2 運輸における情報化の動向
(1) 鉄道線路敷を利用した情報通信網の形成
(推進される鉄道線路敷の高度利用)
最近,国鉄の第二電電構想や民鉄のCATV(有線テレビ)事業への進出などに見られるように運輸事業者がその施設を高度利用することにより情報通信産業への展開を図る動きが活発化しているが,これは,上述のE運輸の用に供されている施設の高度利用が情報化の促進に資する関係が事業ベースで具体化しているものといえよう。
国鉄の第二電電構想は,東京〜大阪間の東海道新幹線鉄道線路敷に光ファイバーケーブルを敷設する等により,データ通信サービス,電話サービス等を行おうとするものであり,第101回特別国会で継続審議となった電気通信事業法の成立,施行後に事業の具体化を図るべく,本年10月に調査会社が設立されている。このような構想を国鉄が押し進めているのは,国鉄が,都市間を最短距離で結ぶ鉄道線路敷を全国網で有していること,既に自らの鉄道通信網を有し,またこれを利用した座席予約,列車運行,コンテナ情報等の各種情報システムが整備されていて,高度な情報通信技術や多数の通信関係技術者を有していること等,鉄道事業の有利性を最大限活用して新たな事業分野への展開を図ろうとしているためである。
一方,東京,大阪等の都市部に路線を有する一部民鉄も,自らの有する鉄道線路敷に光ファイバーケーブルを敷設し,CATV事業への進出を図っており,鉄道沿線の付加価値を増大させ,沿線開発の大きな柱のひとつとなることが期待されている。
このような運輸事業者がその施設を高度利用して情報通信産業へ進出することは,事業の経営基盤の強化に資するばかりでなく,鉄道線路敷を利用した全国的な情報通信ネットワークの形成により我が国の高度情報化の促進に寄与するとともに,鉄道沿線地域の活性化に資する等様々の経済的,社会的効用をもたらすものであるので,その推進を図ることが必要である。
(2) 交通ターミナルの情報化
(交通ターミナルを情報拠点へ)
駅,空港,物流ターミナル等の交通ターミナルは,多くの人及び物が集合する場所であること,余裕空間を有していること,施設の集積があること等の特性を有していることから,ニューメディアを導入し,そこで交通情報等の関係情報を提供できる情報拠点として整備すれば,利用者利便が向上するばかりでなく,ターミナル周辺の各種情報の提供により地域社会の活性化等が図られるものと考えられる。こうした交通ターミナルの情報化は,交通ターミナルを単なる交通の拠点から,運輸情報ネットワークの拠点や地域における情報拠点へと発展させる意義を有するのでその具体化について検討していくことが必要である 〔1−3−1図〕。
(3) 情報化による運輸需要の喚起
(望まれる運輸情報ネットワークシステムの整備)
情報化が運輸の需要喚起に資する関係としては,例えば宿泊情報,観光情報等を利用者ニーズに適合するあるいは先取りする形で提供することによって旅行需要が増大することや,さらには家庭にいながらにしてバス等の運行状況がわかるシステムの整備等によりマイカーから公共輸送機関へ需要転換が行われること等が挙げられよう。余暇時間の増大,国民ニーズの多様化,時間価値の増大等から,国民は旅行,観光その他の運輸サービスに関するより高度で総合的な情報サービスを求めており,これに的確に応えることができれば,旅行需要の顕在化につながるものと考えられる。このためには,各種情報システムのネットワーク化またはオンライン化による情報提供体制の整備が有効であり,ネットワーク構築のための基本的条件の整備等が必要である。
(4) 情報化による運輸の効率化と利便の増進
(運輸の効率化と利便の増進のために)
情報化が運輸の効率化に資する関係については,旅客の分野においては都市新バスシステム,デマンドバスシステム,タクシー業におけるAVMシステム(車両位置等自動表示システム)等のシステムが稼動しており,旅客交通の効率化に大きく寄与しているが,近年は,物流の分野における活発な動きが目立っている。
57年10月の公衆電気通信法に基づく郵政省令の制定によりいわゆる中小企業VAN(付加価値通信網)が可能となったが,物流業者は,各種情報の交換,荷動きの把握等にVANを利用し,その業務の効率化を図っている。このようにVANサービスは,情報の伝達に対し大きな威力を発揮し,物流の効率化に資するものであることから,今後ますます重要な役割を果たしていくものと期待される。
また,港湾における物流の効率化という面からは,港湾貨物情報ネットワークシステム(SHIPNETS)が注目される。これは,海貨業者,検数・検量業者,船会社等の複数の港湾関係業者をオンラインで結び,港湾貨物に係る情報の伝達,交換を行うことによって業務の効率化を図ろうとするものであり,60年度早々に京浜港において,ほぼ実際の運用に近い実験が予定される等,その本格的実施に向けて着々と計画が推し進められている。
人や物の円滑なモビリティを確保して経済の発展と国民生活の向上に資するという運輸の目標からいえば,このような運輸の効率化に資する情報システムの整備を推進していくことが必要である。
また,情報化が運輸の利便の増進に資する関係としては,キャッシュレス時代に応じてカードで交通機関を利用できる乗車カードシステムの採用や,ホテルの客室でCATVを利用した交通情報等の各種案内や映画が見られるホテル・インフォメーション・システムの導入等が挙げられる。ニューメディア等を利用した情報化によって運輸サービスの質を向上させることにより,利用者利便の増進を図ることは,今後の高度情報化時代における運輸サービスのあり方として肝要なものと考えられる。なお,運輸省においては,大都市における電車,バス,タクシー等の都市公共交通機関の利用者利便の増進,交通事業者の事業運営の合理化等を図るため,一枚のカードでこれら複数の交通機関に乗車できる共通乗車カードシステムの導入,普及についての検討を進めているところである。
(5) 情報化による運輸の安全性の向上
(運輸の安全のために)
コンピュータ等を利用した情報システムは,運輸の安全についても多大の貢献をしている。鉄道の分野においては,早い時期から運行の安全を確保するため自動列車制御装置(ATC),列車集中制御装置(CTC)等の導入が進められてきたが,近年は,国鉄の新幹線運転管理システム(COMTRAC),営団地下鉄の自動列車運行制御装置(PTC)等鉄道輸送の運行管理を総合的に行うシステムが稼動している。
航空管制の分野においても,45年12月からコンピュータシステムが導入されており,現在では,ターミナルレーダー情報処理システム(ARTS),航空路レーダー情報処理システム(RDP)等航空機の運航に関する情報をコンピュータで処理し航空機の自動識別及び追尾を行うのみならず,レーダー表示面上に航空機の便名,飛行高度等の飛行情報を表示させて管制を行うシステムを稼動させている。
また,海上交通の安全の確保の面から,海上保安庁は,船舶交通の特にふくそうする東京湾に52年「東京湾海上交通センター」を設置し,レーダーにより船舶航行の状況を常時監視するとともに,レーダー映像をはじめとする各種情報をコンピュータ処理し,船舶に対する情報提供,航行管制等の業務を行っている。また,我が国有数のふくそう海域である関門海峡を含む瀬戸内海においても同様のシステムを導入することとし,関門海域において一部業務を開始したところである。さらに,海上保安庁では航行中の民間船舶の位置情報等をコンピュータ処理することによって常時把握し,海難発生時における船舶の捜索を迅速に行うための海洋情報システムの整備を推進している。
交通機関がますます高速化,大型化し,その量自体も増加している中で,輸送の安全を確実に図るためには,大量の情報を迅速かつ正確に処理し,的確な判断等を行うことが必要であり,この意味からコンピュータシステムをさらに拡充する等による情報化の推進が重要である。
(6) 情報化による運輸産業の経営基盤の強化
(運輸産業の新たな発展)
鉄道事業者が,総合経営の一環として,本来の事業と密接な関係にある通信事業やCATV事業に進出し,顧客を増加させる等その事業の経営基盤の強化を図る場合や物流業者が自らのVANを活用して各種サービスを提供し,荷主の獲得等を図る場合等が,情報化により運輸産業の経営基盤が強化される関係である。運輸産業が自己の持てる有利性等を生かして情報化を戦略的手段とすることにより事業の発展を図ることは,総合産業としての新たな飛躍をもたらす可能性を有しているため,その積極的な展開が期待される。
以上が運輸における情報化の動向の概要であるが,このほか,ニューメディア等の開発・発展によりテレビ会議や在宅勤務が普及し,出張や通勤が減少する等,運輸需要にマイナスの影響が出る側面があるという見方もあり,これについては,今後の動向を見守る必要がある。
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