5 拡大する国際航空


(1) 発展する航空輸送

 (回復過程にある世界の航空輸送)
  アメリカ経済の拡大を中心に景気の回復がみられた世界経済を背景に世界の航空輸送需要は,1984年に入り更に増加した。国際民間航空機関(ICAO)加盟国の定期航空企業全体の航空輸送量(旅客,貨物及び郵便物の合計)でみると,1984年の国際及び国内の定期航空輸送量は対前年比9.1%増の1,581億トンキロ(推定値)と,1983年の伸び率(4.7%増)を上回る見込みである。そのうち,814億トンキロを占める国際線の伸び率は対前年比10%(1983年は5.4%増)であり,第2次石油危機の後遺症から脱したとみられる。
  この国際線の輸送実績については,旅客部門,貨物部門それぞれ5,530億人キロ(対前年比8.4%増),287億トンキロ(同14%増)となっており,引き続き貨物の伸びが旅客の伸びを上回っている。地域別に当該地域に属する航空企業の国際線の輸送実績の伸び率をみると,旅客部門(人キロベース)では,北米及び中南米がそれぞれ12%,中近東,アジア太平洋,欧州及びアフリカが9%〜6%の伸び,貨物部門(トンキロベース)では北米,欧州及びアジア太平洋が16%〜14%,中近東,中南米及びアフリカが11%〜7%となっている。
  世界の航空市況の好転に伴い,1980年以来赤字を計上してきたICAO加盟国の定期航空企業は1983年に入り全体で21億ドルの黒字に転じ,1984年には黒字幅が50億ドルに拡大する見込みであり,世界の航空企業の経営状況も回復してきている。他方,航空の分野における国際環境に目を転じてみると1978年以降の米国の規制緩和政策,1984年に締結された英蘭,英独の自由化された取極等により世界における国際航空体制が流動化しつつあり,我が国においても1985年5月に日本貨物航空が米国への乗入れを開始したほか国際線を運航する我が国航空企業の複数化の検討が進められるなど,国際航空をめくる情勢が複雑化するなかで,企業間の競争も激化するものと見込まれる。
 (我が国をめくる国際航空輸送)
  我が国をめぐる国際航空市場は,自国航空企業(日本航空,日本アジア航空及び日本貨物航空)及び外国航空企業(36社)により39か国1地域77都市との間にネットワークが形成され,世界でも有数のものとなっている。
  旅客部門の需要規模は 〔3−2−8図〕に示すとおり着実に拡大してきており,10年間で約2.6倍に成長した。昭和59年度における旅客の国(地域)別シェアは,米国(ハワイ,グァム及びサイパンを含む。)が第1位で31%,以下,韓国及び台湾がそれぞれ14%,香港13%等となっている 〔3−2−9図〕。他方,需要規模の拡大が著しい国として注目されるのは,ニュージーランド,中国及びオーストラリアであり,過去3年間の平均伸び率がそれぞれ52%,24%及び15%となっている。

  一方,貨物部門においても 〔3−2−10図〕に示すとおり引き続き需要規模の拡大がみられ,10年間で約3.4倍に増加した。特に,加工型産業における国際分業体制の進展に伴い,半導体等の高付加価値製品の輸出の堅実な伸びに加え,輸入の分野においても部品段階での製品輸入が増加しており,我が国と他の先進国,韓国,台湾,香港及びシンガポールの極東中進国(地域)等との間に生産工程の一段階として発生する物流において航空輸送の利用が拡大してきていることを反映している。しかしながら,59年度に対前年度比8%の伸びを示した輸送量は60年度に入り鈍化傾向にあり5月〜8月には前年同期の輸送量を下回った。

(2) 我が国をめくる国際航空の拡大

 ア 日米航空関係

     (拡大を続ける日米航空関係)
      日米間の定期航空輸送量は着実に増加してきており,年間の旅客輸送量は約498万人(59年度),貨物輸送量は約43万トン(59年)に達している。これは,それぞれ日本をめぐる国際航空市場の約3割及び約4割に当たり,両国の経済関係等の緊密さを物語っている。日米間航空市場におけるシェアを日本企業,米国企業及び第三国企業別にみると,旅客部門についてはそれぞれ38%,51%及び11%,貨物部門についてはそれぞれ32%,64%及び4%となっており,米国企業のシェアがいずれの部門においても高水準となっている 〔3−2−11表〕, 〔3−2−12表〕

     (日米暫定合意と今後の日米航空交渉)
      日米間では航空権益の総合的均衡を図るべく今日まで30年に及ぶ航空協議が重ねられてきており,その間,改善された点は多いもののなお,是正すべき問題が残されている。現在行われている協議は47年の沖縄返還の際の合意に基づき,51年以来続けられているものであるが,双方の間に両国間の航空関係の見方と現行の協定の解釈についてかなりの相違があり,現在に至るまで最終的合意には至っていない。
      こうした状況の下で日本貨物航空の太平洋路線への参入問題が生じた。近年における太平洋路線をめぐる航空貨物輸送量の増大を背景に設立された日本貨物航空は,58年8月に貨物専用便による「東京〜サンフランシスコ/ニューヨーク」路線の免許を運輸大臣より取得した。その後同年11月に,日本政府は,米国政府に対して,同社を航空協定に基づき定期航空運送業務を運営する航空企業として指定したことを通告し,これを受けて同社は59年2月に米国政府に対し免許申請を行った。日本側としては,米国側が5社,日本側が1社就航している状況の下での同社の参入は,航空協定上当然かつ早急に認められるべきものであるとの考え方をとっていたが,米国からの免許交付が遅延するに至ったため,引き続き行われた協定改定交渉の中で,同社の米国乗り入れ問題を中心に,数回の中断をはさみつつも精力的に協議を重ねた結果,60年4月30日,両国は合意に達し(外交文書の署名・交換は同年5月1日),同社の米国乗入れが実現の運びとなるとともに,両国の航空権益の拡大が図られることになった。
      今回の合意により,日本貨物航空の米国乗入れが認められ,同社は60年5月から運航を開始した。また,日本-ミクロネシア間の路線については,一定の輸送力調整方式の下で双方同数の航空企業の乗入れを認めることになった。さらに,一定の枠内で新規3路線の開設が認められ,3路線のうち一つを小口貨物輸送専門航空企業に割り当ててもよいことにした。従来,日米双方とも相手国内地点を交換する形で権益の調整を図ってきたものを,今度は路線ごとにそれぞれが平等な機会を与え合うという形がとられたことにより,双方が東京と米国南部の地点等従来直行便のない米国内地点との間の路線に乗り入れることが可能となった。米国航空企業は59年において世界の国内航空輸送の53%のシェアを持っているようにその広大な国内ネットワークを背景として強大な競争力を持っているが 〔3−2−13図〕,今回の合意は,このような米国の新規企業を含めて双方の航空企業が新たに参入する路線については,運航便数を段階的に増やすことにより日米間に秩序ある航空サービスの提供をめざしたものである。このように,今回の合意は,機会の均等,輸送秩序の確保という従来の日本側の主張も組み入れた形で双方の機会の拡大を図ったものであって,従来から続けられてきた協定改定交渉の段階として位置付けられ得るものである。この合意の実施については,現在,運輸政策審議会で調査審議されている我が国航空企業の運営体制のあり方についての検討を踏まえて対応していくこととしている。

      我が国としては引き続き双方の路線権,以遠権等の航空権益の均衡に向けて包括的協定改定交渉を積極的に推進していく必要があるが,その際,@日米航空協定に基づく権益のとらえ方が両国間で大きく隔っていること,A米国は,広大な国土,桁はずれに大きい国内航空市場,使用上の制約のほとんどない多くの国際空港の存在等を背景に,自由主義的色彩の強い国際航空政策を展開しつつも,米国内の乗入地点の追加,新規航空企業の指定等米国が追加権益と考えるものに対する諸外国からの要求に対しては自国航空企業保護の観点から極めて厳しい態度で臨んでいること,B最近両国間において経済摩擦の激化がみられるもののあくまで航空関係は基本的には機会均等という航空協定の原則に立脚して処理することが国際的にも定着していること等に十分留意して対処すべきであろう。なお,最近,相互主義の観点から,米国で日本の航空企業が享受している利益と同等の利益を供与すべきであるとして我が国における空港の利用条件や通関手続等に関する規制の変更を求めてきているが,我が国としては可能なことについてはできる限りの対応を図るとともに,空港の夜間利用制限等解決の困難な問題については,日本と外国の企業を平等に取り扱うこととしつつ米国側の理解を得るべく努めている。

 イ その他の国との航空関係

     (増進が図られる利用者の利便)
      過去一年間(59年9月〜60年8月)に,米国との8回に及ぶ航空交渉のほか,既に航空協定が締結されている国々のうち14か国との間で18回にわたり新規地点の追加,増便の取極等航空関係の拡充を中心に協議が行われ,利用者の利便の増進が図られてきた。このうち,ソ連との関係では60年2月の合意により61年4月から週4便,62年4月から週5便,シベリア上空経由ソ連国内無着陸の東京-ヨーロッパ直行便の運航が可能となった。これにより,例えば,東京-ロンドン間を約11時間半(東行便ベース)で結び,アンカレッジ経由北回り便(約16時間),モスクワ経由便(約13時間)に比べて,飛行時間が大幅に短縮される道が開かれた。また,タイとの航空交渉では両国の路線にチェンマイを追加することが合意された。その他,輸送需要の増加に対応するため,中国との関係では60年度の輸送力を旅客,貨物それぞれ前年度に対し約25%(需要ピーク期の8月〜10月は約33%)及び約30%増加すること,オーストラリアとの関係では60年4月より貨客便の輸送力を33%増加するとともに同年10月よりB747による共同貨物便週1便を新設することが合意された。今後とも,国際交流及び国際物流の一層の発展に対応して輸送需要に適合した輸送力の供給を確保していく必要がある。
      また,我が国の航空市場としての価値の高さから,我が国との間で航空協定の締結を希望する国は32か国に達しているが,我が国は直行需要の多い国々とは既に航空協定を締結しており,今後航空協定を締結する対象となる国は直行需要の少ない遠距離の国が多い。これらの国々との間に航空路を開設するに当たっては適正な需要の存在を前提としつつ,人的物的交流の促進,双方の航空権益の均衡の確保等に留意して対応していく必要がある。なお,これら直行需要の少ない国との間については,関係国の航空企業が協力して既に路線が開設されている中間地点における接続を改善し,両国を結ぶルートの利便性を高め,輸送需要の喚起を図ることにより,現在の需要に対応するとともに将来における直行便の開設につないでいくことも一方法と考えられる。他方,我が国へ乗入れを図る航空企業の中には,我が国をめぐる三国間輸送を目的とするものもあるが,国際航空においては当事国双方を出発地及び目的地とする輸送を対象として互恵・平等の原則の下に相互に航空権益を交換するとの考え方を基本として対処していく必要がある。

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