1 航空輸送と空港整備
(1) 増大する航空需要と航空をめぐる情勢の変化
(急増してきた航空需要)
昭和26年に再開された我が国の民間航空は,我が国経済が高度成長期に入るとともに急激な発展を遂げることとなった 〔6−1−1図〕, 〔6−1−2図〕。
その理由としては,@経済の高度成長による産業活動の活発化と国民の所得水準の向上により時間価値が急速に高まり,このことが時間短縮効果が大きい航空輸送の特性に合致したこと,Aこの間のジェット機の就航,ジャンボジェット機の就航などの一層の高速化,大型化の進展による生産性の向上により輸送コストが低下し,実質的な航空運賃が大幅に低下してきたことが挙げられる。
この結果,現在では国際旅客と遠距離国内旅客のほとんど全てが航空を利用しており 〔6−1−3図〕,中近距離であっても,海越え山越えとなる区間では航空の利用の割合が高くなっている。
(中長期的には着実な増大)
経済の高度成長に伴い急増してきた航空需要は,我が国経済の安定成長への移行に伴い国内線旅客需要を中心に伸び悩みがみられ,55年度には14年ぶりの減少に転じたが,最近の景気の回復を反映して59年度に入って再び増勢傾向にある。一方,国際線旅客需要は,外国人旅客数の高水準の伸びに支えられ,55年度以降も58年度まで年平均伸び率8.0%と概ね順調に増加しており,国際化の一層の進展,世界景気の回復基調を背景に今後とも着実に増大するものと見込まれる。
また,航空貨物需要は,近年における我が国産業構造の高付加価値加工組立型産業への移行,所得水準の上昇と価値観の多様化に伴う消費構造の高度化,多様化,航空貨物運賃の実質的な低下等を背景として,輸送トン数で,55年度から58年度まで国際線11.4%,国内線9.8%と旅客を上回る年平均伸び率を示しており,今後とも高い伸びが予想される。
(航空をめぐる情勢の変化)
このような航空需要の量的な拡大が進行する一方で,社会経済情勢の変化を背景として,利用者ニーズの多様化等航空をとりまく情勢は大きく変化してきている。運輸省においては,このような状況に対応して,今後の航空輸送を展望した航空輸送サービスの供給体制のあり方,コミューター航空のあり方,61年度から新たに始まる第5次空港整備五箇年計画のあり方等について長期的視点に立った検討を進めることとしており,59年10月には省内に航空行政に関する政策研究会を設置したところである。
(2) 航空需要の特徴
(国内線は2眼レフ構造)
我が国の国内線航空ネットワークの最大の特徴は,需要の大多数が東京国際空港と大阪国際空港の2つの空港に集中するいわゆる「2眼レフ構造」となっている点である。
58年度の実績では,国内線の旅客数は4,084万人であり,このうち東京国際空港を利用した旅客は2,200万人(53.9%),大阪国際空港を利用した旅客は1,246万人(30.5%)である。このうち,東京〜大阪線の利用客が303万人(7.4%)であり,東京又は大阪の少くとも一方の空港を利用した旅客は3,143万人(77.0%)に上っている 〔6−1−4図〕。
(国際線も東京・大阪に集中)
さらに,国際航空路線もその多くが東京及び大阪の国際空港に集中しており,58年度実績では,国際旅客数1,531万人のうち,新東京国際空港及び東京国際空港の利用旅客数が1,084万人(70.8%)(うち新東京国際空港の利用旅客数は1,027万人,67.1%),大阪国際空港の利用旅客数が322万人(21.1%)であり,これらの国際空港を利用する旅客は全旅客数の91.9%にも上っている。
(3) 空港整備の推進
(第4次空港整備五箇年計画(計画期間56〜60年度)が進行中)
前述のように,航空が黎明期を経て急激な発展を続けていく中で,需要の増大に対応して空港の整備が進められたが,40年代に入り航空機事故が続発して航空交通の安全確保の必要性についての認識が高まるとともに,機材のジェット化や空港周辺地域の都市化の進展に伴い発生した航空機騒音問題が新たな行政課題として登場するに至った。
このため,空港整備の推進とともに航空保安施設等の整備,空港周辺環境対策の推進を図る観点から,42年度以降,「空港整備五箇年計画」が策定され,計画的に空港整備事業が進められてきている。
現在は,第4次空港整備五箇年計画が進行中であり,同計画においては,計画期間中の総投資額を1兆7,100億円(調整費900億円を含む。)とし,空港周辺における環境の保全及び航空交通の安全の確保を図りつつ,需要構造の特徴に対応したいわゆる「三大プロジェクト」を中心とした空港の整備を計画的に推進することとしている。
(収支が厳しい空港整備特別会計)
空港整備事業等については,45年度に「空港整備特別会計」 〔6−1−5図〕(以下「空整特会」という。)が創設され,一般会計とは別個に経理されている。
空整特会は,空港整備事業,航空路整備事業,空港周辺環境対策事業等広義の空港整備事業に要する費用のほか,空港等の維持運営に要する費用を主な歳出とし,空港使用料収入(着陸料,特別着陸料,航行援助施設利用料等),一般会計からの繰入れ金等を主な歳入としているが,近年,その収支状況は極めて厳しくなっている。その原因として考えられることは,歳入面では,第1に需要の伸び悩み等のために,使用料収入の伸びが小さいことであり,第2には通行税(航空分)の取扱いである。通行税自体は一般税であり,一般会計の歳入とされているものであるが,一般会計から空整特会に繰り入れられている一般財源は,従来は航空旅客の支払う通行税収に見合う額となっていた。しかしながら,55年度以降厳しい国家財政事情を反映して一般会計受入れ枠に極めて厳しいシーリングが設定されるに至ったため,一般財源として繰り入れられる額は,通行税(航空分)の税収を下回る事態となっている。
他方,歳出面については,後述するように首都圏,近畿圏の空港能力の不足を解消するための方策として,関西国際空港の建設,新東京国際空港の早期完成,東京国際空港の沖合展開の「三大プロジェクト」の推進,一般空港の整備などの空港整備事業が今後数年間にピークを迎える予定であり,多額の資金が必要となる見込みである。したがって,所要の空港整備事業を円滑に実施していくためには,その財源対策についても検討する必要があるが,特に現在の空整特会の歳入のしくみや運用について幅広い検討を加えていく必要がある。
(4) 航空機材の変遷
就航機材は,航空需要の増大及び地方空港の整備の進展によりジェット機が着実に増加している。なかでも,航空ネットワークの2眼レフ構造,航空機騒音問題からくる便数の抑制等我が国の航空事情を反映し,B-747等の低騒音大型ジェット機の増加が著しい。
近年の傾向としては,中型クラスのジェット機の機材構成が変化してきており,航空機騒音の大きいDC-8の退役,低騒音広胴型のA-300,B-767,DC-9-81の増加傾向がうかがえる。特にA-300,B-767は在来型の中型ジェット機に比し,座席数で5割近く多く,かつ滑走路長2000メートル級の地方空港にも就航可能という特性を有しているので,我が国の航空事情に適合した機材といえる。
今後の機材構成としては,航空需要の動向,空港整備の状況等により影響は受けるものの,傾向としては,低騒音広胴型の中型ジェット機の増加が促進されるものと推測される 〔6−1−6図〕。
また,YS-11については,技術的には今後相当の間使用可能と判断されているが,サービス水準の向上の観点から騒音水準がYS-11と同程度の低騒音の小型ジェット機の導入の検討が課題となろう。
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