5 交通弱者対策


  厚生省人口問題研究所の推計(56年11月)によれば,我が国の高齢者数(65歳以上の人口)は,年々増加の傾向にあり,55年には1,057万人(人口比9%)であったものが,75年には1,994万人(15.6%)に,更に93年には2,802万人(21.8%)とピークに達し,その後においても高水準で推移していくものと予測されている。総理府の実施した「高齢者の生活圏域と環境条件に関する調査(昭和53年度)」では,年齢が高くなるに従い行動能力に低下が見られ,「移動」の際に困難を感じる者の割合も大きくなり,交通機関の利用においても多様な問題点が提起されている。
  また,厚生省の「第6回身体障害者実態調査」によれば,55年現在の在宅の身体障害者数(18歳以上)は198万人(人口比2.4%)と推計され,前回(45年)調査の131万人(1.8%)に比べ50.5%の増加となっている。更に障害者の年齢,障害の程度でみると,身体障害者の高年齢化,障害の重度化の傾向が認められ,「移動」の困難な者は増加している。
  こうした高齢者,身体障害者等のいわゆる交通弱者にとって,モビリティーの確保は,社会生活を営む上で重要な問題の一つである。将来確実に到来する高齢化社会において,交通弱者の社会参加に対応していくためには,適切な移動・交通手段の確保について長期的視点に立った対策を講ずる必要があり,市民生活の中で交通弱者に適切な援助の手を差し伸べるような環境づくり等国民の理解と協力を得るための教育・広報に努めるとともに,交通弱者が安全かつ身体的に負担の少ない方法で移動が可能となるよう所要の交通施設の整備を着実に進めることが必要である。
  運輸省においては,従来から各交通事業者に対し,旅客輸送サービス向上の一環として身体障害者等のための施設整備についても配慮するよう指導を行ってきたところであり,各々の交通事業者により逐次整備がなされてきている。まず,鉄道関係では,改札口の拡幅,段差の解消(スロープ化),身体障害者専用トイレの設置,自動券売機に点字テープの貼付,点字ブロックの敷設,新幹線に身体障害者用施設を備えた車両の投入等を,また自動車関係では,乗合バスに低床・広ドアバス車両の導入等を,航空関係では,空港に車いすの常備,身体障害者専用トイレの設備等を行い,身体障害者等交通弱者の利便の向上に努めてきている。これら施設整備の実施状況は 〔1−6−26表〕のとおりとなっており,各交通機関とも一定の前進がみられるが,今後とも整備を進めていく必要がある。
  また,これらの施設整備とともに,運用面についても鉄道,乗合バスにおいて優先座席(シルバーシート)の設定,車いす利用者及び盲導犬を連れた視覚障害者の安全かつ円滑な乗車の実施等について配慮を行っており交通弱者の利用に際し,利便の向上に努めている。
  交通弱者の交通機関の利用に際しては,適切な情報の提供を行う事もその利用促進を図るうえで有用である。この観点から運輸省では,56年度,国際障害者年の記念事業として身体障害者(視覚障害者及び肢体障害者)を対象とし,首都圏,近畿圏及び中京圏の三大都市圏の主要ターミナルについて,地図と説明文による案内を中心とした「身体障害者のための公共交通機関利用ガイドブック」の作成を行い,身体障害者関係施設,主要駅等に配備し,身体障害者の利用に供している。
  今後の交通弱者対策としては,移動・交通対策を含めた身体障害者対策のあり方についてなされた中央心身障害者対策協議会からの意見具申(57年1月)を受け,国際障害者年推進本部において決定(57年3月)した「障害者対策に係る長期計画」に沿って,交通施設について,障害者の利用を配慮しつつ整備を進めるとともに,来るべき高齢化社会にも備え,適切な移動・交通の確保を図るための施策の充実に努める必要がある。


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