4 国鉄再建監理委員会における審議


(1) 「緊急措置の基本的実施方針」に関する意見

  (内閣総理大臣に緊急提言)
  国鉄再建監理委員会は6月10日の発足以来,緊急対策の各事項について集中的に審議を行い,8月2日「日本国有鉄道の経営する事業の運営の改善のために緊急に講ずべき措置の基本的実施方針について」を取りまとめ内閣総理大臣に提出した。
  この意見は,国鉄の経営が破局的状況にあることを踏まえて,現行制度の下においてもできる限り経営の悪化を食い止めるとともに将来における効率的な経営形態の確立の円滑化に資するため,国及び国鉄において緊急に講ずべき措置についての基本的な実施方針を取りまとめたもので,国鉄の体質改善を内容とする「経営管理の適正化」,減量化を内容とする「事業分野の整理」及び財政の改善を内容とする「営業収支の改善及び債務増大の抑制」という3つの視点に立って具体的な措置が示されている。これらの緊急措置事項は,59年度予算上に的確に反映されるとともに,各事項は目標年次が明記してあるものを除き原則として60年度までに実施されることが求められている。
  その具体的内容は以下のとおりである。

 ア 経営管理の適正化

 (ア) 肥大化,硬直化した管理機構の見直し

      組織全般にわたって抜本的な見直しを行い,これを思い切って簡素化するとともに,本社については,類似機能を有する局の統合を行い,地方については,鉄道管理局に地方管理機能を集約すべきである。また,総局,地方駐在理事制度等の中間管理機構の必要性についても見直しを行うべきである。

 (イ) 企業性の欠如した体質からの脱却

      全役職員が意識改革をする必要性があり,このため役員・幹部職員の硬直化した人事運用を抜本的に改善するとともに,地方の幹部職員を中心にできる限り在任期間の長期化を図る必要がある。また,一般職員に対し,職業人としての教育の充実と能力主義を原則とする昇給昇格管理を適正に行う必要がある。

 (ウ) 職場規律の確立

      職場規律の確立について,現在行われている是正措置を着実に推進するとともに,定期的な総点検を行うこと等により組織全体への浸透を図るべきである。

 イ 事業分野の整理

 (ア) 鉄道特性を有する分野への特化

  @ 地方交通線については,第1次選定線について特定地方交通線対策協議会での協議の促進を図るとともに,第2次選定線についても承認を早急に行い引き続き同協議会の早期開催に踏み切るなど,全体として施策の速やかな実現を図るべきである。その他の地方交通線についても私鉄への譲渡,第三セクター化等民営化を積極的に推進するべきであり,その際引受けが円滑に行われるための条件整備を図る必要がある。また,地方交通線以外の路線であっても,国鉄の下では赤字であるがこれを独立させること等によって収支改善が可能となるような地域輸送主体の路線については,国鉄からの分離を検討する必要がある。

  A 貨物輸送体制の転換

      現行の輸送方式を抜本的に改め,拠点間直行輸送方式への全面転換を図り,これにより60年度に貨物固有経費について収支均衡を達成することとし,さらに,62年度までに国鉄が旅客輸送のみを行うとした場合に不要となる経費を回収し,旅客部門に負担をかけない体制の確立を目指すべきである。

 (イ) 営業体制の合理化

  @ 荷物輸送

      段階的に規模を縮小し,特定区間の直行利用運送を除いて荷物営業そのものは62年度までに廃止すべきである。

  A 自動車

      平均乗車密度5人未満の閑散路線については整理することとし,その他の赤字路線については民営バスと競合しているものは整理し,競合していないものについても民営バス等へ極力譲渡するとともに,残る路線についても徹底的に合理化を進めることが必要である。

  B 工場

      車両センター等を含め再編,統廃合を行うべきである。

  C 病院

      各個別の病院ごとの原価管理を行い,一般開放化と徹底的な合理化により速やかに収支均衡を目指すべきである。

 ウ 営業収支の改善及び債務増大の抑制

 (ア) 営業収支の改善

 @ 経費の縮減

 a 要員の縮減

      職員の多能的運用,輸送波動に即応した勤務形態の設定等により私鉄並みの生産性を目指して各現場の要員数を縮減する必要があり,この実効をあげるため,新規採用の原則停止を継続するとともに,配置転換の促進を図るべきである。

 b 期末手当,業績手当等の抑制

      当面,極力抑制に努める必要がある。

 c 物件費の節減

      合理化による業務量減等に即応して,確実に経費を縮減するなど総額を極力圧縮すべきである。

 A 収入の確保

 a 運賃

      運賃改定については,競争関係等を考慮して,基本的には慎重に対処する必要がある。また,全国一律運賃制度については早急にこれを是正し,例えば大都市圏,新幹線,その他幹線,地方といった分野に分け,大都市圏は厳しく抑制し,地方は割増を行う等原価を十分配慮して格差をつけるべきである。
      旅客運賃については増収のため昼間帯割引等きめの細かい制度の導入を推進すべきであり,貨物運賃割引については割引による収益と費用との関係等を十分考慮して所要の是正を行う必要がある。
      通勤,通学定期割引については,地域ごとに私鉄等の割引率とおおむね同一水準になるように62年度までに段階的に是正することとし,その他のいわゆる運賃上の公共負担としての割引については私鉄を超える負担部分について政府において所要の措置を講ずべきである。

 b 旅客増収施策の展開

      輸送サービスの向上等により,旅客営業において極力増収を図るべきである。

 c 関連事業からの増収

      経営の管理を強化する等により収益の還元に努めるほか,民間活力の一層の活用に努める必要がある。また,広告媒体等活用可能施設を総点検し増収を図るべきである。

 (イ) 設備投資の抑制

  a 債務の増大を抑制し,収支の悪化を防止していくためには,工事規模を可能な限り圧縮しなければならず,今後の設備投資については,老朽設備取替,安全対策及び環境保全のための投資のうち特に緊急度の高いものを除き,原則として停止すべきである。なお,東北新幹線上野乗り入れ及びこれに関連する通勤別線については,工事の継続も止むを得ない。また,整備新幹線計画は当面見合わせる。

  b 工事経費中工事関係職員の人件費等にあてられる総係費について工事規模の圧縮に対応して縮減を図り,あわせて工事関係組織の簡素化を進めるほか,工事の実施にあたっては仕様の設定等において十分コスト意識をもって臨むなど,工事費の節減に努めるべきである。

 c さらに,国鉄以外の事業主体が行う国鉄関係の設備投資についても,国鉄における設備投資抑制の趣旨を踏まえて徹底した見直しを行い,工事規模の抑制及び工事費の節減に努めるべきである。

 (ウ) 資産の売却

 a 債務の増大を抑制するため,資産売却を積極的に行う必要があり,この際未利用地のみならず,利用度の低い用地及び貨物合理化等により生ずる不用地についても早急に総点検を行って売却可能用地を積極的に生み出し,処分の促進を図るべきである。また,今後の資産処分に当たっては民間活力の導入を含め,大規模用地の売却を円滑に行うための仕組みを早急に検討する必要がある。

  b 現に事業の用に供されている土地についても,大都市圏における電車基地上空の高度利用など活用可能性のある土地を積極的に探し出し,その活用を図るべきである。

      この意見を受けて,政府は,8月5日,国鉄再建関係閣僚会議の議を経て,これを最大限尊重し,更に一層所要の施策の推進を図るものとする旨の閣議決定を行った。

(2) 59年度予算案についての意見

  58年8月30日,運輸省は,国鉄再建監理委員会に対し,国鉄の59年度概算要求について意見を求めたが,9月1日同委員会は,「59年度の国鉄予算の調整に当たっては,「借入金等」の総額及び「純損失」の額が58年度予算で予定している額(借入金等2兆5,600億円,純損失1兆6,890億円)を上回らないことを目標として最大限の努力をする必要があると考える。
  なお,59年度の運賃改定については,本年8月2日に当委員会が提出した意見(前述)に沿って適切に対処されたい。」とする意見を運輸大臣に提出した。


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