(2) 総合的かつ計画的な地域交通行政の展開
このような状況に対応して地域交通ネットワークの改善を図るためには,地域の実情を勘案して長期的な視野に立った地域交通に関する総合的な対策を提示するとともに,行政,交通事業者,利用者の行動指標となる交通計画を地域ごとに策定する必要がある。
(1) 都市鉄道の整備
国鉄の設備投資については,安全確保のための投資に重点を置き極力抑制してきているが,大都市圏の輸送力増強対策等緊急を要するものについては,重点的に投資を行っている。 新線の建設としては,通勤別線(埼京線)赤羽・大宮間(18km)が60年9月に開業したが,さらに京葉線東京・蘇我間(46km)等の工事が進められている。 (地下鉄の整備) 地下鉄は,その大量の輸送能力及び高速性から,都市内においてふくそうする路面交通に代わる優れた交通手段として,国及び地方公共団体の補助のもと,その整備が進められてきており,利用者数も他の公共交通機関に比べ,大きな伸び率を示している 〔4−2−4図〕。
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50年度末には,帝都高速度交通営団及び5都市(札幌市,東京都,横浜市,名古屋市,大阪市)において運営されていたが,現在では,京都市,神戸市,福岡市においても運営され,これら9事業者の総営業キロは,60年8月現在で436.9kmと50年度末の約1.5倍となっており,さらに,これらの事業者及び仙台市において新線建設が進められている。
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(ニュータウン鉄道の整備)
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このうち,車両の冷房化についてみてみると, 〔4−2−7図〕のとおり,59年度で,東京・大阪地区の国鉄の冷房化率77.7%,大手民鉄14社合計の冷房化率が78.5%となっており,50年度に比べてそれぞれ3.7倍,2.3倍程度の大幅な向上を示している。
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また,駅舎等の施設の改善については,国鉄及び民営鉄道各社において,その経営状況をも勘案しつつ,計画的にホーム屋根,エスカレーター等の整備を図り,利用者の利便の向上に努めている。特に,高齢者,身体障害者の移動の利便性を確保し,これら交通弱者の社会参加の推進を図る観点から,車椅子通路,誘導ブロック,身障者用トイレ等の施設の整備を順次進めている。
(2) 東京圏における交通網の整備
(東京圏の将来展望) 東京圏の人口は,千葉県,埼玉県,茨城県南部等の圏域の北部ないし東部地域を中心に75年までに約400万人増加し,一方,業務地については,都心3区及び副都心のほか,横浜,川崎,立川,八王子,大宮,浦和等への分散化が進展するものと見込まれる。 これらの点から,東京都区部への流入人口は75年までに約80万人増加し,特に圏域の北部ないし東部地域からの流入人口の伸びが顕著となるものと見込まれる。 (計画策定に当たっての基本的考え方) 東京都心部を中心とするおおむね半径50kmの範囲を対象とし,75年を目標とする高速鉄道網の整備計画を示した。 路線の選定に当たっては,既設線の混雑緩和に重点を置き,最混雑区間における最混雑1時間の混雑率がおおむね200%を超える路線について新線建設等を行うこととした。 また,人口の外延化,ニュータウン計画への対応や空港アクセスの改善を図るとともに,副都心機能の強化及び業務核都市への育成にも資するよう配慮した。なお,バス等による対応についても検討するとともに,極力既投資施設の有効活用を図ることとした。 (主要な新規答申路線の概要) 路線計画の策定に当たっては,今後の輸送需要の動向等を踏まえて,新規に路線の設定等を行うとともに,これまでの答申路線は,必要性の薄れたものについて見直しを行った。今回の答申において,新たに路線の設定または延伸を行ったものは以下のとおりであり 〔4−2−8表〕,これらの路線の整備により各路線の最混雑区間における最混雑1時間の平均混雑率は55年度の約220%から75年には約180%以内となり,また,郊外の居住地の大部分から東京,横浜等の業務集積地へ約90分以内で到達可能となるものと見込まれる。
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(計画実現化のための方策)
ア 沿線開発計画との十分な調整
イ 長期低利の資金の確保
ウ 開発利益の還元
エ 業務地開発における開発負担金
オ 円滑な運営の確保のための運賃のあり方
カ 常磐新線の整備方策
(3) 都市新バスシステム等の整備
都市におけるバス輸送は,モータリゼーションの進展等に伴う走行環境の悪化により,バスの利便性が相対的に低下したことから需要が減少するとともにコストが増加し,このため採算性が悪化し,これがサービス改善を遅らせることとなり,さらにバス需要を減少させるという悪循環に陥っている。一方,都市交通においては,円滑なモビリティを確保するとともに省空間,省エネルギー等の要請に対応していくためには,バスを魅力ある交通機関として再生していくことが必要である。こうした観点から,バス専用レーンの設置等バスの走行環境の改善を推進するとともに,運輸省は,バス車両,停留所施設等の改善を指導してきており,さらに,都市基幹バス,都市新バスシステム等に対して助成を行うことにより,都市におけるバスサービスの改善方策を強力に推進してきている。 (進む都市新バスシステムの整備) 都市新バスシステムは,バスサービスの改善方策の集大成として,バス専用レーンの設置と併せて利用しやすい近代的な車両及び停留所施設を整備することを内容とする都市基幹バスシステムを改善し,これにコンピュータを利用したバス路線総合管理システムを導入することでシステム全体のグレードアップを図ったものであり,都市交通体系上の根幹となるべき主要なバス路線において,バス専用レーンの設置と併せて,具体的には,次のような施設の整備を行うものである。 @ バス路線総合管理システムを導入し,コンピュータ制御による車両運行の中央管理による定期運転の確保等を図るとともに,バスロケーションシステムの整備により停留所におけるバス接近表示を行い,バス待ちのイライラを解消させる。 A 低床,広ドア,冷暖房,大型窓等を備えた都市型車両の導入により,バス輸送の快適性を向上させる。 B シェルター,電照式ポールを備えた停留所施設の設置によりバス輸送の利便性を向上させる。 これらの整備については58年度から助成措置を講じており,初年度は東京都及び新潟市において導入され,利用者の利便性を高めるなどの効果をあげている 〔4−2−9図〕。
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(名古屋市及び金沢市の都市新バスシステム)
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金沢市においては,都市新バスシステムを金沢駅,香林坊,広小路を中心とする3路線に導入し,60年3月から運行を開始しているが,この3路線以外にもバス路線総合管理システムを17路線に導入し,コンピュータによる運行管理を行うことにより,バス輸送の利便性及び快適性を向上させている。
(1) 中小民鉄及び地方バスの維持・整備
しかしながら,輸送人員は58年度において,中小民鉄約3.3億人(対前年度比3%減),乗合バス74億人(同3%減)と輸送需要が低迷し運賃収入は伸び悩んでおり,また,人件費等の諸経費が増加する等により極めて苦しい経営を余儀なくされている。 (中小民鉄の維持・近代化の促進) 中小民鉄は,地方交通に重要な役割を果たしており,大半の事業者が赤字経営となっているものの,経営改善を図りその維持に努めているところであり,営業収支率(営業費用/営業収入×100)についてみると,50年度の105.9から58年度には103.5と改善を示しているが,今後も一層の経営改善に努めていく必要がある。 しかし,設備の維持が困難なため老朽化しているもので,その輸送が継続されないと地域住民の足の確保に支障が生じるものについて,国は地方公共団体と協力してその経常損失額に対する補助を行っている。また,設備の近代化を推進することにより,経営改善,保安度の向上またはサービスの改善効果が著しいとみられるものに対しても,国は地方公共団体と協力して設備整備費の一部を補助している。59年度においては,これらの補助として35社に対し,約8億円の国庫補助金を交付した 〔4−2−12表〕。
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(経営改善への努力が望まれる地方バス)
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これら地方バス路線運行維持対策は,55年度以降59年度までの5か年間の対策とされていたが,60年度以降5か年間延長することとし,補助制度については現行制度の基本的枠組みを維持しつつ,補助要件の適正化及び代替バス運行費補助単価の改定を行った。
(2) 旅客船対策
我が国には,有人島が420余あり,住民の必要不可欠な生活の足として重要な役割を果たしている離島航路は,陸の孤島と呼ばれる僻地に通う準離島航路を含めて,60年4月現在,390航路あるが,これら離島航路の多くは,輸送需要の低迷,燃料費をはじめとする諸経費の上昇等により,赤字経営を余儀なくされている。 このため,国は,離島航路の維持・整備を図るため,従来から,地方公共団体と協力して,離島航路のうち一定の要件を備えた生活航路について,その欠損に対し補助を行ってきているが,欠損額の増加に伴い国庫補助金の額も増加傾向にあり,59年度に交付された国庫補助金は50年度の2.6倍の約36億円となっている 〔4−2−14表〕。
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離島航路の経営状況は,59年度は燃料費の安定等により,欠損額は減少しているが,将来的には,輸送需要の減少,諸経費の上昇等により経営は悪化することが予想され,また,国の財政事情も一段と厳しい状況にあるため,今後とも生活航路としての離島航路を維持していくためには,一層の経営合理化,効率化等を図る必要がある。このため,59年度から離島航路改善のための調査を行っており,この結果を踏まえて離島の実情に即した航路の改善方策を策定することとしている。
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神戸・鳴門ルートの大鳴門橋の関連では,60年6月の同橋供用開始に伴い,航路を廃止したものが1航路(1事業者),航路の規模縮小を行ったものが3航路(3事業者)あり,それぞれ事業者及び離職者に対して因島大橋の場合と同様の措置が講じられている 〔4−2−15図〕。
(3) 国鉄特定地方交通線の転換
国鉄特定地方交通線対策は,鉄道による輸送に代えてバス輸送を行うことが適当な路線を廃止し,これらに代わる地域住民の生活の足を確保するために輸送需要に見合った効率的な輸送手段を確保・整備するものであり,基本的にはバス輸送への転換が望ましいものと考えられる。第1次選定線区では,60年10月現在,北海道の白糠線等22線がバス輸送に転換されている。 (バス転換後の状況) バス輸送は,停留所の数が増加すること,需要実態に合わせた運行回数の設定が可能になること,冷房完備の車両を使用する場合も多いこと等,国鉄線当時に比して利便性は増加している。 また,転換後のバス輸送について経常収支において損失が生じた場合には,開業後5年間は要綱に基づきその全額を国が補助することとしている。59年度においては対象5路線のうち,損失を生じ補助を受けることとなったのは2路線である。 (地方鉄道転換線の状況) 59年4月に転換した久慈宮古及び盛の3線に続き,60年10月現在までに10線172.8kmが地方鉄道に転換した。 これらの鉄道は,いずれも,鉄道経営が困難となっていた路線においてあえて民営による鉄道を経営するということを,関係地方公共団体をはじめとする地元関係者が認識し,事業の採算性等について十分検討を行ったうえで鉄道を存続させることを選択したものであり,これらの路線を引き継いだ事業者は,要員の削減等経営の合理化を進める一方,沿線の実情に配慮したダイヤ設定を行う等により需要の喚起に努めるなどの経営努力を行っている。 また,各事業者の輸送状況は,このような経営努力等により,現在のところ国鉄線当時より比較的順調なものが多い 〔4−2−17表〕。
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各事業者の収支状況については,転換時に国鉄から交付される転換交付金及び国鉄が所有していた駅舎,路盤,信号施設等鉄道運営に必要な施設の無償譲渡又は貸付等の援助もあり,国鉄線当時との比較によると改善される見通しではあるが,依然,経常収支において損失の生じる事業者の出ることも見込まれ,その場合,開業後5年間は損失の2分の1を国が補てんすることとしている。
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