1 職場規律の確立等
国鉄経営が危機的状況に陥っている中で,国鉄における労使関係等の問題は,経営悪化の要因として認識され,経営改善計画においてもその健全化が国鉄再建の前提条件であるとの位置づけの下に強力に所要の推進を図ることとされている。一方,臨時行政調査会を始めとする国鉄再建に関する論議の高まりを契機として,いわゆる悪慣行,ヤミ協定等の職場規律の乱れた実態が広範にわたり存在し,これが国鉄の正常な業務運営を著しく阻害しているとの指摘が相次ぎ,世論の厳しい批判を招いた。
このような状況の中で,57年3月に運輸大臣は国鉄に対して,職場規律全般にわたる総点検を実施し,その調査結果に基づき厳正な措置を講ずべきことを指示し,国鉄は直ちに全国約5,000箇所に及ぶ全職場についての総点検を実施した。
総点検の結果は57年4月に運輸大臣に報告されたが,次のような職場規律の乱れが広範かつ多岐に存在する極めて深刻な事態となっていることが明らかとなった。
(1) いわゆる悪慣行,ヤミ協定等
夏季鍛練休暇等の規定外休暇の付与,給料日の早退,突発休,1日1作業等の作業上の制約,休憩時間を増やしたウラ作業ダイヤ,いわゆるヤミ手当の支給等の実態が広範囲にわたり存在しており,これらの職場規律の乱れにより業務能率の低下を招いている。
(2) 現場協議制の運用の乱れ
昇職,昇給,転職等人事に関する事項,賃金引上げ問題等現場長の権限外の事項の協議や本来団体交渉で決めるべき事柄が現場の協議にゆだねられている上,協議中の管理者に対する中傷,誹謗等現場協議制本来のあり方を大きく逸脱した状態が広範囲にわたって存在しており,それらが現場管理者に大きな負担を強いることとなり職場管理の弱体化を招いている。
(3) 現場管理者に係る過重な負担
職場規律の乱れから生ずる問題が,職員の突発休などに際しての管理者による肩代わり,ホーム清掃等雑作業の管理者対応,管理者の公休,年休の低い消化率等の形で現場管理者にしわ寄せされているほか,調味料,洗剤などで本来個人が負担すべきものに対する管理者による金銭的負担もみられ,放置しておけない状態にある。総点検の結果に基づく是正状況については,57年7月に中間報告がなされ,その中で,ヤミ手当については全面的に是正され,ヤミ休暇についてもほぼ是正されたものの,その他の問題に関しては依然として組合側の既得権意識が強いことや現場管理者の当局の姿勢に対する信頼感がいまだ十分でないこと等の根深い問題が存することが明らかにされた。
以上の経過を踏まえ,9月には57年3月以来の職場規律の是正状況を明らかにするための総点検が行われ,10月には運輸大臣にその結果と今後の取組方針について報告が行われた。
それによれば,@ヤミ手当及び管理者の金銭負担については全面的に是正されたほかヤミ休暇,給料日等の早退,ブラ日勤,ヤミ専従及びウラ作業ダイヤ,各種の作業規制等については相当に是正をみているものの,Aリボン,ワッペンの着用,36協定(超勤協定)の遅れ調印,雑作業の管理者対応,勤務時間内の入浴,突発休等についての改善の遅れが明らかとなった。また,B現場協議制度の運用実態については開催回数等で改善をみた現場がある反面,依然としてはかばかしい改善が図られていない現場があるとしている。一方,現場管理者の多くは当初の疑心暗鬼を克服して意欲的に取り組み,ようやく管理者としての自信と管理者相互の信頼感を回復しつつあるものの,依然として管理能力,管理者意識の面で遅れているところもあり,更に,是正が一時的あるいは表面上のものに止まっていることが危惧されるなど,本質的な是正はむしろようやくその緒についたばかりであるというべきであるとしている。
また,今後の取組方針としては,@未解決の問題についてはその早急な解決を図るため,管理部門及び現場を一体とする是正のための推進体制を整え,期限を設けて速やかに是正の実効をあげうるよう万全を期し,A既に是正されたとされる問題についても,指導教育の徹底,信賞必罰の実行等により一層の定着化を図ることとしている。また,B当分の間,年間2回程度の全社一斉の総点検を引き続き実施することとしている。
以上の報告を受けて,運輸大臣は国鉄に対し,今後とも継続的に総点検を実施し,職場規律の刷新とその定着を図るとともに,管理者教育を徹底し管理者の意識と責任感の高揚に努めるよう指示した。
なお,現場協議制の運用の乱れについては,国鉄当局は,この制度の設けられる契機となった公共事業体等労働委員会勧告の趣旨にのっとり勧告後14年間の制度運用の実態上の問題点を踏まえた制度改正を行うこととして,7月以降関係組合との間で交渉を行っているが,国鉄労働組合(国労),全国鉄動力車労働組合連合会(全動労)の両組合は10月に至り,解決の見通しがないものとして団体交渉を打ち切り,公共企業体等労働委員会に調停申請をしている。
以上の問題のほか,国鉄では,鉄道乗車証制度及び兼職議員制度の運用についても見直しが行われた。
@ まず,鉄道乗車証制度については,現下の国鉄経営の危機的状況にかんがみ,職員の乗車証を通勤用及び業務上必要な範囲に限定するとともに,退職者乗車証等の職員以外の者に交付している乗車証についても原則として廃止することとし,57年12月を目途に実施に移すこととしている。
A また,兼職議員(国鉄総裁の承認の下に,国鉄職員が市(特別区を含む)町村議会の議員を兼ねること)についても,当面原則として承認を行わないこととし,57年11月から実施に移している。
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