油消費節約の影響を受けた石油の荷動き量減少によるタンカー市況の低迷等のマイナス要因があったものの,穀物の局地的不作に起因する穀物輸送量の増価により貨物船市況が堅調に推移したこと,我が国の自動車輸出が好調であったこと等の一時的要因に支えられたためである。一方,燃料油価格の大幅な上昇等により営業費用は対前年度比17.7%増となり,営業損益は前年度並みとなった。経常利益は,金利水準の低下等による営業外損益の赤字幅縮小により,対前年度比27.5%増となった。内航海運は,営業収入が伸びたものの,燃料油価格の高騰など諸経費の増大もあってほぼ前年度並みとなっている。長距離フェリー14社は,運賃改定もあり営業収入は増加したが,燃料費など諸経費の増大により約15億円の営業損失を出し,また,経常損益でも前年度に引き続き大幅な赤字を計上している。
  造船業は,大規模改造工事の増加による修繕部門の好調に加え,過剰設備の処理や人員削減による縮小均衡体制への移行の効果もあり,55年度における大手10社(兼業を含む)の営業収入は対前年度比10.1%増となり,経常損益でも黒字に転換したが,新造船部門については依然として赤字基調にある。
  航空運送業(主要3社)は,燃料費,空港整備負担金の増大により営業費用が対前年度比15.4%増となったが,輸送量減にもかかわらず運賃改定の増収効果により営業収入が大幅に伸び,営業損益はプラスに転じている。このため,機材の更新,増強等に伴う支払利息の増加等により営業外損益はマイナスとなったものの,経常損益はプラスに転じている。
  ホテル業196社は,諸経費節約努力もあり全体では経常損益が黒字となったものの,なお赤字となっているものが多い。
  経常費用構成は 〔1−3−6図〕によりみると,運輸事業は他の産業と比べて人件費の割合が大きく,労働集約型産業であることがうかがえるが,この傾向は陸上輸送部門において顕著である。また,海運業,航空運送業では,動力・燃料費が人件費を上まわっており,省エネルギー対策が差し迫った課題となっている。


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