1 交通公害対策
(1) 自動車公害対策
(規制の進む発生源対策)
自動車公害対策については,発生源対策として,自動車の構造装置の面から排出ガス・騒音の規制基準を順次強化してきている。
排出ガスについては,一酸化炭素,炭化水素及び窒素酸化物の3物質並びに黒煙(ディーゼル車)についての規制を順次実施してきており,今後早急な対策が望まれるのは,近年増加が著しいディーゼル乗用車に対する規制強化についてであるが,その一部については,従来の濃度規制から重量規制への移行を取り入れた新たな規制強化を61年から実施すべく措置を行ったところであり,今後は技術開発の進展に応じ,残されたものについても順次規制を強化していくこととしている。
また,騒音については,51年6月の中央公害対策審議会の答申により示された新車に関する目標値を達成すべく順次規制強化を進めており,全輪駆動車等を除く大型トラック,全輪駆動の小型車及び軽二輪車に関しては60年から規制強化が実施されることとなっている。また,61年から大型車(全輪駆動車等)及び第2種原動機付自転車についての規制を強化すべく措置を行ったところである。
なお,使用過程車に関しては,検査制度の充実,使用者に対する啓蒙指導等に努めること等により,公害の防止を図るとともに,合理的な規制のあり方についての調査を進めている。
(スパイクタイヤ公害への取組み)
また,自動車公害の一つとして,近年積雪寒冷地におけるスパイクタイヤ使用による道路粉じんの増加等の公害が問題化しており,運輸省においては,公害の防止と安全対策の両面から調査を進め,自動車構造装置の面からその対策について検討を行うとともに,自動車使用者に対しても,不要期における普通タイヤヘの取替えの促進等について指導を行っている。
(低公害トラック,バスの導入に向けて)
公害対策基本法に基づく二酸化窒素(N02)の環境基準の達成期限が60年に迫ってきているが,大都市の自動車排出ガス測定局における基準達成率は未だ低く,自動車部門においても窒素酸化物(NOx)の排出量を削減することが大きな課題となっている。
NOxや黒煙の排出量削減対策としては,既に海外でもその導入が開始されているメタノールを燃料とした自動車のトラック,バス部門への導入が有効とされており,運輸省では学識者,関連事業者等からなる検討委員会により早期導入に向けての調査研究等が行われている。
なお,メタノール自動車の導入は,交通機関,特に自動車部門の石油依存度の軽減に資することからも推進が望まれる。
(2) 新幹線鉄道公害対策
(対策の進む新幹線鉄道騒音,振動公害)
新幹線鉄道の騒音,振動対策に関し,運輸省は,「新幹線鉄道騒音に係る環境基準について」(50年7月環境庁告示),「新幹線鉄道騒音対策要綱」(51年3月閣議了解)等に基づき,具体的な対策の実施等につき,日本国有鉄道及び日本鉄道建設公団を指導してきている。特に,騒音対策のうち,告示に基づく環境基準の達成の目途となる時期が60年度中に到来するものに関しては,達成に向けて対策の推進方を指導してきている。
東海道・山陽新幹線については,防音壁の設置,鉄桁橋梁の防音工事を行うとともに,バラストマットの敷設,タイヤフラットの除去など軌道及び車両の保守管理を図っている。このような対策を講じてもなお基準を達成することが困難な区域に所在する建物については,防音工事,建物の移転補償等の障害防止対策を実施してきており,これらのうち,騒音レベルが80ホンを超える区域の住宅及び70ホンを超える区域の学校,病院等については概ね完了している。
また,東北,上越新幹線については,逆L型防音壁の設置,パンタグラフ及び架線の改良等の対策を講じており,開業後は引き続きレールの研磨等の対策を実施するとともに58年度から沿線建物に対する騒音の戸別測定を実施し,防音工事等の対策の対象となる建物の確定を図る一方,住宅,学校,病院等に対する防音工事の助成を行っている。
(3) 航空機騒音対策
(大幅に進捗した空港周辺の航空機騒音対策)
48年12月に公害対策基本法に基づき定められた航空機騒音に係る環境基準の10年改善目標の達成期限が58年12月に到来したが,その達成状況は次のとおりである。
ジェット機の就航する16特定飛行場のうち,環境基準設定後ジェット化された広島及び高知空港を除く空港については,加重等価平均感覚騒音レベル(WECPNL)75以上の騒音影響地域がこの10年間に相当縮小し,全体として大幅な環境の改善が図られている。また,周辺対策として民家防音工事の助成,移転補償等を鋭意進めてきており,特に,環境基準に定められた屋内環境の保持に必要な民家防音工事は,全特定飛行場の半数の8空港で対象世帯のほとんどについて完了し,残る空港についても60年度までに希望者に対する工事を完了する見込みとなっている。
(大阪国際空港周辺の一体的緑地整備の推進)
特に騒音問題の著しい大阪国際空港周辺については,住宅等の移転跡地が蚕食状に広がり,街づくりの上で問題が生じているが,空港周辺地域の将来の土地利用の方向及びその実現手法の検討を重ねた結果,57年7月大阪府より都市計画手法を活用した緑地整備を柱とする周辺整備構想が提案された。現在その具体化に向けて関係地方公共団体,地元住民等との調整が進められている。
(和解なる大阪国際空港騒音訴訟)
また,大阪国際空港騒音訴訟については,1〜3次訴訟について56年12月に最高裁判決が出され,夜間飛行の差止請求は却下されたものの,50年5月までの間の損害賠償についてはこれを認容するという判断が示された。
この最高裁判決の後,4次訴訟及び5次訴訟については,和解手続が進められることになり,運輸省は,空港周辺住民との間の紛争を早期に解決することが望ましいとの考えのもとに,最高裁判決で示された趣旨と法理を踏まえ,和解金の算定にあたり,次の考え方で手続に臨んだ。
@ 支払対象者はWECPNL85以上の騒音レベルの地域に居住していた者とする。
A 支払対象期間は,始期は訴えの提起時から遡って3年前とし,終期は最高裁判所の判断があった50年5月までとする。
B 月額は,生活妨害の程度を反映したものとし,三ランクを設ける。
C 支払対象期間内であっても,民家防音工事実施後は,対象期間としない。
D B滑走路供用開始後に入居した者は,危険への接近者として支払対象としない。
59年1月には,大阪地方裁判所の和解案が示されたが,この和解案は上記の考え方と概ね一致するものであったことから,59年3月に裁判上の和解が成立した。
この和解によって,10年余にわたって争われてきた大阪国際空港をめぐる騒音訴訟事案は全て終結するに至った。また,このように和解という形で,空港周辺住民との間の紛争を円満かつ平和裡に終結することができたことは,同空港の円滑な運営という面のみらず,空港と周辺地域との調和という面で大きな意義があると考えている。
しかしなお,同空港については,公害等調整委員会において空港周辺住民約13,000人からの損害賠償に係る調停手続が進められている。
このほか,福岡空港について周辺住民から2次にわたって訴訟が提起されており,福岡地方裁判所で審理が続けられている。
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