1 発展途上国に対する経済協力


 (重要な意義を有する運輸部門経済協力)
  運輸関係基盤施設の整備等運輸部門の経済協力は,発展途上国の経済,社会の発展にとって重要性が高く,協力要請も多いため,我が国の対外経済協力において大きな割合を占めている。
  このように重要な役割を有する運輸部門の経済協力の意義としては,以下の諸点が挙げられる。
  第1に,輸送基盤施設の整備により,原材料や製品の輸出入が確保されるとともに,交通ネットワークの整備により,経済発展の地域的不均衡,人や情報の交流の不足等の社会的緊張の要因が除去されるなど発展途上国の経済発展及び政治的安定等の視点から極めて重要である。
  第2に,輸送基盤施設の整備に対する協力は,長期的かつ広範な協力効果を有し,また広く相手国の国民の目に触れるのでPR効果が大きい。
  第3に,運輸部門に係る経済協力は,国際的な物流ネットワークの形成に資するものであり,また,我が国の海上輸送路の沿岸諸国に対する経済協力により,海上輸送路に支障が生じないような環境の醸成が期待される等,我が国の輸出入物資の安定輸送の確保に資することが多い。
 (進む運輸部門経済協力)
  以上の意義を有する運輸部門の経済協力として,我が国は次のような協力等を行っている。

(1) 資金協力

  我が国の政府直接借款供与総額の20.0%(41〜58年度累計実績)が運輸部門に係るものとなっており,58年度においては,中国の輸送回廊整備(3件),タイの東部臨海開発計画等19件,総額1,300億円に及ぶ運輸関係プロジェクト借款が供与された(交換公文ベース)。
  また,58年度における無償資金協力については,キリバスの離島間運搬船建造計画,ブルンディの公共輸送力増強計画等8件41億円が供与された。

(2) 技術協力

  発展途上国は,経済社会基盤施設を整備するための計画の作成等専門的知識,技能を有する技術者が一般に不足しており,港湾,鉄道,空港等運輸関係基盤施設整備,都市交通管理運営,自動車の検査・整備,海運経営,造船,船員教育,海上保安,観光振興,気象等運輸に関する技術協力の要請が多くの国から寄せられている。運輸省は,これら発展途上国に対する政府間ベースの技術協力として,国際協力事業団(JICA)が実施する研修員受入れ,専門家派遣,開発調査事業等に協力している。

(3) 運輸プロジェクト推進のための施策

  運輸部門の経済協力の効率的な推進を確保するために,運輸省は46年度以来,発展途上国の社会経済の現状,交通事情等の調査及び具体的協力案件の発掘並びに我が国協力案件としての妥当性に関する調査検討を進めている。さらに59年度予算に所要経費を計上し,既に実施したプロジェクトの評価,関連情報の総合的な収集,分析等を行い,相手国にとって望ましい長期的な運輸基盤施設等の整備の方向及び我が国の国際協力の今後の方向等を検討することとしている。また,53年度以来,発展途上国の運輸大臣等を我が国に招へいし,開発ニーズ等に関する意見交換を行うとともに,我が国の優秀な運輸技術の理解の増進等に努めている。一方,運輸関係技術は我が国の場合,従来から政府等に集中し,民間ベースの運輸コンサルタントの人材が不足する傾向にあるため,運輸関係の民間コンサルタントの育成を図り,経済協力に機動的,弾力的に活用し得るよう努めている。

(4) 第二パナマ運河建設構想に対する協力

  国際的大プロジェクトとして検討が進められている第二パナマ運河建設構想(新運河の建設等現パナマ運河の代替案に関する構想)についても運輸省は積極的な協力を行っている。
  本構想に関するフィージビリティ調査の進め方につき事前の準備的検討を行う政府間レベルの準備委員会が57年秋設立され,我が国も米国,パナマと共にこのメンバー国として,その審議に参加協力を行ってきているところであり,60年度中に調査に着手できるよう審議を継続中である。
  運輸省としては,58年度及び59年度予算に関連調査費を計上し,本件に対する我が国の適切な協力方針の確立等に資するための所要の調査を実施しており,今後とも準備委員会の審議,さらには本件フィージビリティ調査の実施に対しても引き続き積極的に参加協力していくこととしている。

(5) アジアポート構想

  アジアポート構想とは,ブラジルを中心とする南米諸国の鉱物資源及び農産物を,アジア地域に低廉なコストで供給するため,南米側の輸出回廊の整備を図るとともに,アジア地域に中継備蓄基地としての大型港湾「アジアポート」を建設し,南米との間の大型船舶による輸送を行う計画である。
  本構想は,南米地域及び東アジア地域への経済協力上の効果のみならず,我が国の総合安全保障上の効果が期待されることから,運輸省としては,59年度予算に関連経費を計上し,長期的視点にたって本構想の実現可能性の検討及び実現のための条件整備の方向づけに主眼をおいて検討を進めていくこととしており,59年5月に行われたブラジル大統領と我が国首相との会談においても,本構想について今後両国間で継続的に協議を進めていくことが確認されている。

(6) 中国に対する経済協力

  中国の2000年を目標とする近代化政策において交通運輸部門は重点投資分野として位置づけられており,我が国としても鉄道,港湾等の整備に対し積極的に協力を行ってきている。資金協力については対中国第一次円借款及び新規円借款において,鉄道,港湾の整備案件が協力対象案件の大きな割合を占めている。
  また,技術協力については,研修員受入れ,専門家派遣,開発調査を実施しているが,こうした我が国の技術協力に対する中国側の要請は最近ますます高まってきており,運輸省としては,56年度より両国鉄道実務者間の定期的会合を年1回開催しているほか,59年6月には中国鉄道部長が来日し,また,9月には我が国運輸大臣が訪中して,中国鉄道部長,交通部長等と今後の鉄道,港湾等の協力のあり方等につき意見交換を行うなど,中国側の要請に対して積極的な対応を図っている。


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