1 経済社会の変化と運輸をめぐる新たな動向
(1) 輸送需要の変化
(モータリゼーション,過疎過密等の進展)
昭和40年代から,急速に進展したモータリゼーションは,旅客輸送の面でマイカー輸送の増大により,鉄道,バス等の公共輸送機関の輸送シェアの減少をもたらし,貨物輸送面でも,トラック輸送の増大に伴い,特に鉄道貨物輸送の大幅な減少をもたらすなど輸送構造に大きな変化を生じさせた 〔1−1−1図〕, 〔1−1−2図〕。
また,航空輸送は,国民の高速指向と空港の整備やジェット化の推進に伴って発展し,鉄道の長距離旅客を減少させている。
さらに,人口の都市部への集中,地方の過疎化は,都市部では,鉄道輸送力の不足,道路交通のマヒをもたらし,地方においては,マイカーの増大とも相まって,バス,ローカル鉄道等の需要を大きく低下させ,地域における公共交通の確保に深刻な影響を与えている。
(産業構造の変化と貨物輸送)
経済のサービス化,ソフト化の進展に伴い,産業全体の中でサービス産業のシェアが拡大し,また,1次,2次産業内部でもサービス部門のウェイトが増大している。また,製造業分野においては素材型産業や重化学工業のウェイトが低下する一方で加工組立型産業が拡大し,マイクロエレクトロニクス産業やバイオテクノロジー産業,ファインセラミックス産業等,高付加価値,知識集約的産業が大きく成長している。
こうした産業構造の変化により,貨物輸送においても,その輸送需要の内容が大きく変わり,原材料輸送が伸び悩み製品輸送が増大し,また,輸送する製品の「軽・薄・短・小化」も進展し,このため貨物輸送量は経済全体の成長ほどには伸びなくなっている。
(国民ニーズの高度化・多様化)
豊かな社会の到来,余暇の増大,女性の社会進出,情報化の進展といった経済社会の変化に伴い,国民のニーズも高度化,多様化しており,これに対して輸送サービスも質的な充実,付加価値の高いサービスが要求されてきている。運輸事業は,安定成長下の総輸送量の停滞の中で経営の効率化を進める一方で,こうした要求にも応えたサービスの質的充実を図っていかねばならない状況となっている。
(2) 運輸産業等の構造変化
(輸送・製造部門の停滞,付帯・関連サービス分野の拡大)
運輸関連産業等の諸活動を,産業連関表により,その生産額ベースでとらえてみると,その構成は 〔1−1−3図〕のように変化してきており,営業輸送が自家輸送の増大に押されて縮少し,輸送機械製造も,特に造船,鉄道車両の縮少により,そのウェイトを低下させてきている。これに対し,運輸付帯,運輸関連サービス分野のウェイトは拡大している。
〔1−1−4図〕は,これらの部門別に45年から57年の生産額の伸び率を示しているが,このうち運輸産業(運輸省所管産業)についてみると,航空付帯事業,旅行業等の運輸付帯サービス及び旅館・ホテル,リース・レンタカー等の運輸関連サービスの伸び率が高く,一方で,鉄道,海運,バス等の営業輸送及び造船,鉄道車両等の製造部門の伸び率は相対的に低くなっている。ただし,営業輸送の中でも航空は順調な拡大を続け,また,トラック及び民鉄の50年以降の伸び率は平均を若干上回っている。
(ニーズの変化に対応した新たな運輸サービス等の発展)
また,このほか,既存統計等には必ずしも現れてこないが,輸送部門も含め,あらゆる運輸産業において,近年では,従来の基本的営業の枠にとどまらず,これを超えたサービスの高度化や新しいサービス分野の拡大,他業種への進出といった動きが顕著になってきている。こうした比較的新しいサービスは,いずれも経済・社会ニーズの変化にうまく対応して急速に成長しているものである。
これらのうち特に,@流通分野にも進出しつつある宅配便,引越の総合サービス化,総合物流業,旅客ではコミュータ(小型機による地域航空輸送)等といった高度化・多様化した運輸サービス分野,A気象,観光,都市交通等の情報提供サービスやVAN,CATV,電気通信事業への運輸業者の進出等といった情報化関連分野,Bペンション等多様化する宿泊施設,海洋レクリエーション,マリーナ,コンベンション等といったレジャー・観光関連分野,Cレンタ・リースカー,コンテナリース等のリース部門等は時代のニーズに適応して成長してきたもので,今後ともその発展が見込まれる分野と考えられる。
以上のような運輸産業の動向に対応し,行政においても,停滞する部門の活性化や新たに発展する部門の振興・育成など,運輸産業全体を活性化させるための施策の展開が必要となっている。
(3) 国際化の進展と運輸
(国際運輸をめぐる情勢の変化)
我が国経済社会における国際化の進展,国際的相互依存関係の深化に伴い,国際運輸市場においても我が国の地位が向上し,その影響力が大きくなっている反面,国際的動向の影響もそれだけ強く受けざるを得ない状況になっている。近年の国際運輸をめくる情勢としては,世界的な海上荷動き量の低迷,船腹過剰状況による海運不況の長期化,米国の自由化政策,極東中進国(地域)の躍進等による国際運輸市場での競争の激化,運輸分野にも及んでいる経済摩擦問題などがあげられ,諸外国との間で調整を要する問題が多くなっている。
このような状況の下で,我が国の国際運輸について,企業経営の活性化,合理化による企業基盤の強化と国際競争力の確保を図るとともに,安定的な国際運輸秩序を形成していくことがますます重要となっている。
また,順調な伸びを示している国際的な人的交流を一層促進し,国際的な相互理解を増進する観点から,日本人の海外旅行と外国人の訪日旅行の双方を促進する国際観光施策の推進と輸送需要に対応した航空輸送力の確保を図るとともに,国際経済社会における我が国の地位に相応した責務を果たし,国際協調の促進を図る観点から,運輸分野における市場アクセス改善等の対外経済対策の推進と国際協力の拡充を行っていく必要がある。
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