1 発展途上国に対する経済協力


  (重要な役割を有する運輸部門)
  運輸関係基盤施設の整備等運輸部門の経済協力は,発展途上国の経済,社会の発展にとって重要性が高く協力要請も多いため,我が国の対外経済協力において大きな割合を占めている。すなわち資金協力では,我が国政府直接借款供与総額の19.9%(商品借款を除くと24.8%,昭和41〜57年度累計実績)が運輸部門に係るものとなっている。
  このように重要な役割を有する運輸部門の経済協力の意義としては,58年2月に出された運輸政策審議会総合安全保障部会報告にもあるとおり,以下の諸点が挙げられる。
  第1に,輸送基盤施設の整備により,原材料や製品の輸出入が確保されるとともに,国土全体を網羅する交通ネットワークの整備により,経済発展の地域的不均衡,人や情報の交流の不足等の社会的緊張の要因が除去されるなど運輸部門に係る経済協力は,発展途上国の経済発展及び政治的安定等の視点から極めて重要である。
  第2に,輸送基盤施設の整備に対する協力は,協力の時点で発展途上国の期待に沿うものであるのみならず,当該施設が50年,100年と長期にわたって利用され大きな効果を期待でき,また,広く相手国の国民の目に触れるのでPR効果が大きい。
  第3に,運輸部門に係る経済協力は,国際的な物流ネットワークの形成に資するものであり,また,我が国の海上輸送路の沿岸諸国に対する経済協力により,海上輸送路に支障が生じないような環境の醸成が期待される等,我が国の輸出入物資の安定輸送の確保に資することが多い。
  (進む運輸部門経済協力)
  以上の意義を有する運輸部門の経済協力として,我が国は次のような協力等を行っている。

(1) 資金協力

  運輸関係基盤施設整備案件は,我が国の有償資金協力(円借款)のなかでも大きな割合を占めており 〔1−5−1図〕,その内訳は 〔1−5−2図〕のとおりである。57年度においては,16件,総額1,239億7,900万円に及ぶ運輸関係プロジェクト借款供与の交換公文が行われた 〔1−5−3図〕。最近の主な協力の例をあげると次のとおりである。

 ア 中国の輸送回廊整備

      中国は2,000年を目標とする近代化政策を推進しており,このため基本建設投資の重点を交通運輸,エネルギーの分野に置いている。これに関連し,石炭等の資源の安定的輸送を確保するための山元から積出港湾に至る輸送回廊(鉄道,港湾)整備を中心とした5プロジェクトに対して,54年度から56年度までの間3回にわたり1,059億円の円借款供与の交換公文が行われており,57年度,58年度においては,これに引き続き更に各々450億円,499億円の円借款供与の交換公文が行われた。

 イ インドネシアの鉄道整備

      インドネシアは,ジャカルタ首都圏の人口増に対応して,都市交通の混雑を解消するため,今後1990年までにジャボタベック圏都市交通整備計画を遂行することとしており,56年度の55億円に引き続き,58年度には2回にわたって計118億円の円借款供与の交換公文が行われた。

 ウ ザイールの輸送路整備

      ザイールは,銅等の資源の安定的輸送を確保するため大西洋岸に至る鉄道施設整備計画を遂行しており,この一環として48年度に約345億円の円借款供与の交換公文が行われたマタデイ鉄道・道路併用橋建設が58年5月に完了した。
      また,57年度における運輸部門の無償資金協力については,バス,トラック,漁業調査船,訓練船等の基礎的施設の供与等,計11件66億円が供与された 〔1−5−3図〕

(2) 技術協力

  発展途上国は,経済社会基盤施設を整備するための計画の作成等専門的知識,技能を有する技術者が一般に不足しており,港湾,鉄道,空港等の運輸関係基盤施設整備,都市交通管理運営,自動車の検査・整備,海運経営,造船,船員教育,海上保安,観光振興,気象等運輸に関する多種多様な技術協力の要請が多くの国から寄せられている。運輸省は,これら発展途上国に対する政府間ベースの技術協力として,国際協力事業団(JICA)が実施する研修員受入れ,専門家派遣,開発調査事業等に協力している。57年度における協力実績は次のとおりである。
  研修員の受入れは,集団研修が21コースにおいて229人,個別研修が45件110人に対して実施された。
  また,専門家派遣は,長期専門家87人,短期専門家64人の合計151人で,発展途上国に対する技術移転が進められている。
  さらに,発展途上国の経済社会開発等に関する計画の策定,フィージビリティ・スタディを行う開発調査事業は, 〔1−5−4図〕のとおり32件実施された。最近の傾向としては,総合交通,都市交通等いわゆる複合プロジェクトが増加している。

(3) 運輸プロジェクト推進のための施策

  運輸部門の経済協力の効率的な推進を確保するために,運輸省は46年度以来,発展途上国の社会経済の現状,経済・社会開発計画,交通事情,鉄道,港湾,空港等の運輸関係基盤施設の整備状況等の調査及び具体的協力案件の発掘並びに我が国協力案件としての妥当性に関する調査検討を進めている。さらに,53年度以来,各国の運輸大臣等発展途上国の運輸関係の上級管理者を我が国に招へいし,発展途上国の開発ニーズ等に関する意見交換を行うとともに,我が国の優秀な運輸技術と我が国の協力可能分野の理解の増進等に努めている。また,運輸関係技術は我が国の場合,従来から政府等に集中し,民間ベースの運輸コンサルタントの人材が不足する傾向にあるため,運輸関係の民間コンサルタントの育成を図り,経済協力に機動的,弾力的に活用し得るよう努めている。

(4) 第二パナマ運河建設構想に対する協力

  また,国際的大プロジェクトとして検討が進められている第二パナマ運河建設構想についても,運輸省は積極的な協力を行っている。パナマ運河は,我が国と南北アメリカ大陸の各東岸を結び,我が国への資源の輸入及び我が国からの製品の輸出上重要な通航路となっているとともに,中南米諸国が貿易を通じた経済発展を図るためにも重要な通航路となっている。しかしながら,現行のパナマ運河は,通航可能船型や通航容量に制限があり,2,000年頃を展望する長期的観点からは将来の通航需要に対応しうるパナマ運河の代替運河の必要性が指摘されてきた。
  このパナマ運河代替構想に関するフィージビリティ調査に係る調査項目・内容,調査体制,資金手当,実施スケジュール等調査実施計画の検討を行う政府間レベルの準備委員会が57年秋設立され,我が国も米国,パナマと共にこのメンバー国として,その審議に参加協力を行ってきているところである。本件に対する我が国の適切な協力方針の確立等に資するため,運輸省としては,58年度予算に所要調査費を計上し,準備委員会に適切に対処するための関連調査を実施するとともに,本準備委員会の審議に引き続き積極的に参加協力していくこととしている。


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