1 国際観光のあり方


  我が国の近年における飛躍的な経済発展に伴い,我が国経済社会の動向は世界に大きな影響を与えるようになってきているが,我が国と諸外国との間に各種の摩擦も生じてきており,その対応が大きな問題となってきている。この摩擦問題においては,諸外国の我が国に対する理解の不足,「フジヤマ,ゲイシャの国」といった前近代的な日本のイメージが強いところに日本の輸出商品を通じて「すぐれた工業国」という現代的イメージが浸透しつつあって,この2つのイメージがうまくつながらないため,日本は各国民にとって心理的に受け入れがたい不可解な国という印象を持たれていることが,なお一層摩擦を増幅しているものとみられる。
  そこで,昭和56年5月から7月にかけて,各界の有識者の参加による懇談会を開催し,国際間の相互理解を増進させるための今後の我が国の国際観光のあり方の基本的方向及びそのための具体的な方策について検討を行った。
  国際観光は,国民がその国を実際に訪れ,その国の事情を自らの自で確かめ,その国の人々と対話し,心と心のふれあいを得る,こうして得た知識と体験に基づいて他国を理解するものであり,国際間の相互理解を高めるうえで非常に有効なものである。このことは 〔1−8−7表〕からも明らかである。訪日前の外国人の我が国に対するイメージとしてかなりみられた「不可解な国」,「ゲイシャで有名な国」,「外国人に閉鎖的な国」というイメージが訪日後はほとんど消え,訪日前には24%で3位だった「親切で友好的な国民の国」というイメージが61.5%でトップになるなど,国際観光が,訪問国についてのイメージの改善,ひいては国際理解の増進に大きな影響を持っていることがわかる。

  従来の我が国の国際観光政策は,外貨の獲得と国際間の相互理解を二大目標としてきた。そして,外客誘致のあり方は,専ら外客の数を増やすという量的な面に主眼が置かれていたため,外客の異国趣味に訴える日本紹介が中心となっていた。我が国に対する理解が十分でない諸外国に対し,このように異国情緒を強調した日本紹介を行うことは,我が国を実際に訪れる人はある程度正しい理解を得ることができるが,訪日することのないほとんどの人々にとっては,かえって我が国の社会・文化面への理解のギャップを大きくするおそれがある。更に, 〔1−8−8表〕にみられるように,貿易収入に対する国際観光収入のウェイトは極めて低くなってきており,一方,国際間の相互理解の必要性は前述のようにますます高まっている。

  したがって,今後の国際観光のあり方は,国際間の相互理解を増進させるためには,どのような誘致を行うべきかという質的な面に重点を移さなければならない。このため,運輸省としては,今後,次のような方向で国際観光の推進を図ることを考えている。

(ア) 現在の日本の全体像の紹介

  我が国の紹介を行う際には,我が国の一面,特に伝統的文化,風俗等の日本的特殊性を強調するのではなく,現在の日本の産業・社会・文化・生活の全体像を多面的に紹介していくことが必要である。伝統文化等の紹介に当たっても,現在の日本とのかかわりを明らかにする工夫が必要である。このため,@産業視察ツアー・社会文化施設見学ツアー・民宿ツアーの促進,A海外における関係企業等による統一キャンペーンの実施を検討する。

(イ) 国民との心のふれあいの重視

  我が国を訪れた外客が,日本人の生活の中に入って,日本人の生活を目で見,体験し,また対話や討論を通じて日本人と心のふれあいをもち,日本人の物の考え方を理解することが望ましい。このため,@ホーム・ビジットやホーム・ステイの拡充,A国際交流の場としての「インターナショナル・コミュニティ・センター」の設置,B国際会議開催等の促進を検討する。

(ウ) 外客の独り歩きのための環境作り

  外客が,ガイド付きの団体旅行に頼らず独り歩きでき,日本の様々な面に容易に接することができるようにするための環境作りをする必要がある。このため,@外国語道路標識,案内標識等の整備,A外客向け情報ネットワーク(「i」システム)の整備,B「トラベルフォン」の設置,C外客向け「タウン情報誌」の発行を検討する。

(エ) アジアの重視

  アジア諸国は,我が国にとって政治・経済・文化等あらゆる分野でその関係を一層緊密化していかなければならない。これらの国との観光往来,スポーツ交流等を促進し,観光開発のための国際協力を強化する必要がある。

(オ) 国民的協力による推進

  国際観光を通じて国際間の相互理解を深めるためには,広く一般の民間企業や団体,更には国民の一人一人の積極的な参加,協力が必要である。このため,上記の諸施策を実現するための所要資金を広く国民に拠出してもらい「国際観光基金(仮称)」の創設を検討する。

(カ) 国際社会に通用する国民の育成

  国際観光が国際間の相互理解の増進の面で効果をあげるには,国民一人一人が国際感覚を身につけた人に成長する必要がある。

(キ) その他

  その他,外客の訪日旅行を容易にするために,航空運賃や宿泊飲食費等の外客の旅行経費の軽減を図る必要がある。


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