3 国際交流の推進


(1) 国際観光の意義

  最近における諸外国との各種の摩擦問題において見られる各国の反応の中には,我が国の社会,文化等に対する理解の不足によるものも少なくなく,それが摩擦を一層増幅させている面があることも否定できない。また一方では,我が国が諸外国の社会,文化等への認識や配慮に乏しいことも摩擦を大きくしている一因となっている。
  国際観光は,実際に当該国の人々の生活や社会の実状を見聞きするものであることから,国際間の相互理解の増進に有効なものの1つである。しかし,我が国を訪れる外国人は,欧米主要国はもとよりシンガポールの295万6,000人,香港の260万9,000人と比べても少ない179万人という水準でしかない。そのため我が国としては,今後海外に対する宣伝活動を量的・質的に一層充実させ外国人旅行者の我が国への誘致に努めるとともに,我が国を訪れた外国人が快適に滞在することができ,かつ十分に我が国を理解し得る体制の整備を図る必要がある。この場合,近時,外国人旅行者について,たとえば,有名観光地のみならず,地方都市も見てみたいといったニーズの多様化に配慮する必要がある。

(2) 国際観光の振興

  (充実される国際観光振興施策)

 ア 海外に対する宣伝活動

 (ア) 海外観光宣伝活動

      現在国際観光振興会を通じて外客誘致活動等を行っているが,日本紹介をするに当たっては伝統文化,風俗等異国趣味のみを強調するのではなく,地方都市も含めた現代日本の産業,社会,生活,文化等の全体像を多面的に紹介するように配慮した広報・宣伝活動を行っている。
      57年度の広報における新規なものとしては,東北・上越新幹線の開業,科学技術博覧会等の観光事情やトラベルフォン(外国人旅行者用電話)の創設,ジャパン・レール・パス等訪日外国人旅行者の旅行を容易にするための制度の宣伝に力を入れた。

 (イ) 国際会議の誘致等

      国際的な会議や各種の行事・催物を我が国で開催すれば,多数の外国人が来訪し,その機会に観光旅行も行うので,知的人的交流の手段としては極めて有効である。このため,国際観光振興会を通じて,国際会議,見本市及び行催事に関する各種の調査を行うとともに,海外宣伝事務所を通じて国際機関や各種団体に対し会議の日本開催の働きかけをしている。また,近時地方都市において国際会議場設立の動きがみられる。このような動向に対応して国際観光振興会では各種の団体・機関に対し,国際会議の開催,誘致及び会議運営のための助言等を行っている。

 イ 外国人旅行者の受入れ

 (ア) ホーム・ビジット制度

      国際観光振興会が58年3月に行った訪日外客実態調査によると「次回の訪日旅行の際にふれてみたい観光魅力」の中で「日本人とその生活」が1位にランクされている。国際的な相互理解を増進する政策手段として,日本の一般家庭との交流は極めて有効であるので国際観光振興会を通じて,地方公共団体と協力してホーム・ビジット(外国人旅行者が一般の家庭を訪れて家族と交歓すること)の拡大に努めており,56年度には倉敷市が,更に57年度には成田市・広島市の2都市が新たに本制度に加わり,現在11都県市で行われている。また,登録家庭数は現在479軒で57年度の利用者は延べ2,382人であった。

 (イ) 総合観光案内所

      我が国を訪れる外国人旅行者に対する旅行その他の情報の提供,言語上の不便の解消等その接遇の向上を図るため,国際観光振興会は,新東京国際空港,東京有楽町及び京都駅前の3か所に外国人旅行者向け総合観光案内所(ツーリスト・インフォメーション・センター)を設置し,日本旅行に関する情報の提供及び案内を始め,我が国の文化,産業,生活等の情報を無料で外国人旅行者に提供している。57年における総合観光案内所の利用状況は,3案内所全体で,来所者数15万4,354人(対前年比31%増),電話による照会数2万9,390件(同66%増),手紙による照会数928件(同23%増)と大幅に伸びている。

 (ウ) 国際観光地整備調査及び「i」システムの整備外国人旅行者が団体旅行のみならず,我が国を独り歩きできるような環境づくりを進めるために,外国人旅行者の訪問の多い都市の外客受入体制の現状調査を行うとともに,現在地方公共団体や地方観光協会が設置している観光案内所について,外国人に対する案内や情報提供を行えるようその体制を整え,総合観光案内所と連携させて全国的な外国人旅行者向け案内情報提供ネットワーク(「i」システム)を整備するよう,関係地方公共団体等に働きかけている。

      57年度は,札幌,金沢,大阪,広島,福岡及び鹿児島の6地区について「i」システムを整備するとともに,案内職員の研修会を開催した。また上記6地区以外で外国人旅行者の多い横浜,名古屋,奈良,神戸,別府及び長崎の6地区の現状調査を行い,「i」システム整備計画案を作成した。

 (エ) トラベルフォンの実施

      我が国を訪れた外国人旅行者は,旅行中言葉が通じないため不自由な思いをしたり,いろいろなトラブルに遭遇することがある。国際観光振興会は,このような問題点を解消するとともに,外国人がひとりででも自由に国内を見て回り我が国に対する理解を深めてもらうことを目的として,外国人旅行者が外国語で電話により全国どこからでも無料(コレクト・コールによる)で相談,案内,通訳が受けられるトラベルフォン制度を57年4月1日創設した。なお,所要経費は観光関係企業,輸出関連企業等からの拠出金により賄われている。
      57年度におけるトラベルフォン利用件数は3万6,028件で内容的には交通機関宿泊施設に関する問合わせが多いが,病気,交通事故,紛失物探し等トラブルの解決にも役立っており,好評を博している。

 (オ) 善意通訳制度(グッドウィル・ガイド)

      外国人旅行者が日本国内を旅行する場合の最大の問題点は言語の障壁である。この問題を緩和するため,国際観光振興会は54年度から,外国語ができ,外国人が言葉の問題で困っている際に善意(グッドウィル)で通訳を行ってくれる者を募集し,適格者に対し善意通訳バッジと案内ハンドブックを交付して,困っている外国人を助ける制度を実施している。

(3) 国際社会と旅行業

 ア 国際社会における旅行業の役割

      (重要性増す旅行業の役割)
      今日の海外旅行の隆盛は,39年の日本人海外観光渡航の自由化,40年代の経済成長による所得水準の向上などが誘因となっているが,他方で旅行業者の存在も見逃すことができない。40年頃から旅行業者が実施を始めた主催旅行いわゆるパッケージ旅行は,旅行業者が旅行日程及び旅行代金の額を定め,旅行に必要な運送・宿泊等のサービスを組み合わせた上で参加旅行者を募集するもので,旅行業者は,大量仕入れ・大量販売によりコストダウンが望め,積極的な集客活動を行うことができ,旅行者は気軽に旅行に参加できるものである。現在,海外旅行においては,年間延べ160万人(海外渡航者約400万人の40%に当たる。)が主催旅行を利用している。このように,旅行業は,国際観光の振興を図る上で重要な役割を果たしている。

 イ 旅行業法の改正とその施行

      (トラブルの増加と旅行業法の改正)
      しかしながら,このような主催旅行の普及・拡販が進むにつれ,旅行業者と旅行者との間のトラブルも増加した。苦情の内容は,@旅行計画と実際の旅行内容が食い違っていることに起因するもの,A旅行契約の解除・取消に伴うもの,B旅行中の添乗員の添乗業務に関するもの,などである。
      このような状況にかんがみ,57年4月旅行業法が一部改正され,新たに主催旅行の定義を置くとともに,主催旅行を実施する旅行業者の営業保証金の引上げ,標準旅行業約款制度の導入,主催旅行の実施主体の明確化等取引準則の適正化が図られた(58年4月1日施行)。58年10月13日現在運輸大臣登録の一般旅行業者487社中436社(89.5%)が,主催旅行を実施する旨の届出をし,営業保証金の追加供託を終えている。
      また,標準旅行業約款は,58年2月に運輸大臣によって公示されるとともに各旅行業者に採用され,58年7月以降出発する旅行から適用されている。
      標準旅行業約款の概要は,次のとおりである。
     @ 主催旅行契約を独立した契約類型としてとらえ,手配旅行契約と分けて規定していること。
     A 従来使用されてきた旅行業約款の問題点を検討し,トラブルの要因とされていた条項を全面的に改正していること。この結果契約の成立時期,契約内容の変更,契約解除等これまで不明確だった規定が整備され,旅行業者と旅行者の権利義務関係が明らかになっていること。
     B 特別補償責任の規定をおき,旅行業者は,自己の過失の有無を問わず主催旅行中に旅行者の生命,身体及び手荷物に生じた損害について一定の額を限度として補償金を支払うものとしていること。

 ウ 今後の対応

      改正旅行業法の施行後,主催旅行を実施する旨の届出をして営業保証金の追加供託を行うこと,標準旅行業約款を自社の約款として採用すること等改正旅行業法施行体制への移行はおおむね順調に進んできた。しかしながら,同法施行後も@添乗業務の不適切さ等に起因する主催旅行中のトラブルがあとをたたない,A無登録営業により一般消費者が被害を被る,B主催旅行の募集広告の記載が不適当・不十分である,等の状況がみられる。このため,今後とも旅行業務の適正な運営を確保し,旅行者の安全・利便を確保するため,登録旅行業者に対する適切な指導・監督を進めていくとともに,関係当局の協力を得て,無登録営業に対する監視体制を整えていく必要がある。


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