3 国際航空
(1) 航空輸送の発展
(明るさを取り戻し始めた世界の航空輸送)
世界の国際定期航空輸送量の伸び率は,1970年代後半は10%前後で推移してきたが,1980年代に入ってからは,第2次石油危機後の世界的な景気の停滞の影響を受け,伸び悩みの状況となっている。しかし,世界の景気も,1983年以降ゆるやかな回復過程に入っており,1983年の航空輸送量も,国際民間航空機関(ICAO)加盟国の定期航空会社全体でみると,国際及び国内の定期航空による有償トンキロは,1,455億トンキロ(対前年比5.7%増,1982年は2.0%増),そのうち国際線は734億トンキロ(対前年比5.0%増,1982年は2.0%増)と,昨年以上に増加すると見込まれており,久々に明るさを取り戻し始めたと考えられる。
このうち国際線の旅客部門については,対前年比2.4%増の5,081億人キロ,貨物部門については10.1%増の249億トンキロとなっており,旅客の伸びより貨物の伸びの方が著しい。
一方,地域別のシェアを当該地域に属する航空企業の有償トンキロベースでみると,1983年では欧州地域が37.8%で最大であり,続いてアジア・太平洋地域の26.5%,北米地域の19.4%と推定されているが,過去10年間の伸びでは,アジア・太平洋地域が1.8倍と最高で,アジア・太平洋地域をめぐる国際航空市場の発展が,そのシェアの大きさとともに注目される。
(日本をめぐる国際航空輸送)
我が国は,自国航空企業(日本航空及び日本アジア航空)及び外国航空企業(37社)によって,40か国1地域80都市との間にネットワークが形成され,世界でも有数の航空市場となっている。その中で,我が国発着国際定期航空旅客数は,着実に増加してきており,58年度では対前年度比8.4%増の1,485万人であり,そのうち約半数の55%が日本人で占められている。旅客の発着地域別シェアをみると,アジア57%,米国(ハワイ,グァム及びサイパンを含む。)31%,欧州8%,その他4%となっており,アジアと米国の合計で約9割を占めている 〔4−2−5図〕。
一方,貨物輸送の面では,近年における産業構造の変化,消費構造の多様化・高級化,大型機導入に伴う実質運賃の低下等を背景として,我が国発着国際貨物量は,輸出ではVTR,半導体等の高付加価値製品,輸入では生鮮食料品等を中心に,堅実に伸びてきているが,とくに58年度においては対前年度比26%増の74万トンと著しい増加をみせている。このうち,太平洋線の貨物量については,58年度で全体の約4割を占めるとともに,対前年度比34%増と,大幅に増加している。また,このような市場の拡大を背景として,海運企業6社及び全日本空輸等の出資する日本貨物航空が,東京-サンフランシスコ-ニューヨーク線における60年4月1日からの貨物専用便による定期航空運送事業免許を運輸大臣より取得し,現在米国への免許申請を行っているところである。これにより我が国は,国際航空貨物の分野において,初めて2社体制をとることとなった。
(2) 国際航空企業の動向
(日本を含むアジア諸国の国際航空企業の発展)
世界の航空企業別に,1982年の国際定期航空輸送量を有償トンキロベースでみてみると,第1位が日本航空(43億トンキロ),以下,パンアメリカン航空(第2位),英国航空(第3位)となっている。我が国のナショナルフラッグキャリアである日本航空は,10年前の第6位より世界一の航空会社へと成長しており,日本をめぐる国際航空市場の拡大等を示すものとなっている。また特色のある動きとして,シンガポール航空,大韓航空といったアジアの航空企業の順位が近年上昇してきており,1982年でともに10傑に入っていることが注目される。これら2社は,自国の経済発展を背景に,サービス面の充実等とあいまって成長してきたと考えられる。
(好転しつつある航空企業の経営)
一方,世界の航空企業の財務状況については,1980年代に入ってから第2次石油危機後の燃料コストの上昇(ICAO加盟国定期航空会社全体で,営業費用に占める割合は,1972年は11%であったものが,1982年には約3倍の29%と見込まれている。),需要の低迷,米国のディレギュレーション政策の影響による低運賃導入等により,ICAO加盟国定期航空会社全体で,1982年まで3年連続の欠損(営業収支ベース)を計上してきた。このような状況の中で1982年2月レイカー航空(英国),同年5月ブラニフ航空(米国)が倒産し,1983年9月にはコンチネンタル航空(米国)が,また,1984年7月にはエアフロリダ(米国)が破産手続を開始している。しかし,1983年においては,世界景気の回復による需要増,原油価格の低下等を反映して,ICAOの推計によると,加盟国定期航空会社全体では4年ぶりに営業収支ベースで黒字を計上する見込みであり,また,ブラニフ航空も再建途上ではあるが,1984年3月運航を再開するに至っている 〔4−2−6図〕。
(3) 国際航空の枠組みと航空交渉
(国際航空関係の枠組み)
現在の国際航空関係の枠組みは,1944年に採択された国際民間航空条約(シカゴ条約)と,同条約により設立されたICAOにその基礎を置いている。シカゴ条約においては,定期国際航空運送業務は,原則として関係二国間の航空協定に基づき運営されることとなっており,協定では,二国間に提供される定期航空サービスの路線,輸送力,運賃等について,双方の国の合意を要することが通例となっている。このような合意のための協議が一般に航空交渉と呼ばれている。
米国は,第二次世界大戦直後における強大な民間航空力を背景に,路線については自国内の諸地点は特定せず相手国内の地点を明示する方式,輸送力についてはその適否を事後に審査する方式,運賃については関係二国双方の合意を必要とする方式を,英国をはじめとして世界の多くの国々と合意し,自国に有利な国際航空体制を維持してきた。このような体制が30年余続いた後,かねてよりこの体制を問題視していた英国が,1976年に米国との航空協定を廃棄し,その1年後の1977年,新協定の締結に成功した。この協定においては,路線については両国内の明示された地点を組み合わせて結ぶ方式の下で原則として双方同数の企業の乗入れを認め,輸送力については事前に審査する方式を導入している。その直後の1978年,米国は,自由競争の色彩を一層強めた新国際航空政策を発表し,多数の企業の参入促進,輸送力決定の自由化,運賃決定の弾力化等を内容とする新航空協定(リベラルアグリーメント)を,西独,オランダ,ベルギー,韓国,シンガポール等世界の多くの国々と締結した。しかし米国は,上述のように英国とはこれらと異なる航空協定を,またフランス等の南欧諸国,中南米諸国の一部及び中国とは伝統的な航空協定を締結している。航空協定の締結は,双方の国際航空企業の競争力や国際空港の整備状況等を反映した双方の国際航空政策の調整の産物である。米国は,自国の強力な航空企業に対し国際航空路線への参入機会を最大限に与える目的の下に,自国の広大な領域の中に数多く散在している地点に相手国企業の乗入を認めることの代償として,多くの国々とリベラルアグリーメントの締結に成功し,我が国ともこのような型の航空協定を結ぶことを示唆している。他方,米国は,米国内乗入地点の追加,企業の追加指定等米国が追加権益と考えるものに対する諸外国の要求に対しては,自国の航空企業保護の観点から,極めて厳しい態度で臨んでいる。
欧州においても,59年6月に,英国とオランダとの間で二国間航空関係を極力自由化することが合意される等,国際航空の自由化が進められているが,これも自国の航空企業の拡大,すなわち自国権益の拡大のためであり,そのような国でも,自国の航空企業の国際競争力に重大な影響のある事項については,容易に譲歩をしないのが通例である。
しかしながら,強力な国際航空企業を複数有している国や輸送市場は小さいが有利な立地と環境上の制約の少ない空港を有している国々の圧力で,国際航空の自由化は進んでいくであろう。
このような動きの中で,我が国の国際航空企業自体も,外国企業の攻勢に対し,十分商業的に競争ができるよう,一層の合理化と利用者に対するサービスの向上に努めることが緊要である。
なお,近年,貿易不均衡等航空以外の事由を理由として我が国に航空権益の譲歩を求める事例も見られるが,航空関係は,基本的には機会均等という航空協定の原則に立脚して処理することが国際的にも定着していることに留意すべきである。
(わが国をめぐる国際航空輸送サービスの充実)
我が国は国際航空市場として価値が高いことから,乗り入れを希望する国も多い。我が国は周辺の国々の大部分とは既に航空協定を締結しており,今後航空協定を締結する対象になる国は,中南米,アフリカ,東欧等我が国から遠距離の国が多い。諸外国との間に航空路を開設するに当たっては,それらの国と我が国との間に適正な直行輸送需要があるか否かが鍵となるが,双方の航空権益の総合的均衡を図りつつ,それらの国との人的物的交流を促進する観点から,我が国をめぐる国際航空サービスの充実を図る必要がある。このような立場の下に我が国と相手国の航空企業がそれぞれ相互に乗入れを行うのが通例であるが,最近我が国が締結した航空協定によって,スペインとの間では我が国航空企業のみが乗入れており(55年7月開始),またフィンランド,スリランカとの間では相手国航空企業のみが乗入れを行っており(それぞれ58年4月,59年7月開始),利用者の利便の向上を図っている。
(日米航空関係)
日米航空協定は,27年に米国の圧倒的に優位な環境の下で締結され,路線,以遠権(米国にとっては日本〜アジア諸国間の路線,日本にとっては米国〜欧州,中南米諸国間の路線についての運輸権)等双方の権益が均衡を欠いたものとなっている。このため,日米間の航空権益の総合的均衡を図るべく,47年の沖縄返還の際の合意に基づき,51年以来協定改定交渉が続けられて来たが,現在に至るまで包括的合意には達していない。しかし,57年の暫定取極により,一定の条件のもとに,日本側にシアトル,シカゴへの乗入れ,ロスアンゼルス以遠ブラジル間の貨客の運輸権が,米国側にサイパンから名古屋への乗入れ,シアトル又はポートランドから追加1社の東京への乗入れが合意され,それぞれ実施されている。また,日米間で年間300便以内のチャーターを運航することが合意され,主として地方空港からグアム,サイパン,ハワイへの旅客チャーターが行われている。59年9月には,全日本空輸のハワイ行きチャーターが実施された。
このような背景の下で,58年12月,日米間の航空権益の総合的均衡を目指して,協議が再開され,59年3月及び9月の協議を含め60年9月まで4回の協議を行うことになっている。日米航空関係を再構築するに当たっては,最近の世界の航空関係の変化には十分配慮しつつ,航空権益の総合的均衡を図る必要があるが,その際,米国の航空市場の桁はずれの大きさ,使用上の制約のほとんどない多くの国際空港の存在等現在の我が国には期待し得べきもない米国固有の要素が多いことに十分注意して対応すべきであろう。
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