4 国際観光を通じた国際交流の推進


(1) 国際観光の動向と今日におけるその意義

 (国際観光の動向)
  59年における訪日外国人旅行者は,対前年比7%増の211万人で,初めて200万人の大台を突破した。この水準は,49年の76万人の約2.8倍に当たるもので,50年代を通じて,年平均10%を超える高い伸びを示したこととなる。
  一方,日本人の海外旅行者数についてみると,50年代半ばには景気の低迷等を反映して時的な停滞がみられたものの,59年においては,この停滞を完全に脱し,対前年比10%増の466万人と史上最高の水準を記録した。これは,49年の234万人の約2.0倍に当たるもので,この10年間の年平均伸率が約7%となっている 〔3−2−5図〕

  このように,近年,我が国をめぐる人的な国際交流は著しい増加をみせている。その原因として,訪日外客の増加については,全般的な円安基調,台湾,韓国等の近隣地域における海外渡航制限の緩和等を,日本人海外旅行者の増加については,国民の所得水準の向上,余暇時間の増大等をあげることができるが,一般的な背景として,国際社会における我が国の役割の増大と相互依存関係の深まりを反映したものということができよう。
 (国際観光振興の必要性)
  しかしながら,国際的な水準からみると,我が国の出入国者数は,アメリカ,イギリス,フランス,西ドイツの平均出入国者数の約15%に過ぎず,特に我が国の経済規模,貿易規模等と比較したとき,人的交流量は著しく低い水準にとどまっているといわざるを得ない状況にある 〔3−2−6図〕

  今日の経済摩擦問題の遠因は,このような人的交流の不足に起因する国際的な相互理解の欠如にあるものと考えられる。また,諸外国は,我が国との観光交流の促進に極めて積極的であり,運輸大臣が6月下旬から8月にかけてオーストラリア,ニュージーランド,インドネシア,韓国,中国を歴訪した際にも,これらの全ての国から,我が国との観光交流の増大,特に日本人観光客の拡大について強い要請がなされ,運輸大臣から要請に応えるべく全力を尽す旨回答するとともに,日本人の海外旅行の促進のための諸施策について熱心な協議が行われた。
  我が国の国際観光政策は,従来から一貫して外国人の誘致,受入れを図るためのイソバウンド政策に重点が置かれてきたが,このような状況を考えたとき,日本人観光客の海外旅行を促進するためのアウトバウンド政策を新たに展開する必要がある。

(2) アウトバウンド政策の新たな展開

 (アウトバウンド政策の必要性)
  前述したように,現在,我が国には,諸外国から日本人観光客の誘致についての強い要請が寄せられており,国際間の相互理解といった意義のほかに,次のような効果をも有するアウトバウンド政策の展開を新たに始めることは,相互依存の高まる国際社会においてその利益を享受している我が国にとって欠くことのできない責務ともいえる。

 ア 日本人観光客誘致による諸外国の経済への貢献

      諸外国の推進するインバウンド政策に協力しながら我が国がアウトバウンド政策を推進すれば,相手国においては,日本人観光客の増加により旅行収入の増大が図られることとなる。旅行収入は外貨手取率が極めて高く,その受取国の国際収支の改善に直接に資するものである。
      また,発展途上国にとっては,これに加えて,日本からの人の流れにリンクした資本やノウ・ハウの移転,雇用創出,インフラストラクチャーの整備の促進等の効果も期待される。

 イ 我が国の国際収支のバランスヘの寄与

      日本の旅行収支は,59年度34.8億ドルの赤字であったが,これは貿易外収支の赤字額71.1億ドルの約1/2に相当する規模である 〔3−2−7表〕。日本人海外旅行者は1人当たり約1,000ドルを海外で消費しており,仮に海外旅行者が100万人増えれば,約10億ドルの経常収支の黒字幅の縮小となることから,海外旅行による経常収支のバランスヘの寄与は大きい。

     (アウトバウンド政策の課題)
      今後,日本人の海外旅行を促進するためには,諸外国における日本人のニーズに対応できる諸外国の観光サービス提供体制の整備に関するノウ・ハウを有する我が国の観光関係者と諸外国の関係者との交流,各国の観光資源等に関する知識の我が国における普及等が必要である。
      このため,我が国にとっては,休暇促進等国内の環境整備を図るとともに,諸外国における日本人受入れのための施設整備や人材育成への協力,各国の我が国における観光宣伝活動への協力,海外旅行促進調査団の派遣など,総合的なアウトバウンド政策の展開を図ることが重要な課題となっている。60年7月に運輸大臣が大洋州等を訪問した際にも,オーストラリア,ニュージーランド,インドネシアの観光担当大臣から,日本人のニーズに対応したホテル等の施設整備を図るための日本企業によるこれら諸国への観光投資の促進が強く要請され,これに関しこれら諸国の外資規制のあり方について協議が行われた結果,日本からの観光投資について当該規制を弾力的に運用していくことが合意されている。
      上記の観点から,60年7月の「市場アクセス改善のためのアクションプログラムの骨格」においても,日本人海外旅行の促進等を図るべきことが盛り込まれた。

(3) インバウンド政策の推進

 (国際観光動向に対応した政策の展開)
  外国人観光客の訪日を促進し,我が国を真に理解してもらえるよう,インバウンドの観光政策として従来から国際観光振興会による海外観光宣伝活動等を行ってきたが,特に,近年の国際観光をめぐる状況の変化に対応するため,現在,次のような施策を講じている。

 (国際観光モデル地区構想の推進)

      国際観光を通じた国際間の相互理解の増進を図るうえで,我が国国内の外客受入体制の整備を推進し,日本を訪れた外客が,独り歩きすることのできる環境を整備する必要性は大きい。従来,外客受入体制については,国,国際観光振興会を中心として,その整備が図られてきたが,全国的にみた場合,必ずしも十分な体制が整っているとはいい難い現状にある。
      このような状況を踏まえて,観光政策審議会は,59年3月の意見具申「国際観光の新たな発展のために」の中で,我が国の外客受入体制の整備を推進するための方策として,国際観光モデル地区構想の検討を提言した。これは,外客の誘致,受入れに意欲を有する観光地を国際観光モデル地区として指定し,外客受入体制の整備に関し,その地域の関係者と国との一体的な協力関係を確立し,モデル事業としてその観光地の外客受入体制の整備を総合的に推進しようというものである。
      近年,地方公共団体等のなかに,一地方の立場からの国際的な交流を模索する動きが目立っており,その一環として,外国人観光客の誘致,受入れに意欲的に取り組んでいる観光地も多い。そのような観光地について,国が積極的な支援措置を講じることは,外客受入体制の整備を推進するうえで極めて有効であると同時にその地方の活性化にも大きく貢献するものと期待されている。
      上記提言を受けて,59年10月に観光政策審議会総合部会に国際観光モデル地区構想検討小委員会が設置され,本構想の具体化のための検討を行い,60年6月にその検討結果を報告した。小委員会報告は,国際観光モデル地区の目標像を「外客が国内客と同様に楽しむことができ,さらには外客が参加,体験,交流できる観光地」と整理したうえで,その指定条件,国等の支援措置などについての基本的な考え方を明らかにしている。
      現在,運輸省においては,この小委員会報告に即しつつ,モデル地区の指定条件の策定等の諸準備を行っており,今後,地方公共団体からの申請を待って,具体的な地区指定を行い,指定地区における事業の実施に着手することとしている。
     (その他のインバウンド政策)

 ア 国際会議の誘致

      国際会議の開催が,地域の活性化,外客の誘致等の手段として注目されているが,国際会議の誘致に意欲を有する都市と従来からその誘致活動を行ってきた国際観光振興会との間で,60年4月,日本コンベンション推進協議会が設置され,国際会議の誘致に積極的に取り組んでいる。

 イ ペンション及び民指についての外客への情報提供

      訪日外客が安い費用で宿泊しながら日本人やその生活を理解する機会を得られるように,国際観光振興会では,低廉で快適な宿泊施設の情報提供を行うため,ホテル等一般の宿泊施設に加え,外国人の利用に適したペンション及び民宿のファイル化を推進している。

 ウ 国際観光振興会ソウル観光宣伝事務所の開設

      近年のアジアからの訪日外客の増加に対応してアジアにおける観光宣伝体制の充実を図るため,60年12月にソウル(韓国)に,アジア地域では,バンコック,香港に次ぐ3か所目の国際観光振興会の観光宣伝事務所を開設することとしている。


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