2 交通安全対策の推進


(1) 道路交通の安全対策

 ア 車両の安全確保

     (国際的調和を進める保安基準)
      自動車の安全を確保するため,道路運送車両法に基づき自動車の構造・装置等について,保安上の技術基準(道路運送車両の保安基準)が定められている。この道路運送車両の保安基準については,58年3月の基準・認証制度の改善に係る政府決定を踏まえ欧米の基準との調和を図るとともに,新技術の実用化等に対応するため,同年10月にコーナリング・ランプ(側方照射灯)の要件の新設等の改正を行った。
     (新しい検査,整備制度が施行)
      自動車の安全の確保と公害の防止を図るため,自動車のユーザーに対し,その責任において一定期間ごとに定期点検整備を行うことを義務付けるとともに,国は,一定期間ごとに自動車の検査(車検)を行っている。特に,58年7月1日からは技術進歩に伴う自動車性能の向上,自動車使用形態の多様化等の自動車を取りまく環境の変化を踏まえ,自家用乗用車の初回車検期間の延長,定期点検整備の簡素化など新しい検査・整備制度が施行されている。

 イ 自動車事故被害者の救済

     (重度意識障害者のための療護施設の開業)
      自動車事故による被害者の救済を図るため,自動車損害賠償責任保険等の自動車損害賠償保障制度の適切な運用を行っている。このほか,自動車事故対策センターにおいて,交通遺児等に対する生活資金等の貸付け,重度後遺障害者に対する介護料の支給等の業務を実施しており,財団法人交通遺児育成基金においては育成給付金の支給等交通遺児育成基金事業を行っている。特に,59年2月には,自動車事故対策センターにおいて交通事故による重度意識障害者の療護施設である附属千葉療護センターが開業(当初20床)された。この療護センターは,交通事故によりいわゆる植物状態になった重度意識障害者を収容し,治療及び養護を行う画期的な施設であり,開業以後も段階的に病床数の増床を図る(59年4月30床,10月には40床に増床)等その運営の充実を図っている。

(2) 鉄軌道交通の安全対策

  鉄軌道交通における事故は,近年減少の傾向にあるが,施設面では安全性を一層高めるため,自動信号化,ATSの設置・改良,CTC(列車集中制御装置)化等の信号保安設備及び線路施設の整備による交通環境の整備を,車両面ではコンピューターの利用等新しい技術を取り入れた検査方法の導入等による車両の安全性の確保を,運転面では乗務員等に対する教育訓練の充実,列車運行管理体制の強化等による安全運行対策を推進している。
  また,踏切事故の防止については,第3次踏切事故防止総合対策に基づき,58年度においては,踏切道の立体交差化による踏切道の除却78カ所,構造改良674カ所,保安設備の整備789カ所を行った。国鉄に対しては,踏切保安設備の整備費の一部を補助しており,また,民鉄事業者には,これらの整備のための必要な資金を財政投融資により確保するとともに,経営の苦しい民鉄事業者に対しては,地方公共団体と協力して踏切保安設備の整備費の一部を補助している。

(3) 海上交通の安全対策

 ア 海運

      多数の旅客や自動車を運送する旅客船の安全を確保するため,事業免許の際に事業計画が適切であるかどうか等について事前に審査するとともに,旅客運送活動全般を通じ一貫した安全対策を講ずるため,旅客航路事業者に運航管理者の選任,運航管理規程の作成等を義務づけている。
      また,地方運輸局に配置された運航監理官により,旅客船及び事業所の監査,運航管理者に対する研修等を行い,安全意識の高揚,安全運航技術の向上を図り,安全確保体制の確立に努めている。

 イ 船舶

     (SOLAS条約第一次改正の発効)
      船舶の技術革新による輸送形態の多様化・諸設備の高度化等に対応し,船舶の安全基準の整備・強化に努めるとともに,型式承認,認定事業場等検査の合理化のための制度の運用の一層の推進を図っている。
      また,放射性物質・化学物質等危険物の海上輸送量の増大と物質の多様化に対応して国際的な規制を勘案しつつ危険性の評価・運送方法等安全基準の整備強化に努めている。さらに危険物運搬船については立入検査を実施し,安全輸送のための指導を行っている。
      一方,国際的にも船舶の安全基準は強化の方向にあり,SOLAS条約(1974年の海上における人命の安全のための国際条約)の改正作業が,国際海事機関を中心として段階的に実施されている。我が国も,船舶の消防設備及び電気設備の規制強化を主たる改正内容とするSOLAS条約第一次改正(1981年改正)の発効(59年9月1日)に対応して,これを国内法化するため,船舶安全法関係省令の改正を行ったところである。

 ウ 船員

     (STCW条約の発効)
      船員に着目した安全対策としては,船員法に基づき,発航前検査の励行,船内巡視,操練等の実施について,船員労務官による監査及び指導を強力に行っている。
      また,我が国は,STCW条約(59年4月28日発効,P.133参照)の国内実施を図るため,船員法及び船舶職員法に基づき,我が国に入港する外国船舶に対し,同条約の定める航海当直及び船員の資格証明に対する基準の適合性についての監督を実施している。
      その他大阪湾全域(大阪湾水先区,阪神水先区及び内海水先区の一部)を総トン数1万トン以上の船舶を対象とした強制水先区とすることについて,60年6月実施を目指し,法令の整備等必要な準備を進めている。

 エ 港湾

      58年度は,第6次港湾整備五箇年計画の3年度目として,港内の船舶の安全を確保するため,事業費278億円をもって新潟港等37港において,防波堤,航路,泊地等の整備を行った。また,沿岸海域を航行する船舶の安全を確保するため,事業費105億円をもって関門航路等13の開発保全航路において開発又は保全の事業を行うとともに事業費49億円をもって輪島港等11港の避難港の整備を行った。

 オ 海上保安

 (ア) 航行安全の確保

     (充実を図る航行管制施設)
      海難は,近年減少傾向にあるものの,東京湾,伊勢湾,瀬戸内海等の船舶交通のふくそう海域においては,なお多発している。このため海上保安庁は,これら海域において海上交通関係法令に基づく諸規制に加え,各種の安全指導を行っており,特に,東京湾においては,東京湾海上交通センターが,情報提供と航行管制を一元的に行っている。関門海峡を含む瀬戸内海においても,東京湾における成果を踏まえ,海上交通情報機構の導入を図っており,59年度には関門海域において一部業務を開始したほか備讃海域においても整備に着手した。また,浮標式の国際的統一に伴い,約2,000基の灯浮標等の塗色,灯質等の変更工事を計画的に行うこととし,58年度には東京湾及びその周辺海域で約200基の工事を実施した。一方,プレジャーボート等の海難防止のために,海上安全指導員制度及び社団法人小型船安全協会等の充実を図っている。さらに,海図等の水路図誌を整備するとともに,緊急を要する情報については,日本航行警報及び世界航行警報等により船舶交通の安全情報を提供している。

 (イ) 海上捜索救助対策

     (急がれるSAR条約への対応)
      SAR条約(P.13参照)は60年6月に発効することとなり,我が国も早期に同条約に加入するとともに加入に備えて体制整備を急ぐ必要がある。
      SAR条約に加入すれば,我が国の捜索救助活動の責任分担区域は国土の20倍以上の広さがあり,しかも,本邦から1,200海里にも及ぶ本州東方海域を含む海域となることが予想されている。
      遠距離海域において海難が発生した場合,遭難者の捜索及び救助に時間を要するため,直ちに飛行機を捜索に向かわせ,遭難現場の正確な状況把握と必要な応急措置を講じさせるとともに,この情報に基づき前進配備している巡視船を救助に向かわせるという体制が必要となる。このため海上保安庁では,飛行機と巡視船を有機的に組み合わせて広大な海域における捜索救助活動を機動的かつ効率的に行う広域哨戒体制の整備を行っている。
      遠距離海域における捜索救助活動は,海上保安庁の勢力による対応に加え,SAR条約に規定されている船位通報制度を導入し,海難発生時の民間船舶相互の救助体制を充実する必要がある。このため,遠距離海域の船舶とも通信可能な短波通信施設を整備するとともにコンピューターを利用して民間船舶の位置の情報等を常時把握し,海難発生時の捜索区域や援助可能船舶の早期決定等を容易にするための海洋情報システムの整備を推進しており,60年度に運用を開始する予定である。

(4) 航空交通の安全対策

 (充実する航空保安システム)
  日本の空は,方位・距離測定装置(VOR/DME)等により構成された航空路が縦横に走り,現在,これらの空域を16か所の航空路監視レーダー(ARSR)でカバーする計画を推進中であり,58年度には12番目として今の山ARSR(土佐清水付近)が完成した。一方,地方空港のジェット化整備等の進展に伴い,58年度には旭川空港等3か所に計器着陸装置(ILS)を,松本空港等4か所にVOR/DMEを整備した。
  また,58年度には飛行計画情報処理システム(FDP)等管制情報処理システムの機能向上を実施し,航空機の運航の安全の増進と航空交通管制業務の処理能力の向上を図った。
 (航空機乗組員の健康管理の改善)
  57年2月に発生した羽田沖DC-8型機墜落事故は,機長の精神的変調による異常操作が推定原因とされたが,このような航空事故の絶滅を期するため同年4月に航空審議会に航空機乗組員の健康管理の改善方策について諮問し,慎重な審議の結果,58年11月に同審議会から@航空身体検査証明制度及びその運用の改善,A航空運送事業者における航空機乗組員の日常の健康管理体制の改善,B航空医学の専門家の養成等の推進及びC航空機乗組員,指定航空身体検査医等に対する教育の充実を柱とする答申が得られた。この答申に沿った具体的な措置の一環として航空機乗組員の身体検査基準の見直し等を行うため,同審議会に航空身体検査基準部会が設置されたほか,航空医学等に関する研究,指導等を行うとともに,航空身体検査証明を航空運送事業者から分離して行うため財団法人航空医学研究センターが59年6月に運輸大臣の許可を受け発足した。
 (多発するモーターハンググライダー事故)
  近年,モーターハンググライダーと言われる動力装置付の簡易構造航空機が急速に普及しており,59年7月現在で全国に約700機が存在するものと推定されている。これらは,航空法上の航空機に該当するものであり,飛行に際しては同法に基づく所要の手続を必要としている。
  58年には,モーターハンググライダーに係る事故は10件発生しているが,これらはすべて法定手続を経ていなかったことにかんがみ,所要の許可を取得するように一層一般への周知徹底を図っている。また,許可に当たっては,一般の航空機,地上の第三者に迷惑を及ぼさないように,飛行区域を人家上空を避けた離着陸場周辺に限定するとともに,飛行は段階的に高度なものを行うように条件を付する等,操縦者の安全にも配慮した措置を行っている。
 (大韓航空機事件のその後の対応)
  58年9月に発生した大韓航空機撃墜事件に一ついて,ICAOにおいてこの種事件の再発防止に向けての検討を行っており,59年5月には,第25回総会において,民間航空機に対する武力行使の禁止を確認するシカゴ条約改正議定書が採択された。


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