1 世界の国際航空政策の動向
(1) バミューダ体制をめぐる各国の動き
現在,路線,輸送力,運賃等国際定期航空に関する基本的事項は二国間航空協定で定められている。21年2月に締結された米英航空協定(いわゆるバミューダ協定)がその後締結された多くの二国間航空協定のモデルとされたため,戦後の国際航空体制はバミューダ体制と呼ばれている。
近年,大型機導入による大幅な輸送力増強と輸送需要の伸び悩みにより供給力過剰を生じがちとなり,そのため,国際航空運賃について市場秩序が混乱する場合が生じている。更に,世界的な燃料事情等の諸制約が厳しさを増してきている状況から,こうしたバミューダ体制の見直しの動きが活発化している。このなかにあって,イギリスは,51年6月アメリカに対しバミューダ協定の廃棄通告(同通告の1年後に協定失効)を行い,その後の交渉を経て協定失効寸前に新協定(いわゆるバミューダII)を締結した。バミューダIIにはイギリスの主張がかなり取り入れられ,北大西洋路線の輸送力に関する事前協議制,アメリカ企業の世界一周路線等の便数制限,アメリカ企業の以遠権の漸次削減等が規定された。
(2) アメリカの国際航空政策
バミューダIIに対しては,アメリカ国内ではイギリスに対し譲歩しすぎであると批判が多く,アメリカは,この新協定を例外的なものとして再び自由競争主義に基づいて,53年3月,オランダとの航空協定を改定した。
更に,アメリカは,53年8月には自由競争主義を強く打ち出した新国際航空政策を発表し,以後,各国との交渉は,そこで述べられている目標の達成を目指して行われるべきであるとした。新国際航空政策の具体的目標としては,@競争的運賃の導入,Aチャーターの自由化,B定期輸送における輸送力,便数,路線権等の規制の排除,C複数のアメリカ企業の弾力的な指定等を掲げ,このような競争機会の拡大が消費者の利益につながるものであるとしている。
アメリカは,この新政策発表の前後に,オランダに続きイスラエル(53年7月),韓国(同年9月),ドイツ連邦共和国,ベルギー(同年11月),シンガポール(54年3月),タイ(同年6月),ジョルダン,フィンランド(55年2月),ニュージーランド(同年4月)等と次々と交渉を行い,アメリカの上記主張を大幅に受け入れさせた形で,二国間航空協定を改定ないし締結した。リベラルアグリーメントと呼ばれるこれら諸協定の多くには,輸送力現制の排除,運賃に関する発地国主義(ある国発の国際航空運賃は当該国政府の認可のみで発効するという方式)ないし二重不承認主義(国際航空運賃は両国政府が不認可に合意しない眼り発効するという方式)の採用,チャーター規則に関する発地国主義(ある国発のチャーターについては当該国の規則のみが適用されるという方式)の採用等,従来のバミューダ型協定には見られない新しい規定が盛り込まれている。更に,アメリカは,55年2月上記の国際航空政策を基礎とした国際航空輸送競争法を制定して,外国企業に対し迅速かつ強力な報復措置を取り得ること等,その散策実現のための具体的法制度を整備した。
アメリカの唱える国際航空における徹底した自由競争主義については,@航空のように公益性の高い分野において無制限にこれを認めることは,こうした公益性を害するおそれがあること,A運賃,輸送力の自由化により,過当競争や資源の浪費につながるおそれがあること,Bとりわけ,我が国のように燃料,環境問題等による諸制約が特に厳しい場合には,自由競争主義の現実的実行可能性が乏しいこと等の問題がある。
(3) ICAO及びIATAをめぐる動き
ICAOの従来の活動は航空の技術的問題,法律的問題に関するものが多かったが,近年国際航空において深刻化している経済的問題についても世界的なベースで検討すべきであるとの要求が高まり,52年4月,@輸送力問題,A不定期航空問題,B運賃設定機構問題,C運賃遵守問題を議題として,特別航空運送会議(第1回)が開催された。そして,この会議の成果並びにその後のICAOの運賃パネル及び輸送力規制パネルの成果を踏まえ,55年2月輸送力規制問題,国際運賃問題等を議題として第2回航空運送会議が開催された。その結果,輸送力規制問題については,@規制の基準として,二国間の輸送需要を第一義的に考慮する必要性等を確認し,A規制の方法として,事前審査主義(提供輸送力をあらかじめ航空当局間等で需要予測に基づいて決定する方式),事後審査主義,自由決定主義(航空企業が輸送力を自由に決定し,政府は直接規制しない方式)の三つがあることを確認するとともに,まず,日本を始めとする大部分の国の支持する,事前審査主義のモデル条項を採択し,B更に,各国に対し,輸送力規制に当たっては,空港,航空路,資源の効率的活用及び環境保護の必要性を考慮すべきことを勧告した。
また,国際運賃問題については,@国際運賃の設定体制の検討は,国際航空界全体の参加の下に行われるべきであること,A政府は,航空企業の運賃協定締結の努力に対し否定的影響を与えるような一方的行為を避けるべきこと,B国際運賃の設定に当たっては,可能な限り国際航空運送協会(IATA)を第一選択肢として採用するとともに航空企業のIATAへの参加を妨げてはならないこと等を勧告した。同会議においては,輸送力規制問題ではアメリカの主張する自由決定主義が多くの国から批判され,国際運賃問題ではアメリカのIATAに対する否定的対応が各国の強い非難を浴びるなど,その孤立が目立ち,我が国を含め世界の大勢が,輸送力規制に関する事前審査主義及び国際運賃に関するIATA尊重主義を志向していることが示された。更に,55年9月,10月にモントリオールで開催された第23回ICAO総会において上記諸勧告が採択された。
他方,IATAに関しては,従来からIATAの運賃決定機能に批判的であったアメリカ民間航空委員会(USCAB)は,53年6月IATA運賃協定を不認可にすべきであるとの暫定的判断を下し,これについて関係者に意見提出を求めたが,数多くの政府,航空会社等から,USCABに対し当判断への反対意見が提出された。このような国際環境の変化に対応してIATA自体も機構の弾力化を目指して,@IATA会員の「運賃調整会議」参加の任意化,A「運賃調整会議」の地域的細分化と運送区間の当該当事国航空会社の発言権の強化等の機構改革を行い,関係各国の認可を経て54年10月から実施された。USCABは,各国の上記IATA機構改革を支持する動きをも考慮して,55年4月アメリカ企業が北大西洋地域のIATA運賃調整会議に参加することを禁止するなどの条件を付して,今後2年間IATA協定を承認することを暫定的に決定した。なお,アメリカ政府の航空政策に呼応しIATA運賃調整会議から脱退していたアメリカ企業の中にも,最近,再加入の動きがある。
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