5 収入の確保
収入の確保は,国鉄事業の再建のための基本的課題であり,あらゆる営業努力を結集して増収に努める必要がある。
国鉄の営業収入構造をみると,56年度営業収入約3兆1,000億円のうち,運輸収入85%(旅客部門75%,貨物部門10%),関連事業・資産処分等雑収入4%,助成金受入11%となっており,ここ数年こうした傾向が続いているが,最近の景気の停滞,個人消費の伸び悩み,他輸送機関との競争の激化等を反映して旅客輸送量の停滞,貨物輸送量の減少が続き,収入の確保を図る上で一段と厳しい環境下にある。こうした中で,国鉄は,資産処分,関連事業を積極的に推進することはもちろんのこと,収入の大部分を占める運輸収入の確保に努めることが何よりも重要である。
まず,運輸収入の確保のためには,旅客,貨物輸送全般を通じ積極的な営業努力により,潜在的な輸送需要の喚起を図るなど全体としての輸送量の維持増大に努める必要がある。現在,国鉄は,営業活動の展開に当たって,輸送の質的改善・サービスの向上を図りつつ,輸送市場の動向に対応し,利用者ニーズに即応した,市場指向型の積極的かつ弾力的な増収施策を推進している。例えば,旅客輸送においては,フルムーンパス,Qきっぷ,Sきっぷなど,運賃割引等を主体とした魅力ある企画商品の開発販売,新たに開業した東北・上越新幹線を中心とする積極的営業活動等を進め,また,貨物輸送においても,新たなコンテナ運賃割引制度の設定等を行っている。また,国鉄全職員をあげて増送増収キャンペーンを実施するとともに,旅行エージェント,通運事業者等との連携を強化して増収のための営業・販売体制の整備に努めているところである。
一方,運輸収入の根幹である運賃については,その適正化を図るため,他の輸送機関との競合関係,線区別原価等に十分配慮して定めることとするとともに運賃制度の見直しを検討していくことが必要である。
国鉄運賃は,明治以来全国一律運賃制度となっているため,全国的にみれば,できるだけ原価(コスト)を償うように運賃水準が決定されてはいるものの,個個の地域又は線区別にみれば,その輸送に要するコストは個々の運賃には反映されにくい制度となっている。即ち,地方交通線等コストの高い線区においては,そのコストに見合った水準の運賃が設定されないため相対的に低い水準となっている。この結果,その赤字が,新幹線,大都市線区等コストの低い線区から発生する黒字で内部補助されることとなっている。このため,地方交通線等コストの高い線区においては,比較的その地域,線区の輸送コストを反映しているバスや中小民鉄に比べ割安の運賃となる一方,大都市線区等においては相対的に高い水準の運賃となり,競合する大手民鉄の運賃に比べ割高の運賃となっている。
こうしたことから,運輸省としては,国鉄の事業再建のため,収入の確保や国鉄利用者間の負担の公平を図るべく,国鉄運賃の全国一律運賃制度の見直しの検討を進めることとしており,当面,地方交通線の運賃については,その収支改善を図るために必要な収入の確保に特に配慮して定めることとする等の措置をとることを検討している。
こうした運輸収入の確保と併せて,国鉄の資産についても,その利用実態等を十分調査検討し,用地等の有効活用を図るとともに,貨物取扱駅,ヤードの廃止等による処分用地を生み出すことにより資産処分を促進することとしている。
また,関連事業についても,既存事業の見直し,貸付料金の適切な改定等により積極的な増収策を講ずることとしている。
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