2 運輸事業の収支状況


  運輸事業における経常収支率の動向をみると 〔8−3−1図〕のとおりである。

 (鉄道部門は総じて改善)
  国鉄は,運賃改定にもかかわらず旅客輸送実績が2年連続して増加し,旅客収入は6.6%増となったものの,貨物輸送量の長期減少傾向が依然として続き,貨物収入は17.8%減と大幅な減少となり,営業収入は2.8%増の低い伸びとなった。一方,営業費用は,人員の大幅な合理化による人件費の縮減,修繕費及び動力費の節減により1.3%増の低い増加にとどまったため,依然として大きな赤字を計上しているものの経常収支率は3年ぶりに上向きに転じた。
  民営鉄道のうち,大手民鉄(14社)は,旅客輸送量の微増と59年1月の運賃改定(12社)により,営業収入は10.4%増と伸びたのに対し,営業費用は人件費その他諸経費の増加もあって6.4%増となり,この結果,営業収支は34.3%増と大幅に改善した。中小民鉄(70社)は,営業収入の増加により,営業ベースで黒字を拡大した。公営鉄道(11社)は,営業収入が9.4%増となり,営業・経常の両収支とも赤字幅を縮小した。営団地下鉄は,営業収益が増加し,経常ベースでも黒字に転じた。
 (自動車部門は民営乗合バスを除き改善)
  民営乗合バス(48社)は,営業収入が0.9%増と伸び悩んだことに加え,営業費用は燃料費が減少したものの人件費の増加により1.2%増となったため,営業収支は悪化した。
  公営乗合バス(35社)は,営業収入が4.1%増と上向いたため,営業費用は2.5%増となったものの営業収支は改善した。
  ハイヤー・タクシー(40社)は,営業収入が5.9%増と伸びたことに支えられ,営業費用が人件費を中心に増加し4.4%増となったものの営業・経常の両収支とも黒字を計上した。
  路線トラック(49社)は,営業収入が13.0%増と堅調な伸びをみせたため,人件費,燃料費の増加にもかかわらず黒字を拡大した。
  区域トラック(40社)は,営業収入の増加により,営業ベースで黒字に転じ,経常ベースでも黒字幅を拡大した。
  通運(150社)は,営業費用が9.3%減となったものの人件費,燃料費等の縮減による営業費用の減少により,赤字幅を縮小した。
 (依然苦しい外航海運)
  外航海運(助成対象41社)は,内外の景気回復基調を反映し,輸送活動が活発化した。定期船部門では,機械類,乗用車等を中心に輸出が伸び,不定期船部門は,機械類,鉄鋼の輸出が増加し,輸入においても国内の景気回復を反映して,鉄鉱石,石炭等が大きく増加した。油送船部門では,船腹過剰による市況低迷のため,早期の本格的回復は望めないものの,石油需要がわずかながら上昇気運をみせる一方,船腹削減が図られている。このような輸送活動の活発化による営業収入の増加と,人員合理化による人件費の減少,燃料費の安定,修繕費の減少により,経常ベースでも3年ぶりに増加に転じ黒字となった。しかし,黒字計上企業は58年度の18社から15社に減少し,いまだ回復要素の乏しい状況となっている。
  内航海運(107社)は,輸送需要の回復に伴い営業収入が34.3%増と大きく拡大したため,営業・経常利益ともに黒字を拡大した。
  長距離フェリーは,需要の回復による営業収入増と,燃料費の安定により,営業収益では0.6%増と58年度に引き続き黒字となったが,経常ベースでは依然として赤字を計上しており苦しい状態が続いている。
  造船業(9社)は,船舶部門が海運市況の低迷と船腹過剰による低船価のため依然厳しい経営状況にあるが,兼業部門を含めた全体の営業収入は0.6%増とわずかながら増収となった。
 (航空運送業は58年度に引き続き黒字)
  航空運送業(主要3社)は,旅客需要の大幅な増加に伴い,営業収入で9.7%増と大幅な伸びを示した一方,動力・燃料費の安定により営業利益が大きく増加し,58年度に引き続き経常ベースでも黒字となった。
  倉庫業(15社)は,営業利益が31.0%増と伸び,経常ベースでも黒字幅を拡大した。
  ホテル業(40社)は,営業収入の伸びに比べ営業費用の伸びが大きく,収支は黒字となったが,営業利益は5.4%減と悪化した。
  (総じて営業収入の増加により改善)
  次に,59年度に営業ベースで改善した事業における業績状況を営業収入及び営業費用(人件費,動力・燃料費及びその他費用)の伸び率の変化でみると 〔8−3−2図〕のとおりである。

  総じて営業収入の伸びによって収支の改善した事業が多く,輸送需要の回復基調がうかがえる。一方,営業費用のうち人件費要因をみると,国鉄,営団地下鉄,路線トラック,区域トラック,通運業,倉庫業で改善された。動力・燃料費要因の寄与度は総じて小さく安定傾向にあるといえる。
  59年度の運輸事業における経営状況は以上のとおり,営業収入の伸びが目立っており,燃料費等の流動的要因の影響は小さくなってきた。しかし今後も石油価格の推移に注目しつつ,流動性の少ない人件費を抑制する等営業費用の縮減努力が要求される。さらに,多岐多様にわたる利用者ニーズに対応したサービスの提供を図り,営業収入増加のための一層の努力が期待される。


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