2 先進国との国際協力
日本,アメリカ,欧州諸国は,1980年には全体で世界の名目GNPの61%,世界輸出の50%,世界輸入の52%を占めており,相互に依存するこれら諸国の調和的発展が,世界経済全体の動向を左右する。このように考えれば,自由な貿易を存立の基盤とする我が国にとってアメリカ,欧州諸国等先進国との全般的な結びつきを拡大し,緊密化を図ることの重要性は明らかである。運輸部門は我が国の技術水準が他の先進諸国に比して優位を占めるものが多いので,運輸部門の国際協力が先進国との関係緊密化に果たす役割は今後大きくなるものと思われる。
(1) 日米鉄道協力
アメリカは,1976年鉄道再生,規制改革法に基づきボストン,ワシントン間734キロメートルの都市間旅客輸送,通勤輸送の改善を目的とする北東回廊改良工事に着手した。この計画を実施するためには高速旅客鉄道に関する高度な技術が必要であり,アメリカは,昭和53年に我が国に対して技術協力を求めてきた。これに対し我が国は,政府間ベースで技術協力を実施することとし,53年9月アメリカ政府との間で協力期間を57年度までの5年間とすることに合意した。これにより,我が国は,技術関係者をアメリカに派遣し,信号,通信,電化等6項目に及ぶ技術協力を実施してきた。これらの協力は,アメリカの鉄道輸送改善に大いに貢献しており,日米間の友好促進に寄与している。
なお,本件計画は,アメリカの国内事情によるスケジュールの遅延から完成が60年まで延期されることとなった。このため,アメリカは56年12月のルイス運輸長官の来日の際に,我が国の技術協力に対し感謝の意を表わすとともにアメリカが本計画の推進に強い熱意を有しており,今後も継続して我が国の協力を期待する旨表明し,また,57年5月正式に我が国の技術協力の期間の延長を要請してきている。
このほか,アメリカは,ロスアンジェルス-サンジエゴ間,オーランド-タンパーマイアミ間等への新幹線導入を計画しており,この計画についての我が国の技術協力を求めている。本件については,現在,我が国の民間ベースで新幹線導入の可能性に関する調査に対する協力が行われている。
(2) 科学技術協力
科学技術の発展のための先進国間の国際協力は,57年4月のミッテラン大統領の訪日の際の意見交換及び同年6月のベルサイユ・サミットにおける各国の合意にみられるように,世界経済の再活性化及び成長のため,更には,資源,エネルギー,環境,食料等,人類全体が直面する諸問題の解決のため大きな役割を果たすことが期待されており,我が国としても従来から積極的に取り組んでいるところである。
運輸部門において我が国は,鉄道,船舶,電子航法,港湾,自動車,海上保安,気象等の分野で世界でも高水準の技術を有しており,今後とも種々の機会を利用して,科学技術に関する情報の交換,技術者の交流促進,技術交流の促進を図る方針である。
運輸部門の二国間科学技術協力としては,44年度以来の毎年度,アメリカとの間で両国が共通して直面している運輸問題について両国の専門家による情報交換,意見交換を行うための日米運輸専門家会議が開催されており・前回(56年6月)の会議においては磁気浮上方式鉄道,新交通計画,省エネルギー自動車技術等について意見交換を行ったところである。その他の科学技術協力の主なものは次のとおりである。まず,57年5月には東京において日独科学技術合同委員会が開催され,日独両国間で常電導磁気浮上方式鉄道に関する研究協力の可能性を検討していくこととなった。また,57年6月にはオタワにおいて日加科学技術協議が行われ,北極海における海上輸送技術の開発について日加両国の関係者間でフィージビリティー調査を行うことについて意見の一致をみた。更に,56年11月にはニューヨークにおいて海洋の有害底質の処理等に関する日米両国の専門家会議が開催され,海洋底質浄化等の海洋環境の整備について論文の発表,意見交換を行った。また,日仏間でも,日仏科学技術協力協定に基づく海洋開発専門部会の枠組の中で,海洋構造物,海洋観測機器等について情報交換,人的交流が継続されている。
運輸部門の多国間科学技術協力としては,まず,WMOの海洋気象委員会等において海洋気象観測及びデータ収集等についての技術的問題の検討,審議を行った。また,台風業務実験(TOPEX)については,WMOが推進している熱帯低気圧計画(TCP)の一環として,東南アジア及び西太平洋各国の台風業務の技術水準の向上を目的として,気象,水文・警報伝達,情報交換の3部門について共同実験を行うこととしており,気象部門については東京に国際実験センターが設置され,実験を行っている。また,国際水路技術協力については,国際水路機関の場を通じて水路図誌の国際標準化,水路技術,世界航行警報のための通信技術等についての検討を行っている。その他,航路及び港湾技術については,国際航路会議協会(PIANC)の場を通じた技術協力を行っている。
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