2 海上保安体制の充実・強化


  (高まる海上保安体制充実・強化への要請)我が国は,海洋法条約を締結した場合には,領土の10倍を超える広大な海域において種々の主権的権利と管轄権を行使することができることとなり,200海里水域,200海里水域の外側にある大陸棚に対して権利を有効に行使し,海洋に関する自国の権益を確保するとともに,海洋秩序の確立を図ることは揺るがせにできないところである。

  我が国の周辺海域においては,ソ連,韓国,台湾を始めとする近隣諸国・地域の漁船が多数操業しており,57年には延べ約1万5,000隻が確認されている。これらの漁船については,操業海域の拡大,違法操業等の問題が生じている一方,ソ連,中国等の海洋調査船の活動は,近年活発化しており,海上保安庁が監視等を行ったものだけでも57年には22件を数えている。また我が国周辺海域における船舶からの油のたれ流し,産業廃棄物やし尿の海洋への違法投棄などは依然としてあとを絶たない状況にある。
  我が国はこれまでもこうした問題に対応する監視取締体制の整備に努めてきたが,今後,管轄権の拡大に伴い新たに監視取締りを必要とする分野は,海域的にも事項的にも大幅に広がり,更に広域にわたる実効的な体制を整備することが必要となってきている。
  さらに,活発化が予想される海底資源の開発はもとより海洋性レクリエーションに至るまでこれまで以上に安全確保対策の強化が求められることとなろう。
  海上における安全の確保は,従来から世界各国の課題でもあり,汎世界的な海難救助体制の確立をめざす「1979年の海上捜索救助に関する国際条約」(SAR条約)が54年国際海事機関(IMO)において採択された。現在のところ我が国は,この条約に加入していないが,58年7月25日現在,米国,英国,フランス,西独等13か国が締約国となっており,既に米国,オーストラリア等一部の国ではSAR条約の大きな柱である船位通報制度を設け,周辺海域における船舶の航行安全の確保のため努力している。
  我が国がSAR条約に加入した場合には,捜索救助についての責任分担区域が距岸1,000〜1,200海里にも及ぶ広大な海域となることが予想されるが,貿易国であり,また,水産国でもある我が国としては,このような国際的な海難救助体制の確立のために積極的に対応していく必要がある。
  (急がれる広域的な監視取締り,捜索救助体制の整備)
  海上保安庁では,海洋法条約やSAR条約の発効に備えて1,200海里にも及ぶ海域を対象として,「広域哨戒体制」と船位通報制度を中核とする「海洋情報システム」の整備を計画的に推進している。
  これは,ヘリコプター搭載型巡視船や大型航空機を有機的に組み合わせて,広大な海域における監視取締りあるいは捜索救助活動を機動的かつ効率的に行う体制を整備するとともに,これに加え,コンピューターを利用して民間船舶の位置の情報等を常時把握し,海難発生時の捜索区域や援助可能船舶の早期決定,航行中の船舶に対する適切な安全情報の提供等を迅速かつ的確に行う体制を合わせて整備し,海洋秩序の確立と海洋における安全の確保,環境の保全を強く推進しようとするものである。


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