4 自動車国際問題の展望と国際的活動への参加
自動車の安全・公害基準及び認証制度は,各国ともそれぞれの国民性など社会的条件を背景に,交通環境を反映して制定されてきたもののであるため,国際的には必ずしも調和と統一が図られていなかった。しかしながら,自動車貿易の拡大など自動車をめぐる国際化の進展に伴い,市場開放問題の根本は各国の基準・認証制度の相違にあるとして,国際商品である自動車の生産,流通,使用を実質的に規制し,時として阻害する各国の基準,認証制度を調和し,統一化する必要性についての認識が各国で次第に高まっている。
現在,基準等の国際的統一化に中心的役割を果たしているのは,国連欧州経済委員会自動車安全公害専門家会議(ECE・WP29)であり,アメリカを含むECE加盟国など主要自動車生産国が参加し,安全,公害,省エネルギーの各基準,認証制度等について規則作成が進められている。我が国も52年から毎回出席し,親則作成の動向を把握するとともに,各国と情報交換を行っている。なお,これまでに公布された45項目のECE規則は,欧州諸国において国内法規に取り入れられ,相互認証制度を構成している。
アメリカにおいては,これまで独自の基準を制定する傾向が強かったが,56年1月のレーガン新政権の発足に伴い,自動車産業再建策の一環として,安全・公害基準等の緩和について検討を始めるとともに,自国メーカーのワールドカー構想を側面から援助するため,ECE・WP29等の場で基準,制度等の国際的統一化等をより一層積極的に推進することが予想される。ECEの統一規則作成の作業は,アメリカの積極的参画を契機に今後一層活発化するものと見られ,我が国としても従来以上に積極的に参加していくことが望まれている。
また,欧米間との自動車貿易摩擦問題については,アメリカ議会が54年の対日貿易報告書(第1次ジョーンズレポート)において指摘した我が国市場の閉鎖性についての認識を55年の第2次報告書では改め,日本市場の広範囲な自由化,審査手続の改善等を評価するなど,一部には正しい認識が拡がりつつあり,大勢としては,我が国が輸出台数を自主規制することで一応の解決をみた。しかし,今後とも輸入車に対する我が国の検査・審査手続きの合理化についての要請が依然として続くものとみられ,各国の規格・認証制度が貿易上の障害とならないことを自的として制定された55年5月発効の貿易の技術的障害に関する協定(ガット・スタンダード・コード)に基づく事前通報制度等を活用する一方,摩擦を未然に防止し,また一旦生じた摩擦を拡大せずに早期に解決するため,日頃から相互の理解を深め,我が国の基準・制度の広報に努めるとともに,今後とも市場開放対策の一環として,検査・審査手続きの合理化を適切かつ誠実に行っていく必要がある。
同時に,前述した自動車の基準・制度等の国際的調和の確保と統一化の推進は,こうした自動車貿易をめぐる国際摩擦の解消に寄与するだけでなく,今や世界一の自動車生産・輸出国である我が国が担うべき国際的役割の一つであり,国際協調を理念とする我が国としては,むしろ今後積極的に参画し,その実現に向って努力することが重要である。これは,また55年10月の運輸技術審議会答申「自動車の安全確保のための技術的方策について」においても,指摘されているところであり,ECE・WP29の場のほか,実験安全車(ESV)会議,国際自動車燃費研究会議,国際自動車検査会議(CITA)等の国際会議を通じて国際協調への寄与を図る必要がある。
また,我が国の安全・公害に関する自動車技術は,国際的に高い評価を得ているところであり,近年モータリゼーションが急速に進展しつつある発展途上国から我が国に対する技術協力要請が増加する傾向にある。要請内容は,基準・制度関係,整備技術関係等いずれも切実な必要性に基づくものであり,今後とも適切に対応し,国際協力の推進を図る必要がある。
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