4 二国間の海運問題
(1) アメリカをめぐる海運政策問題
アメリカは世界最大の貿易国であるが,その海運は必ずしもこれに対応した発展を遂げておらず,自国の外国貿易におけるアメリカ船の貨物輸送はわずか5%程度を占めるにすぎない。このため,アメリカは,従来より建造差額補助,運航差額補助による助成等の海運振興策を講じてきているが,アメリカ海運の国際競争力を改善するには至っていない。また,アメリカは,独占禁止政策を厳格に実施してきており,海運においても定期船同盟を認める代りに政府による規制を積極的に行ってきている。このようなアメリカの海運規制は,我が国や欧州諸国等の「海運自由の原則」に基づいた海運政策となじまず,アメリカとの間で管轄権の問題など様々な問題を発生させている。
これらの諸問題を解決し,アメリカとの政策の調整を図るため,我が国を含む伝統的な海運国は先進海運国グループ(CSG)を結成し,78年以降アメリカとの間で協議を行ってきている。
レーガン政権は,まだ具体的な海運政策を示していないが,同大統領は選挙期間中,アメリカ海運の再建,アメリカ海運の国際競争力の回復等アメリカ海運政策の見直しを公約しており,現在その公約を実現するため,行政府内に関係行政機関を構成員とする特別審議会(タスク・フォース)を設け,海運政策の見直しを進めている。世界貿易に占めるアメリカの地位にかんがみれば,その海運政策の及ぼす影響は非常に大きく,今後ともタスク・フォースの動向に注目する必要がある。
現在,CSGも,これに対応してアメリカの新たな海運政策にCSG側の考え方が反映されるよう努力しているところである。
(2) 東欧圏問題
東欧圏諸国(とりわけソ連)は,近年その商船隊を急速に拡充し,自国関係航路のみならず三国間航路にも積極的に進出して盟外船活動を活発に行っている。
東欧圏海運の活動に関しては,先進海運諸国の海運企業が商業的基盤に立って競争することは極めて困難であるため,経済協力開発機構(OECD),先進海運諸国において東欧圏海運に対する対策が検討されているところである。我が国としても,このような各国の動向等を勘案しつつ,東欧圏海運対策の検討を進める必要があると考えている。
東欧圏に関するもう一つの大きな問題としては,シベリヤ・ランド・ブリッジ(SLB)輸送問題がある。SLBとは,シベリヤ鉄道を利用した極東/欧州・中東間の海陸一貫輸送であり,同区間の海上コンテナ航路と競争関係にあるが,運賃がこれより安いことがメリットとなっている。この輸送については,輸送手段の多様化という観点から一概に否定すべきではないが,日本/欧州・中東間の輸送を特定の国の内陸輸送に過度に依存することにより,安定的な輸送の観点から問題が生ずることのないよう配慮する必要があろう。
|