2 海運企業の経営構造


  外航海運の活動は全世界的な競争市場で行われており,この競争市場への参加は自由で,低い賃金水準の発展途上国船員の乗り組んだ船舶,非商業的な基盤に立つ東欧圏諸国等の船舶,資金力が豊かな香港,ギリシャ船主の船舶など種々の競争者の船舶が世界中から参入し得るため,競争条件は厳しいものとなっている。
  更に,市況は参加が自由な全世界的な市場を前提とするために,各国の政治・経済・社会情勢等に応じて変動し,その動きは不安定で,しかも変動幅は極めて大きなものになっている。
  このため,定期船については海運同盟を結成するとともに,不定期船,油送船については荷主との長期契約締結に努めるなど経営の安定化のための方策を講じているが,定期船においては盟外船の活動により同盟秩序が乱されたり,不定期船,海送船では長期契約締結の際に競争があるのはもちろん,長期契約切れと同時に市況の影響を受けるなど,これらの対策にも限界がある。
  更に,収入の多くが外貨建てであり,これと費用の外貨建ての部分との差額が為替変動の影響を受けることとなるが,近年,為替レートが乱高下するだけに,為替変動が海運企業の損益に与える影響も無視し得ないものとなっている。海運企業としても,定期船及び長期契約を有する不定期船,油送船において通貨変動調整金条項を設定するなど為替レートの変動による経営への影響を最小限にとどめるよう努めている。しかし,競争条件は厳しいため,すべての船舶についてこのような条項を設定し得るものではなく,また,為替変動をすべて吸収し得る条項になっていないことから,為替変動の業績への影響はなお大きなものがある。
  以上のとおり,海運企業の経営構造は,厳しい競争条件下に業績の乱高下要因を内包したものになっている。
  一方,今後外国用船への過度の依存を減らし,日本船を中核とした我が国商船隊を整備していくことが要請されており,老朽化しつつある船舶の代替船はもちろん,更にLNG船,石炭専用船など新たなエネルギー輸送需要に対応した新船を建造する必要があるが,乱高下する海運企業の経営環境の下で,このための巨額な投資を安定的に行っていくには,一時的な好況によってあげた利益を社内に留保して,不況時にあっても船舶建造に当たって必要となる自己資金の手当を可能とする効果的な方策を検討する必要がある。


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