3 国際航空


(1) 国際航空の概況

 ア 航空輸送の現状と今後の見通し

      (景気停滞の影響を受ける航空輸送)
      世界の国際定期航空輸送の動きを国際民間航空機関(ICAO)加盟国の定期航空会社全体でみると,これまで一貫して需要が伸びてきているものの,80年以降伸びが低迷してきており,第1次石油危機の影響を受けた74〜75年以来の厳しい環境にある 〔2−3−7図〕。これは,第2次石油危機後の世界的な景気の停滞に起因していると考えられる。

      ICAOの調査報告によれば,このような現状にもかかわらず,今後国際航空需要は回復傾向を示し,82〜92年の10年間の年平均伸び率は,旅客輸送(人キロベース),貨物輸送(トンキロベース)ともに8.0%になると予測している。この予測は,過去10年間の航空輸送の伸び率と関連の経済指標の動きとを比較した場合,航空輸送は比較的良好なパフォーマンスを示していることを根拠としている。しかし,航空の分野における過去10年間は,機材の大型化によるスケール・メリットが大いに発揮された期間であったという特殊性があり・むしろ今後は,経済成長の鈍化と可処分所得の伸び悩み,石油価格が今後低落する見込みが薄いこと,環境問題等に起因する運航コストの増大等の問題からみて,過去10年間と同水準の伸び率を達成することができるかについては楽観は許されないという見方もある。

 イ 航空会社の財務状況

      (厳しさ増す航空企業の経営)
      航空企業の財務については,70年代は,第1次石油危機後の75年を除けば順調に推移してきた。しかし,第2次石油危機後,燃料コストの上昇(ICAO加盟国の定期航空会社全体でみると,営業支出に占める燃料コストの割合は,72年当時11%であったが,最近は29%に達している。),需要の低迷,機材購入に伴う償却費の負担増,人件費の増大等のため,多数の航空企業で欠損を計上しており,ICAO加盟国の定期航空会社全体でみても80年以降3年連続の欠損という状況にある。このような状況の中で,82年2月のレイカー航空(英国),同年5月のブラニフ航空(米国)のように低運賃政策により急成長を図った企業が倒産した。83年9月には,コンチネンタル航空(米国)が破産法に基づく手続を開始している。
      今後も,当面需要の大幅な増加が期待できないということに加え,@ICAOの騒音規制に対応するための新機材の導入等新たな投資が必要なこと,A米国の高金利が引き金となって各航空会社の利払い額が増加していること,B各航空会社間の競争激化に伴い運賃の引上げが難しいこと等からみて,当面厳しい状況が続くものと考えられる。

 ウ 路線参入及び運賃に関する世界各国の政策の動向

      (国によって異なる航空規制のあり方)
      路線参入及び運賃に関する世界各国の政策を概観すると,規制のあり方及びその程度は,国によって異なっている。
      米国は,市場における自由競争によって多様なサービスや低廉な運賃が実現され,利用者を始め,企業,労働者にとっても利益が生ずるとの考えから,路線参入の自由化,運賃の自由化等を内容とするいわゆるデレギュレーション(規制緩和)政策を宣言し,国内においてこれを実施するとともに,国際的にもその実現を進めようとしてきた。
      この政策は,国内的には,政策導入の初期においては需要の大幅な拡大をもたらしたが,その後の燃料コストの上昇,需要の低迷等により,最近においては各企業の経営は苦しくなっている。一方,国際的には,当初積極的に自由化政策の実現に努めていた米国ではあるが,最近では,自国企業の保護のために相手国に与える権益について制限的に対応する等の傾向がみられると指摘されている。
      英国は,資源の効率的利用,利用者ニーズの充足及び利用者間の衡平を政策の根底に置いており,市場に対する経済的規制は最小限にとどめるとしており,規制の緩和を指向している。
      フランスは,地域分割のもとで1路線1社主義をとっているが,政府による規制を通じて利用者の利益と航空権益の維持発展を図ることを基本としており,米国のデレギュレーション政策には強く反対している。
      西独は,全域について1社独占主義をとっており,政府による規制を通じて公益を達成することを基本としているが,米国のデレギュレーション政策に対する対応は,フランスに比べてより弾力的である。
      このように各国の政策には多様性があるが,米国のデレギュレーション政策をそのまま受け入れることに反対していることには共通点がみられる。
      これに対し,我が国周辺のアジアの諸国(韓国,フィリピン,シンガポール,タイ等)は,我が国及び米国との間の航空輸送を重要な基盤としているが,我が国との航空関係においては,輸送力規制及び運賃規制を維持しているものの,米国との関係においては,カーター政権下におけるデレギュレーション政策の最盛期において,航空関係の拡大を指向して米国との間の輸送力規制を大幅に緩和し,運賃を自由化した。
      我が国は,このような国際環境下において適正な輸送力規制を維持しつつ,運賃については国際航空運送協会(IATA)における関係企業問の協議結果を尊重する立場をとっており,デレギュレーション政策は支持していない。

 エ ICAOの場における輸送力規制及び運賃問題の検討

      (輸送力規制について事前審査主義のモデル条項を採択)
      ICAOにおいても,77年,80年の2回にわたり航空運送会議が開催され,輸送力規制,国際運賃問題等の討議が行われた。その結果,輸送力規制については,規制の基準として2国間の輸送需要を第一義的に考慮することの必要性を確認し,規制に関し事前審査主義(提供輸送力を予め航空当局間で需要予測に基づいて決定する方式),事後審査主義,自由決定主義の3つの立場があることを指摘した上で,我が国を含めて大部分の国が支持する事前審査主義のモデル条項を採択した。さらに,各国に対し輸送力規制に当たっては,空港,航空路,資源等の効率的活用及び環境保護の必要性を考慮すべきことを勧告した。
      (運賃についてはIATA尊重主義を指向)
      また,国際運賃問題については,IATAにおける航空企業の運賃協定締結の努力を支持しつつ,航空企業のIATAへの積極的参加,IATAにおける運賃決定に際してのICAO代表の参加等によりIATAにおいて公正に運賃が決定されるべきこと等が勧告された。米国が主張する運賃の自由決定主義は支持が少なく,我が国を含む世界の大勢がIATA尊重主義を指向していることが示された。

(2) 我が国をめぐる国際航空旅客輸送の発展

 ア 路線網の特徴と参入航空企業の現状

      (世界でも有数の航空市場である日本)
      我が国は,現在,世界でも有数の航空市場を形成しており,我が国航空企業(日本航空及び日本アジア航空)により30か国1地域45都市と,外国航空企業(36社)により35か国1地域74都市との航空輸送ネットワークが形成されている。82年度の我が国発着国際航空旅客数は,方面別にアジア785万人(57.4%),北米437万人(31.9%),欧州111万人(8.1%),その他36万人(2.6%),合計1,369万人となっている 〔2−3−8図〕

      我が国をめぐる路線網の特徴は,我が国が米国から東アジア・東南アジア諸国への航空路の中間に位置し,かつ,我が国が米国とともに世界でも有数の国際航空旅客の需要がある国であることから,世界各国の航空企業が我が国をめぐる路線に参入しており,また,新たに参入することを希望していることである。
      (経営拡大を目指す我が国乗入れ航空企業)
      我が国と東南アジア(香港,バンコク等)との間の路線には,双方の航空企業に加えて,米国,中東及び欧州の航空企業が参入しており,また,日米間の路線には,米国の5航空企業及び我が国の航空企業に加えて,韓国,シンガポール,タイ等の6企業が参入して激しい競争を展開している。
      我が国を含むアジア・太平洋地域の諸国の航空企業の過去10年間の輸送シェアの変化をみると,72年には世界全体の13.0%であったものが,82年には26.4%とシェアが倍増している。世界の航空企業(国際線)のランク付けをみても72年の世界10傑には,日本航空(7位)のみが入っていたのに対し,82年には日本航空(1位),シンガポール航空(7位),大韓航空(8位)と3社に増えている。東南アジア諸国の航空企業は,自国の市場に加えて日米両国の市場に参入することにより着実な発展を遂げつつあり,世界の多くの航空企業が赤字を出している現状において,黒字経営を維持しているものが多いことは注目に値する。また,米国の航空企業も需要の低迷と競争の激化により企業経営が全般的に悪化しているものの,一部の航空企業は,徹底した合理化を進めながらこの市場において積極的にその経営規模を拡大していることが注目される。これらの諸国の航空企業の進出は,我が国の航空企業に大きな影響を及ぼしている。

 イ 使用機材の大型化

      (大量高速輸送時代の到来)
      戦後の我が国をめぐる国際航空は,使用されてきた機材の面から大まかに4つの時期に分類することができる。第1期はプロペラ機時代であり,47年にノースウエスト航空がニューヨーク〜東京〜マニラ線を開設したのを最初とし,外国企業が相次いで我が国への乗入れを開始した。日本航空も54年にDC6による東京〜サンフランシスコ線(中間2地点寄港)の運航を開始した。第2期はジェット機時代であり,59年に英国海外航空がロンドン〜東京線(中間7地点寄港)にコメットIVを導入したのが最初である。日本航空も60年,DC8を太平洋線(中間1地点寄港)に導入し,以後1年足らずのうちに自社国際線機材全てのジェット化を完了した。第3期はジャンボ機時代であり,70年3月パンアメリカン航空がB747を太平洋線に導入し,同年7月,日本航空もこれを導入した。全体の運航便数に占めるB747の比率をみると72年30%,74年44%,79年51%,82年65%であり,太平洋線,北回り欧州線等を中心に急速に機材の大型化が進行した。このように本格的大量高速輸送時代を迎え,単位当たり運航コストの低減が実質運賃額の低下という形で反映され,これが更に輸送需要を誘発することにもなった。特に,過去20年間もエコノミー運賃額がほぼ同水準で推移していることや団体包括割引運賃制(対エコノミー4割〜7割引き)の導入により海外旅行の大衆化時代を迎え,我が国発着国際航空旅客数に占める日本人のシェアも,69年当時の36%から82年には56%へと増大した。第4期は省エネ中型機時代である。2度の石油危機を経て,景気の低迷が輸送需要の伸び悩みとなって現われる一方,燃料価格の高騰,環境問題への関心の高まり等から,B767,A310といった低燃費,低騒音の中型機が開発された。しかし,これらの新機材は,DC8,B727等の後継機として位置付けられるものであり,長距離幹線輸送は,ジャンボ機中心の現状が変化する兆しはみられず,機材の大型化による生産性の向上はここ当分期待できない。このことは,現在の路線の運航形態がここしばらく続くことを予想させるものである。

 ウ 輸送需要の推移

      (伸び悩みの傾向をみせる我が国発着旅客数)
      我が国発着の国際定期路線の年度別旅客数の推移をみると,69年以降,全体旅客数は年平均約20%近い伸び率を示し,特に欧州,アジア等への日本人旅客数は著しく伸びた。第1次石油危機後,全体旅客数の伸びは10%前後となったが,それでも日本人旅客数の伸び率は常にこれを上回っていた。この背景には,機材の大型化とこれに伴う団体包括割引運賃制の導入,国民の所得水準上昇のほか,観光旅行客の外貨持出制限枠の緩和(69年700ドル,70年1,000ドル,71年3,000ドル,78年制限撤廃)等が相まって高水準の伸び率が維持されたものと考えられる。しかし,最近の日本人旅客数の伸び率は,第2次石油危機後の80年度において初めてマイナスに転じるなど伸び悩みの傾向が見られ,今後は,外国人旅客数が増加傾向を示していることや世界景気に回復の兆しがみられること等の増加要因があるものの,現在のところ,全体旅客数も伸び悩みの傾向にある。

(3) 我が国をめぐる国際航空貨物輸送の発展

 ア 使用機材の大型化

      (ジャンボ貨物専用機が主流となった航空貨物輸送)
      70年代に入り,旅客機の大型化に伴い下部貨物室のスペース(ペリー)が拡大されたこと,旅客需要の増大に伴い便数が増えたこと等により,大幅な貨物輸送力の増大がもたらされた。
      また,貨物専用機も大型化が進められ,74年に太平洋線にジャンボ貨物専用機が導入されて以来,1機当たりの貨物搭載可能重量は飛躍的に増大し,その後もエンジン機能改良により輸送能力が更に増大し,各路線での航空貨物輸送の主力機材として運航されている。貨物専用機は,貨物の流れに即した時間帯での運航が可能であるため,貨物の取扱高も多く,例えば,太平洋線では約80%が貨物専用機により運送されている。
      貨物輸送力の増大は,大幅な生産性の向上をもたらし,その結果,実質ベースでの貨物運賃は第2次石油危機前までの間年々低下し,貨物需要の大幅な増大に大きく寄与してきた。

 イ 貨物輸送需要の増大

      (堅調に増加している我が国発着貨物)
      我が国発着の国際航空貨物輸送の取扱量は,近年における我が国産業構造の変化,特に基礎素材型産業から高付加価値知識集約型の加工組立型産業への移行,所得水準の上昇と価値観の多様化に伴う消費構造の高級化・多様化,航空貨物運賃の実質的な低下等を背景とし,第1次石油危機後の74年度にマイナスの伸びとなった他は堅調に増加してきている。以上のような状況を反映して日米間の品目別航空貨物の取扱量も,輸出ではVTR,オーディオ製品等高付加価値製品が増加しており,輸入では果物,魚類のシェアが高いものとなっている。

 ウ 国際航空貨物路線網の拡大

      (米国航空企業等の輸送力の増強)
      我が国をめぐる国際航空貨物路線網においては,旅客機のペリーによる貨物輸送が行われているほか,我が国が国際航空貨物の大量発着地点であるため,多くの航空企業が貨物専用便を運航している。航空貨物輸送のみを行っているのは,米国企業1社とレバノン企業1社であるが,このほか日本航空を含め12企業が米国,東南アジア,中東,欧州等の地域との間の貨物専用便運航を行っている。
      航空貨物量をみると,特に太平洋線では,日本発の貨物が日本着の貨物に比較してかなり多くなっており,日本発の貨物輸送需要がこれら企業の貨物輸送力の決定の一つの基準となっている。日本発着貨物を地域別にみると,米国及び東アジア地域のウエイトが高い。また,航空貨物需要については順調に推移しており,82年にいったん低迷したものの83年に入ってからは再び活況を呈してきている。これに対応して前述の我が国乗入れ企業,特に米国航空企業が大幅に輸送力を増強している傾向がみられる。

 エ 日本貨物航空の太平洋線免許

      (我が国国際航空貨物の分野は2社体制へ)
      このような国際航空貨物輸送の動向等を背景として,海運企業4社及び全日本空輸の出資する日本貨物航空は78年11月,東京〜サンフランシスコ〜ニューヨーク路線における85年4月1日からの貨物専用便による定期航空運送事業の免許を運輸大臣に申請した。
      本申請については,その処分に関し懸案となっていた日米航空交渉問題及び新東京国際空港の燃料パイプラインによる燃料輸送問題が一応の解決をみたことから,83年4月,運輸審議会に対する諮問を行った。同審議会では公聴会の開催等の手続を経て,同年8月,本件は貨物専用便に限り免許することが適当である旨の答申を行った。運輸大臣は,これを受け,直ちにその趣旨に従って,日本貨物航空に対し,事業対象を貨物専用便に限る旨の条件を付した上で申請を免許するとともに,同社に対し@新規需要の開拓,サービスの向上等に努めるとともに,安全かつ効率的な経営を行い,健全な経営のもとに国際航空貨物輸送の伸長に努めることA事業運営に係る重要事項(輸送力の増強,市場秩序の維持等)については日本航空と十分協調を図ることを要請した。本件の処分により,我が国としては国際航空貨物の分野において,初めて2社体制をとることになった。

(4) 航空交渉

 ア 過去1年間の航空交渉

      過去1年間の航空交渉の実績をみると,航空協定締結交渉としては,スリランカ及びオーストリアとの交渉があり,その結果,スリランカとは航空協定の仮署名が行われた。オーストリアについては検討中である。2国間の輸送力の取極のための交渉としては,シンガポール,タイ,フィリピンとの間で,各国指定航空企業の日本以遠太平洋線における便数取極をめぐって度々交渉が行われ,これらの一部は,中曽根総理大臣のASEAN歴訪の際の懸案の一つともなっていたが,これらの諸国の太平洋線増便につき,無事交渉がまとまった。このほか,2国間の輸送力の拡大を図るための交渉が中国,エジプト,ギリシア,オランダ及びスイスとの間に行われ,それぞれ合意が成立した。インドネシアとの交渉では,デンパサール(バリ島)の地点の開放と日本・インドネシア間の増便の問題について,ブラジルとの交渉では日本・ブラジル間の路線拡充及び増便の問題について,それぞれ引き続き検討を行うこととなった。

 イ 我が国が行う航空交渉において考慮すべき要因

      (観光目的客の比重が高い我が国発着航空路線)
      (ア) 我が国をめぐる国際定期航空輸送の特徴は,業務目的の海外渡航者中心の路線(ニューヨーク,中東諸国等との路線)もあるが,観光目的のグループ客の比重が圧倒的な路線(ハワイ,グアム,サイパン,欧州路線)が多いことである。この状況は,欧州域内の定期航空路線において個人客が中心であることと対照的である。また,東南アジア/中東地域間にみられるような大量の労働者の輸送や北米でみられるような移住者及びその家族に関連した輸送などは,我が国をめぐる路線にはほとんどみられない。このような事情を反映して,我が国をめぐる航空需要は,東アジア・東南アジア地域,米国本土,ハワイ,ミクロネシア,欧州の諸国に集中している。
      (2地点直行輸送に重点を置く日本航空)
      (イ) 我が国の指定航空企業である日本航空は,日本を中心とした旅客需要の多い地点について2地点直行折返し輸送をすることに重点をおいている。このことは経済的にみれば合理性があるものと考えられる。したがって,我が国が行う航空交渉においては,乗入れ地点の拡大をめぐる交渉よりも,むしろ,現在運営されている路線における使用機材及び便数に係る輸送力の調整が交渉の重点事項となっている。
      (外国航空企業による我が国をめぐる三国間輸送の問題点)
      (ウ) 日本航空のこのような経営方針は,機材の性能向上及び大型化に伴いますます著しくなってきており,例えば日本からオーストラリアまで直行が可能になった段階で,その中間にある東南アジアの諸国への中間地点としての寄港がなくなり,これら地点に係る以遠権の行使(三国間輸送)がなくなった。このような2地点の直行化は,旅客の利便,燃料の節減,運航時間の短縮等による運航コストの抑制の観点からも支持されるべきものであろう。
      これに対し,米国及び東アジア・東南アジア諸国の航空企業には,日本の地点を中間地点又は以遠地点(東南アジアの地点-中間地点-日本又は東南アジアの地点-日本-以遠地点)とし,日本との三国間輸送を依然として重視しているところが多い。
      我が国をめぐる外国航空企業の三国間輸送には,次のような問題点がある。まず,我が国の指定航空企業が外国の地点から以遠の区間の2国間輸送を限定的にしか行っていないのに対して,外国の航空企業が我が国をめぐる三国間輸送を大規模に行うことは,均衡のとれた航空権益の確保という観点から問題がある。
      次に,我が国と航空関係を有している相手国との2国間の航空路線においては,両国の指定航空企業を中心とした適切なレベルの輸送力が設定されるのが原則であるが,当該路線への第三国企業の過大な参入の結果,両国企業による路線の円滑な運営に支障を来たすことになるのは望ましくない。例えば,我が国と相手国との路線において第三国企業のシェアが我が国と相手国の航空企業のシェアを上回るようなことは,極端な事例であり問題であろう。
      このような三国間輸送の経緯をみると,70年代の初期までは,機材の航続距離の制約,直行需要の規模の不十分さのために,遠く離れた2国間の路線を維持するためには,2国間の中間地点への寄港又は2国間の以遠地点への就航のような三国間の輸送が重要な役割を果たしていたが,機材の性能向上によりこれらの三国間輸送の役割を見直す時機が到来しつつあるものと認められる。しかしながら,このような三国間輸送を重要視する国々も多く,既にこのような権益を交換している場合においては,日本側が権益を行使しないことを根拠として相手側に既得権益の行使の抑制を求めても,強い抵抗があることは事実である。

 ウ 今後の航空交渉

      既に述べたとおり,我が国の国際航空網上の重要性にかんがみ,我が国に新規乗入れを希望する国や我が国をめぐる路線において輸送力を大幅に増大させることを希望する国が多く,毎年25回前後の航空交渉が行われている。今後の航空交渉に当たっては,以下の点に留意すべきである。
      (路線開設の重要な要素である直行輸送需要量)
      (ア) まず,我が国に新規乗入れを希望する国と航空交渉をする場合には,当該国との関係において,政治,経済,文化等の交流関係,直行航空需要,両国の指定企業の乗入れ計画,相手国企業の航空の安全対策,事故が生じた場合の損害賠償能力等の利用者保護のための措置,ハイジャック防止対策に万全を期しているかなどの諸点にっき検討をすることとなるが,交渉の際,最も問題になる点が路線開設を正当化する直行輸送需要があるか否かである。(需要に見合った輸送力の設定)
      (イ) 次に,既に2国間の航空関係がある国との間において当該路線の使用機材や増便をめぐって協議をする場合には,2国間の航空輸送需要の分析が最も重要となる。我が国と太平洋上の島との間のように需要の把握が簡単な場合を除き,航空輸送需要の把握は容易でない場合が多い。相手国との間に適正な航空輸送需要がないところに路線を設定しても三国間の輸送(相手国企業による日本周辺の輸送又は日本以遠の輸送)の比重が高まる結果になるだけである。従って,今後とも2国間の航空輸送力の設定に当たっては,その間の輸送需要の把握・分析につとめ,当該両国間の輸送需要に見合った輸送力の設定を図るべきであろう。世界の航空輸送の実態をみても,旅客輸送需要の多い2大都市間(パリ〜ニューヨーク,パリ〜ロンドン等)の輸送は,両当事国の航空企業が中心となって運営されているのが通例である。
      今後の航空交渉においては,外国企業の我が国をめぐる三国間輸送については,以上の理由により,過去に設定された輸送力の見直しも含めで慎重な対応をしていく必要があろう。それとともに,我が国の指定航空企業自体も外国企業の攻勢に対し,十分商業的に競争をしてシェアの維持ができるよう一層の合理化と旅客に対するサービスの向上に努めることが望まれる。(航空関係以外の事項に基づく要求への慎重な対応)
      (ウ) また,最近一部の国が航空交渉において航空関係以外の事項を理由に航空上の権益の譲歩を求める事例が見受けられるが,航空関係は,両当事国の合意した航空協定によって律せられるべきであって,それ以外の要因を過大に考慮をすることは,同様な配慮を他国から求められてこれに応じられない場合に当該国に対し差別的な取扱いになることも考えると慎重にならざるを得ない。
      (利用者利便の向上と均衡のとれた航空権益の確保に配慮した航空交渉)
      (エ)このように種々の問題を抱えつつも,世界に有数な航空需要を有する国として,我が国が世界各国の注目と関心を集めていることは,喜ばしいことである。幸い,新東京国際空港の燃料パイプラインが83年8月から供用開始され,同空港の大きな制約条件の1つであった燃料供給上の問題が除去されたことは,それだけ諸外国との航空関係が改善されることを意味し,同空港が我が国の表玄関であるだけにその意義は極めて大きい。これを契機に,諸外国の航空当局から我が国への新規乗入れ,我が国をめぐる路線への輸送力の増強等についての要求が高まると予想されるが,上述のように,2国間の航空輸送需要を十分踏まえつつ,基本的に何が真に我が国をめぐる利用者の利便になるかを考え,かつ,最も自由な国際航空政策を採用している国でさえ権益の均衡のとれた交換という面を極めて重視している現実にかんがみ,我が国の航空関係における均衡のとれた権益の交換という面にも十分配慮しつつ,今後とも航空交渉を行う必要があろう。

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