2 ホテル・旅館


(ア) 現状

  55年末現在で旅館業法により営業の許可を受けているホテルは2,039軒,客室数は17万8,000室,旅館は8万3,226軒,客室数96万4,000室となっており,前年に比し軒数でホテルは5.3%,旅館は02%の増加となっている。このうち国際観光ホテル整備法による運輸大臣の登録を受けている登録ホテルは423軒,客室数7万1,110室,登録旅館は1,640軒,客室数は8万3,652室となっている。
  宿泊施設全体に占める割合は,旅館が軒数で97.6%,客室数で84.4%と圧倒的に大きいが,その割合は45年に比べると軒数で1.8ポイント,客室数で10.5ポイント減少している。これは,旅館に比べホテルの増加が著しいためである。その原因としては,@国民生活の洋風化に伴い,洋式宿泊施設であるホテルに対する抵抗感が少なくなったこと,A食事は自由に選択したい,客室では余り干渉されたくない,いつでも気軽に出入りしたいといった行動の自由を求める傾向が強まっているが,ホテルはこのような欲求にマッチしていたこと,B経済成長,国民生活の向上等に伴い,会議,研修,宴会,食事,ショッピング等にホテルを利用したいという需要が増大してきたこと,C宿泊に必要最少限の施設,設備でセルフサービスシステムをできる限り導入するなどの合理化を行い料金を安く抑えたいわゆるビジネスホテルが,なるべく低廉な費用で宿泊したいというビジネス客のニーズに応えて増えてきたこと等が考えられる。
  ホテルの増加を地域別,ホテルの種類別にみると 〔IV−17表〕のとおりである。京浜,京阪神以外の地方で登録ホテル以外のホテルが著しく増加しているが,これは,全国的な交通網の整備や地方都市における経済活動の活発化により地方都市へのビジネス客が増加したことから,地方都市でいわゆるビジネスホテルが増えたためと思われる。

  ビジネスホテルは前述のように,ビジネス客のなるべく低廉な費用で宿泊したいというニーズに応えて特に地方都市で増加してきたが,最近ではビジネス客も少し高くてもゆっくりと快適にくつろげる宿泊施設を求めるようになってきており、また,地方都市の都市化が進展するにつれて会議,研修,宴会,食事,ショッピング等の機能をもつホテルに対する需要が増大してきているので,ビジネスホテルにおいても客室,食堂,附帯施設等の水準を向上させる動きがみられる。都市ホテル及びビジネスホテルの客室利用状況をみると 〔IV−18表〕, 〔IV−19表〕のとおり,ホテルの客室数は増加したにもかかわらず客室利用率はここ数年ほとんど変らず,これはホテルの宿泊需要が着実に増加していることを示している。

(イ) 経営状況

  登録ホテル222ホテル(196社)の55年度の経営状況をみると赤字会社が54年度の58社から66社へと増加した。営業収入も,対前年度比2.6%の減少となっている。前述のように客室利用率が前年とほほ同じであるにもかかわらず,営業収入が減ったのは,我が国のホテルの収入の半分が飲食収入で,室料収入は約4分の1を占めているにすぎず,55年度は国内経済の停滞により景気にかげりがみられたために飲食収入が減少したためと思われる。
  一方,売上高に対する営業利益率は54年度8.3%,55年度8.1%とほぼ同じであるが,売上高に対する経常利益率は54年度3.8%,55年度3.4%と低下している。これは支払利息の増加によるものである。ホテルは一種の装置産業で,建設時に多額の資金を要するが,それを借入金でまかなうことが多いため金利負担が大きいので,金利負担の増加が損益に大きく影響している。

(ウ) ホテル・旅館の整備等

  ホテル・旅館は内外からの旅客の宿泊拠点であり,国際観光の基盤施設であると同時にビジネス,文化交流など国民生活の広範な活動の場を提供する施設となっており,また,都市機能の整備を図る上で重要な施設である。しかし,ホテル・旅館の整備には建設時に多額の資金を要するほか事業採算が長期にわたること等から,民間金融機関からの融資のみでは起業及び採算維持が困難である場合において,日本開発銀行,北海道東北開発公庫,中小企業金融公庫など政府関係金融機関の融資を行いその整備の促進を図っている。55年度の日本開発銀行,北海道東北開発公庫,中小企業金融公庫からホテル・旅館に対する融資件数は344件,総融資額401億1,300万円(防災施設等に対する融資を含む)となっている。
  ホテル・旅館の旅客の安全確保については,従来から陸運局の立入検査,観光週間の行事として事業者の自主点検等を実施してきたが,55年11月栃木県川治温泉において発生した旅館火災事故で多数の死者を出したことにかんがみ,55年11月登録ホテル・旅館に対し防災対策等についての総点検を実施した。また,関係6省庁で構成される「旅館ホテル防火安全対策連絡協議会」において,56年1月関係各省の旅館・ホテルに対する防火安全上とるべき措置についての了解事項が決定されたので,宿泊業者団体を通じ会員にその趣旨の周知徹底を図るとともに,防火安全対策に万全を期すよう指導した。


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