1 地域交通をとりまく現状と課題


  通勤・通学,買物,訪問,その他の日常生活に欠かすことのできない交通は,自家用乗用車の普及,過密,過疎の進展等に伴い各地域において様々な問題を抱えており,その解決が強く求められている。
 (依然として続くモータリゼーション)
  我が国の自家用乗用車数は,昭和40年度末で,214万台,11世帯に1台であった。その後,自動車の利便性,国民生活水準の向上等によりモータリゼーションが急速に進展し,48年の第1次石油ショック以降も若干の伸びの低下は見られたものの依然として増加を続け,58年度末には,2,607万台,1.5世帯に1台となり,40年度の約12倍となっている 〔2−2−1図〕
 (いずれの地域でも高い普及状況)
  その普及状況を都道府県別にみると,40年度末には,愛知県をはじめとする大都市圏における普及率が高く(6世帯〜10世帯に1台),地方では最下位の鹿児島県が33世帯に1台というように,地域によってかなりバラつきがみられたが,その後,地方において自家用乗用車が急速に普及したため,58年度末には,全国1位の群馬県が0.9世帯に1台,最下位の東京都が2.3世帯に1台となっており,地域による差は減少し,いずれの地域も高い普及状況を示している 〔2−2−2表〕

 (地方都市の人口増加率が高い)
  また,一方,30年代半ばからの我が国の高度経済成長に伴い,地方から大都市圏に大量の人口が流入し 〔2−2−3図〕,この結果,国土面積の10%にすぎない三大都市圏に人口の45%が集中し,過密・過疎現象を発生させることとなった。三大都市圏への人口流入は,交通渋滞や住宅三大都市圏の転入超過内訳難等に代表される過密による各種の弊害が顕在化してきたことや全国的に定住意識が高まっていることなどにより,40年代後半から減少し,50年代には,東京圏では依然流入超過が続いているものの総体としては低い水準で推移している。他方,地方においては,地方定住促進のための各種施策が次第に効果をあらわし,人口の地方定着が進展してきており,特に地方中枢・中核都市やそれらの周辺部においては人口の増加率が高くなっている。

 (地域交通の抱える問題点)
  以上のようなモータリゼーションの進展,人口の動態的な変化を経て地域交通は次第に次のような問題を抱えるに至っている。
  すなわち,大都市においては,都心部の業務機能が集積する一方,人口のドーナツ化現象が一層顕著になり,通勤・通学時の鉄道輸送の混雑は依然として著しく,また,自動車交通量の増大による慢性的な交通渋滞のため,バスは,表定速度が低下し,定時運行の確保が図れないことなどによりその機能が十分発揮できない状況にある。また,モータリゼーションの進展は,交通事故,交通公害などを惹起せしめ,大きな社会問題となっている。
  また,地方中枢・中核都市においては,近年の人口の急増と自動車交通量の増大により,中心部における交通渋滞等のいわゆるミニ大都市問題を発生させる一方,その周辺部では,人口の分散,拡大化に伴い,公共交通機関による輸送需要への対応を次第に困難なものにしてきている。
  さらに,農山漁村地域においては,自家用乗用車の急速な普及と人口の減少により,公共交通機関の利用が激減し,その経営を極度に困難にしており,公共交通機関を利用せざるを得ない人々の足の確保という問題を発生させている。
 (地域交通サービスの質的充実への要請が高まる)
  さらに,高度経済成長期には,欧米へのキャッチアップをモットーに物質的な豊かさの追求が国民的課題とされていたが,物質的な豊かさが次第に充足されるに伴い,国民の生活意識や行動様式は大きく変化し,ゆとりのある生活への指向が強まるとともに,生活意識の個性化,価値観の多様化等が進んでいる。
  このような国民の生活意識や行動様式の変化をふまえて,地域交通の分野においても,多様化する国民のニーズに的確に対応するとともに,高速性,快適性,安全性等質的な側面の充実を図り,きめ細かいサービスを展開することが求められている。


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