2 運輸省の機構改革とこの一年の取組み
このような運輸をめぐる経済社会情勢の変化を背景として,運輸省は,59年7月,従来の輸送手段ごとのタテ割り組織を大幅に再編整理していわゆるヨコ割り組織を新設し,新しい運輸省としてスタートした。
これは,近年の運輸をめくる諸問題が,従来の行政体制の枠を超え,陸海空の各輸送手段にわたる横断的な問題として解決していく必要があることから,運ぶ側と同様運ばれる側にも問題把握の視点を置き,これらの諸問題に総合的かつ効率的に対処し得るような体制作りをめざしたものである。
(行政の基本方針,ビジョンの策定)
機構改革以来一年余りを経過し,運輸省では新しい組織体制の下にその機能を活用しつつ,各部局とも,新施策の展開に積極的に取り組んでいるが,それらの具体的内容は,次節及び次章以降に譲ることとして,ここでは,運輸をめぐる諸情勢の変化に対応して,今後の運輸行政及び運輸事業の進むべき方向,あるべき姿等についてなされたビジョンの提示,検討の状況等を中心に紹介しつつ,この一年間を振り返ってみることとする。
(1) 国鉄改革の推進
今や一刻の猶予も許されない国家的課題である国鉄改革の推進については,59年8月,日本国有鉄道再建監理委員会から第2次緊急提言が出され,運輸省としては,その趣旨をも踏まえて,余剰人員対策,事業分野の整理をはじめ各種緊急対策を積極的に推進するとともに,同提言で示された国鉄事業再建の基本認識と基本的に同様の視点に立って,効率的な経営形態のあり方等の抜本的対策に関する同委員会の審議に協力し,適切な結論が得られるよう対処してきた。
このような経緯の中で,60年7月26日,同委員会から「国鉄改革に関する意見」が提出されたが,運輸省としては,この意見を最大限尊重する旨の政府の対処方針(7月30日付け閣議決定)に従い,国鉄事業の分割・民営化施策の実施に取り組むこととした。その後,この対処方針に基づいて国鉄改革の実施を図るために「国鉄改革のための基本的方針について」(10月11日付け閣議決定)が決定され,現在,省内に設けられた運輸大臣を本部長とする「国鉄改革推進本部」の下に国鉄との緊密な連携を図りながら,この基本的方針に沿って関係法案の次期通常国会提出の準備その他各種施策の具体的検討を進めている。
(2) 事業規制その他の規制のあり方に関する検討
新しい運輸省にとっての基本的課題である事業規制の見直しについては,59年9月,省内に「事業規制その他の規制のあり方に関する検討委員会」を設け,運輸行政における事業規制等の規制のあり方について検討を行っている。
60年3月末には,当面の合理化措置を中心とする第1次報告をとりまとめ,逐次,実施に移している。
一方,臨時行政改革推進審議会においても,規制緩和の問題が取り上げられることとなり,運輸省としては,同審議会における審議にも対応しつつ,規制のあり方についての検討を進めてきており,60年7月,同審議会から運輸関係の規制についての指摘を含む「行政改革の推進方策に関する答申」が出された。
運輸省としては,同答申で指摘された事項を着実かつ計画的に実施に移すとともに,今後とも引き続き,規制の見直しを進めていくこととしている。
(3) 運輸政策審議会の活動
経済社会情勢の変化に対応して新しい運輸政策を推進するため,運輸政策審議会に総合部会,情報部会,国際部会,地域交通部会及び物流部会を常設するなど,その機動的な活動が始まった。
各部会の具体的な活動状況は次のとおりである。
@ 60年9月,総合部会が開催され,同月に行われた「我が国航空企業の運営体制のあり方に関する基本方針について」の諮問を専門的に調査審議するため航空部会を設置した。また,最近の輸送動向を勘案し,将来の見通しについて検討するため,総合部会の中に長期輸送需要検討グループを設置することとした。
A 我が国経済社会が高度情報社会に向け急速に発展しつつある情勢にかんがみ,運輸における情報化の基本的方策を総合的視野に立って確立するため,59年10月,「運輸における情報化を円滑かつ適切に推進するための基本的方策について」の諮問を行った。この問題については,情報部会において専門的見地からの調査審議が行われており,60年2月には中間報告が出されるとともに,本年中を目途に答申が出されることとなっている。
B 57年9月に諮問した「東京圏における高速鉄道を中心とする交通網の整備について」に関し,東京圏都市交通部会において調査審議が行われ,60年7月,21世紀における東京圏の姿を展望した新たな東京圏における高速鉄道を中心とする交通網の整備計画,計画実現化のための方策に関する答申が行われた。
C 物流部会において,消費者物流に係る現状等についての分析結果並びに宅配便,引越輸送及びトランクルームサービスに関する新しい標準約款の検討状況についての報告が行われた。その後,部会での議論を踏まえて,運輸省では,60年9月に標準宅配便約款を告示し,引き続きトランクルーム等の標準約款の策定作業を進めている。
D 我が国航空企業の運営体制については,45年の閣議了解及び47年の運輸大臣達により定められているが,その後の著しい情勢の変化にかんがみ,60年9月,運輸政策審議会に対して「我が国航空企業の運営体制のあり方に関する基本方針について」の諮問を行い,現在,航空部会において調査審議が行われている。
(4) 海運造船合理化審議会による中間答申及び答申
今後の日本海運のあり方に関し,@日本船の乗組員の少数精鋭化,近代化船の増強等により国際競争力のある商船隊を構成すること,A海運企業経営の活性化,合理化を促進するため,外航海運集約体制及び定期航路運営体制に関する規制緩和を行うこと等を骨子とする中間答申及び答申が,各々59年8月及び60年6月に行われた。
(5) 海上安全船員教育審議会による建議及び答申
海上安全に関しては,我が国周辺海域における洋上救急体制について,59年12月,「関係者が協力して医師等の出動阻害要因の解消を図り,洋上での救急業務の円滑な実施を目的とする洋上救急体制の整備に努めること」を内容とする建議がなされた。これに基づき,(社)日本水難救済会が推進母体となって,60年10月から事業を開始した。
また,船員教育に関しては,海員学校のあり方について,60年6月,@学制を船員制度の近代化,高学歴化の社会情勢等に対応した制度に改めるとともに,Aその養成数を中長期にわたる船員需要の見通しの下に縮減を図る旨の追加答申が行われ,回答串の趣旨を尊重した海員学校の学制改革が61年度から実施されることとなっている。
(6) 「21世紀への港湾」の策定
来るべき成熟化社会に備えるための新たな港湾整備に関し,@人,物が集まり多様な活動が高度に営まれる総合的な港湾空間の創造,A外貿コンテナ港の地方への配置,内貿コンテナ港の拠点的配置等,全国の港湾が全体として効果的に機能を発揮する港湾相互のネットワーキングの推進を目標とし,これを実現するための新たな枠組みの形成を図ることをめざして,60年5月,「21世紀への港湾」を取りまとめた。
(7) 海洋性レクリエーションについての検討
近年,急速に発展してきている海洋性レクリエーションに関し,その健全な発展を図ることを目的として,60年2月,「海洋性レクリエーション研究会」を設置した。現在のところ,現状把握等により海洋性レクリエーション振興のための課題について検討を進めており,今後は,これらの結果を踏まえつつ各分野にわたる総合的な施策を策定することとしている。
なお,同研究会での検討の成果等を踏まえ,60年7月,「海洋レクリエーションの現状と展望」を発表した。
(8) 観光旅行の容易化と利便の増進のための検討
旅行業,宿泊業,レジャー産業等を横断的にトータルな視点からとらえ,ニーズ指向の新しい行政を展開するため,「観光旅行の容易化と利便の増進のための検討会」において検討を行い,60年6月,旅行者の旅行の流れに沿った観光旅行の容易化のための施策,外客の最近の志向に応えるための施策,日本人海外観光旅行のための施策の推進を図ること等を内容とする報告書を取りまとめた。
(9) 航空行政についての検討
59年9月,「航空行政政策検討会」を設置し,航空行政に関する当面の重要課題について検討を行っている。具体的成果としては,@事業規制等の当面の合理化措置として検討を終えた事項について,一括省令の制定等により実施したほか,国内旅客運賃の営業割引制度の弾力化を行ったこと,A国際科学技術博覧会の期間中にヘリコプターにより行われる旅客輸送の取扱いに関して検討を行い,そのための基準を新たに設定したこと等がある。
以上の事例からわかるように,新しい組織の下では運輸行政の様々な分野にわたり新しい政策についての積極的な動きがみられる。これらの動きの特徴としては,まず,現時点ではヨコ割りのメリットが十分に生かされているとはいえないが,ヨコ割りのメリットをできるだけ生かして行こうとする動きがみられること,また,刻々変化しつつある運輸産業にアクティヴに対応するとともに,さらにそれらに対して積極的にビジョンの提示を行おうとしていること等があげられる。
今後,新組織体制の定着につれてこのような動きはますます活発になっていくものと思われる。
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