2 海運における南北問題


(1) 定期船同盟行動憲章条約

  海運における南北問題が最初に顕在化した定期船海運の分野においては,定期船同盟(運賃,配船等に関する船社間の国際カルテル)を結成することによって海運秩序の安定が図られてきたが,発展途上国からの同盟制度改善の要望が強まり,国連貿易開発会議(UNCTAD)における討議を経て,74年に発展途上国と先進国との妥協の結果採択されたのが「定期船同盟行動憲章条約」である。
  同条約は,次のような内容を定めたものである。

 @ 定期船同盟の行動に関する準則等の設定

     (ア) 海運会社の定期船同盟への加入の要件の設定
     (イ) 定期船同盟内のプール協定等における輸送配分の決定に当たって遵守すべき原則(貿易当事国船社は対等とし,第三国船社は20%程度とする。いわゆる40:40:20の原則)の設定
     (ウ) 定期船同盟運営に関する定期船同盟と荷主との関係のルール化等

 A 紛争解決手段としての国際強制調停手続の設定

      同条約は,発効要件を充足していないため未だ発効するに至っていないが,EC諸国が共通の条約加入方法に従ってここ1〜2年中にも加入する旨表明しており,また,北欧諸国もECと同様の方式による加入を検討しているので,1両年中にも発効するものと見られている。
      我が国としては,同条約が世界の新しい定期船海運秩序の形成に資するものであり,基本的に受け入れられるものであると考え,条約採択以来一貫して賛成の立場をとっており,現在,同条約へ早期に加入するために検討を進めているところである。

(2) 発展途上国政府による海運への介入

 @ 発展途上国の商船隊の整備

      国連の場で定められた発展途上国の商船隊の整備目標は,80年までに世界の船腹の10%にすることであったが,先ごろ討議された国連新開発戦略においては,次の10年間でその船腹を20%に拡大することが定められた。この発展途上国の商船隊整備それ自体について,我が国はその必要性を認識し,経済・技術協力を通じて海運秩序を考慮しつつ整備に協力している。
      しかしながら,発展途上国はこの戦略を後楯として,自国の商船隊の拡充とともに不定期船海運の分野へ政府が介入することにより,国別輸送シェアを導入(発展途上国による公平な参加の確保)しようとするものであるが,不定期船海運は引き続き自由市場の原理に基づき効率的に運営されることが望ましく,我が国は,他の先進国とともに反対の立場をとっている。
      80年9月に開催されたUNCTAD第9回海運委員会においては,発展途上国から,こうした不定期船輸送分野における自国海運の参入に障壁があり,それは先進国の大手輸出入業者が関与しているためであるという論議が行われた。このため,障壁の有無を判断する材料として先進国の大手輸出入業者の船積実態調査の施行が決議され,その結果に基づく勧告が,81年秋に開催されるバルク貨物輸送問題専門家会合で作成されることになっている。

 A 国旗差別政策

      発展途上国では,自国の貿易を拡大したり,国際収支の改善を図ることをねらいとして,自国関係の輸出入貨物のうち一定割合を自国船へ積み取らせる,いわゆる国旗差別政策をとる例が多く見られる。
      この国旗差別政策は,荷主に対して自国船の利用を法的に義務付けること,自国船が有利に取り扱われるような同盟を認可すること,自国船と外国船を差別的に取り扱い,特に外国船主の集貨活動を制限すること等の形で実施されている。
      自国船のみを有利に取り扱うような措置をとる国は,主に中南米諸国,アフリカ諸国に多い。例えば,政府関係輸出入貨物を自国船に優先的に輸送させる,いわゆる貨物留保を行う国は,ブラジル,ペルーなど南米諸国に多い。また,メキシコなどのように特定物資の輸出に際し,輸出業者に補助金を交付することにより,当該物資の自国船積みを奨励している国もある。
      このような差別措置は,海運自由の原則を前提としている先進海運国の政策とは相容れないものであるため,貿易土の摩擦を起こす原因となっている。
      なお,我が国は,77年に,我が国の海運活動が差別政策により著しく阻害された場合は対抗措置をとることができるものとした「外国等による本邦外航船舶運航事業者に対する不利益な取扱いに対する特別措置に関する法律」を制定した。


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