3 国際交流の推進
近年特に欧米諸国との間において貿易等の面で各種の摩擦が生じており,その対応が大きな問題となっているが,最近の摩擦問題においては,我が国の経済・社会構造に関連する問題が大きく取り上げられており,しかも,その中には欧米諸国と我が国との文化的な相違に基づく誤解や諸外国の我が国に対する理解の不足に基づくものも少なくない。その背景には,諸外国に日本が十分に知られていないということがあると思われる。一部には,日本と中国が地続きであると思われていたり,昔の日本の農漁村の生活が現在の日本と混同されていたり,一方近代的工業国と認められていてもそれは日本の労働者が企業に対する忠誠心から非常な低賃金,長時間労働をすることによってもたらされているとか,日本は工場から出る媒煙で自然が全く破壊されているといった認識も持たれているといわれている。したがって,我が国としては,現在の我が国の全体の姿を諸外国に十分知ってもらう必要がある。そして,それは,政府,議会,産業界,労働組合,ジャーナリズム等の指導者層の理解を得るだけでなく,各国の国民一般に理解してもらうことが重要である。
56年に我が国を訪れた外国人旅行者の数は約158万人,一方,日本人海外旅行者数は約401万人であった。訪日外国人の数は,55年に比べ約20%増であり,10年前に比べると約2.4倍に増加しているが,我が国が主要な旅行市場である欧米諸国から遠距離にあり,また滞在費用も高くつくことなどから,諸外国の受入れ外国人数に比べると非常に少ない。欧米主要国はもとよりアジア諸国においてもシンガポール256万人(55年),香港230万人(55年)などに我が国を上回る外国人が訪れている 〔2−2−15表〕。
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我が国の経済は,欧米諸国との間に貿易摩擦を生ずるほどに成長し,それにつれて,各国との間の物の交流も多くなっているが,それに比べ人的交流は貧弱な状態にあり,情報の面では,我が国に入ってくる情報量に比べ,我が国から諸外国に出ていく情報量は圧倒的に少なくなっている。このことが諸外国の我が国に対する理解の不足の一因をなしていると思われる。
従来の我が国の国際観光政策は,外貨の獲得と国際間の相互理解とを二大目標としてきたが,現在我が国にとって外貨の獲得は至上の目標でなくなっており,一方,国際間の相互理解の必要性はますます高まっている。したがって今後は,我が国と諸外国との間の相互理解を増進させ,国際親善と国際協調を促進することを目標として国際観光を推進する必要がある。
ア 外国人旅行者の誘致
このため,@我が国を紹介・宣伝するパンフレット等において,現在の我が国の姿を表す都市,建築物,現代芸術等を積極的に取り上げる。A海外の報道関係者や訪日旅行を取り扱っている旅行業者を招請する際にも,現在の我が国の多面的な姿を見聞してもらい,記事掲載や訪日ツアー設定にその体験,知識を生かしてもらうようにする。B家庭的な雰囲気に触れ,日本人の生活に接することができ,しかも経済的な旅行ができる民宿の利用を呼びかける。C我が国の近代産業や社会,文化施設等の見学を取り入れた訪日旅行を設定する。D更には,国際観光振興会を始め日本紹介・宣伝を行っている各種の団体が協力して,統一キャンペーンを実施することにより我が国に対する関心を高め,その機会にトータルな日本を海外に紹介することも検討する。
イ 外国人旅行者の受入れ
このため,次のようなことを検討する必要がある。 (ア) 外国人旅行者が一般の日本の家庭を訪れて家族と交歓したり(ホーム・ビジット),更には起居を共にする(ホーム・ステイ)ことは,日本の家庭や日本人の生活を理解してもらうための最良の方法である。国際観光振興会は,地方公共団体と協力してホーム・ビジットの拡充に努めており,56年度から倉敷市が,更に57年度からは成田市がホーム・ビジット制度を発足させ,現在10都県市で行われている。 このホーム・ビジット,ホーム・ステイについては,まだ受入れ家庭が少なく,今後拡充に努める必要があるが,57年1月から2月にかけて運輸省が行った「運輸行政モニター」の調査によると,受入れの条件として「日本語が多少わかる人なら」,「通訳を同行してくれるなら」という語学面の条件をあげる人が多く,一方,受け入れることが困難と答えた人の理由にも「外国語がわからない」が,「家が狭い」,「時間的余裕がない」と並んで多い。このことから,ホーム・ビジット,ホーム・ステイの普及のためには国際観光振興会の推進している善意通訳運動の活用等語学面の対 応策を考えることが必要であろう。 (イ) 外国人旅行者が日本各地をひとりで歩き回るときに,言葉が通じないために,不便を感じたり,トラブルに遭遇したときに困ったりすることがしばしばみられるが,そのようなときに,全国どこからでも容易に電話で英語による相談・案内・通訳のサービスが受けられる「トラベルフォン」を国際観光振興会が57年度から開始した。この「トラベルフォン」はコレクトコール制度(通話料受信人払い制度)を利用するため,外国人旅行者は通話料無料で利用することができる。 現在までの利用者数は11,077人(57年4月〜9月)である。具体的な質問,相談としては,急病の外客に英語の通じる病院を紹介(岡山),旅館に宿泊した外客と旅館の従業員との間の道案内を通訳(浜松),落とし物の届出を駅員に通訳(指宿)などの例があり,多くの外国人旅行者に感謝されている。 この「トラベルフォン」の利用案内は,海外の国際観光振興会の観光宣伝事務所や国内の主な空港,ホテル等で外国人旅行者に対してPRカードを配布して行っているが,今後一層,そのPRに努め,外国人旅行者に「トラベルフォン」を周知することにより,外国人旅行者のひとり歩きの容易化を図る必要がある。 (ウ) 外国人旅行者が国内を自由に歩き回って,我が国の自然,産業,生活,文化等の各方面を幅広く見聞するためには,そのための情報が十分与えられることが必要である。日本旅行を宣伝するパンフレット等だけでは各地の詳細な情報が十分提供されないし,国際観光振興会が設置しているツーリスト・インフォメーション・センターも東京・京都・成田の3か所のみで十分とはいえない。一方,地方公共団体や地方観光協会が設置している観光案内所は全国各地にあり,その地域の事情についてはかなり詳細な情報を有している。 そこで,これらの観光案内所の有する情報の英文化を図り,観光案内所とツーリスト・インフォメーション・センターとを連携させることにより,全国的な案内情報提供ネットワーク(「i」システム)を整備し,外国人が国内旅行をするために必要な情報が容易に得られるようにすることを検討するため,56年度において国際観光振興会が,札幌等6都市において観光案内所の実態調査を行った。 また,映画,演劇,音楽会,展覧会等の催物情報,ショッピング情報,食事情報などを載せた外国人旅行者向けの「タウン情報誌」の充実を検討する。 (エ) 外国人旅行者が,道路標識,案内標識をたどって目的地に着くことができるようにするため,これらの標識が連続性を持ち,また,できるだけ外国語又はローマ字が併記されたものとするよう改善を図る必要がある。 観光対象施設の外国語の案内板や説明書,宿泊飲食施設の外国語の利用案内書,メニュー等の整理,充実も必要である。このため,国際観光振興会がこれらについての実態調査を行うとともに,説明書の英文化の協力等を行っている。 (オ) このほか,日本人との交流の機会を増やすためには,国際会議,国際的行事,催事の開催,姉妹都市交流,青少年交流,スポーツ交流等を一層促進する必要があり,また,日本人も外国人も共に気楽に集い,語らい,交歓し合える場所をつくることも必要である。
ウ 日本人の海外旅行
日本人の海外旅行者については,旅行先の事情についての不案内等のためトラブルが生じたり,マナーにはずれた行為や不健全な行動によって旅行先の国民のひんしゅくを買うなどの国際間の理解の増進に逆行するような例がみられる。そこで,国際観光振興会が,旅行先での注意事項や風俗習慣,マナー等の周知を行い,相談に応じ助言する等の対策を講じているほか,57年に旅行業法の一部を改正し,旅行業者が旅行地の法令に違反するサービスに関与することを禁止することとした。このような対策は,今後一層その充実が必要であるが,それにも増して,海外旅行をする国民の一人一人が自分を通して日本及び日本人が理解されるものであるということを自覚して行動することが重要である。
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