3 運輸における円高・原油安等への対応


  (内需拡大,円高対策等対応急ぐ政府)
  前述のような国際経済の変化に応して,我が国において国際協調型経済構造への変革を図っていくことが緊要となっている。このため,政府は,61年5月「経済構造調整推進要網」を策定し,内需拡大,国際的に調和のとれた産業構造への転換,市場アクセス改善と製品輸入の促進,国際協力の推進の譜施策を決定するとともに,同年8月,この要綱を一層強力に実施していくため,内閣総理大臣を本部長とする「政府・与党経済構造調整推進本部」を設置した。
  また,我が国としては,引き続き内需を中心とした景気の維持,拡大を図ることが肝要であり,このような内需拡大の努力は,経済の拡大均衡を通じて世界経済にも好ましい影響を及ぼすものと期待される。このため政府は,61年4月「総合経済対策」,同年5月「当面の経済対策」を相次いで策定し,公共事業等の施行促進,中小企業対策,円高差益還元対策等の施策の着実な実施を図ることとした。さらに,同年9月には公共投資等の拡大,中小企業対策,円高及び原油価格低下に伴う差益の還元等を内容とする「総合経済対策」を策定し,各種施策を総合的に推進しているところである。
  運輸省としても上記の諸施策を踏まえつつ,次のような対策を講じている。

(1) 円高不況対策

  先にみたように,特に外航海運業及び造船業においては,従前からの構造的不況が今回の円高等により,さらに深刻化する事態となっていることから,運輸省としても,次のような不況対策を講じてきている。

 ア 海運不況対策

      海運については,従前からの構造的な不況を円高が加速した形となっており,既に述べたように,大きな為替差損を生じる見込みとなっている。このため,円高の影響を被った業種を対象に事業転換対策及び緊急経営安定対策を講ずることを目的として制定された「特定中小企業者事業転換対策等臨時措置法」(61年2月公布・施行)による緊急経営安定対策を講じているところであり,対策の対象となる事業者として,61年9月末現在で,近海海運業が71社,一般外航海運業が6社認定されている。
      また,61年6月には「特定外航船舶解撤促進臨時措置法」が公布・施行され,現在,これに基づく老朽・不経済船の解撤促進により過剰船腹の解消を進めている。これは,解撤促進基本指針に従って行われる船舶の解撤について,産業基盤信用基金による債務保証により,解撤に必要な資金の調達を容易化しょうとするものであり,基本指針においては,64年央までの解撤目標量を520万総トンとしている。
      さらに,船舶整備公団の近海貨物船に係る船舶使用料等について,61年6月から1年の間に生ずる支払負担の軽減措置を講じている。

 イ 造船不況対策

      造船については,従前からの構造的な不況を円高が加速したことにより,新規受注量の減少,受注船価の下落,為替差損の発生などにより不況が深刻化している。このため,海運業と同様,「特定中小企業者事業転換対策等臨時措置法」による緊急経営安定対策の対象業種として造船業等を組み入れたところであり,その対策の対象となる事業者として,61年9月末現在で,船舶の製造一修理業が144社,舶用機関・船体部品の製造・修理業が337社認定されている。
      また,海運造船合理化審議会より構造不況に抜本的な対応をするための方策が61年6月に示されており,この中では,過剰設備の削減,企業の集約化等による産業体制の整備,事業転換の促進等の対策が指摘されている。

(2) 円高・原油安に伴う差益の還元対策

 ア 国際航空運賃の方向別格差の是正

      国際航空については,現在,収入面,支出面でのドル建て比率がほぼ均衡しているため,円高による為替差損差益がほとんど生じないものの,「方向別格差の縮小のための措置を講ずるよう努める」との61年4月の総合経済対策の決定を踏まえて,我が国にとって二大主要路線である欧州線及び太平洋線について措置を講じ,さらに,9月の総合経済対策での「引き続き方向別格差が大きい路線については,格差縮小のための措置を講ずるよう努める」との決定に対応して,オセアニア線及び東南アジア線についての措置を実施することとしている 〔1−1−11表〕

 イ 国内航空運賃の割引の拡充

      国内航空については,60年8月の日航機事故の影響等による需要の落込みにより,厳しい経営状況にはあるが,増便等の利用者サービスの向上を図るとともに,既に実施している団体包括旅行割引について,10月以降の延長実施,対象路線の拡大等の措置を講じ,併せて沖縄線に団体往復割引運賃(25〜35%割引)を新たに導入した。

 ウ 海外パック旅行料金の引下げ

      海外パックの旅行料金については,宿泊料等の地上費用に対する円高の効果があるため,61年10月から対北米,欧州等を中心に引下げが行われた。例えば米国向けの場合,対前年比で数パーセントから10数パーセントの引下げとなっている。

 工 その他の公共料金等について

      その他の公共料金等については,運輸事業に係る差益を運賃料金の引下げという形で還元することは,@運輸事業については,前項でみたように総費用に占める燃料費の割合が相対的に小さく,総費
     用中相当な部分を占める人件費等のコストの増大が今後とも見込まれること,A運輸事業は,構造的不況業種が多く,また需要の低迷傾向が進んでいるなど全般的に厳しい経営状況にあること,により,一般的には難しい状況にあると思われる。
      このため,61年4月の総合経済対策及び9月の総合経済対策に従い,車両,船舶の代替更新を促進するなど利用者利便の向上のためのサービス改善を行うとともに,可能な限り現行運賃水準を維持することにより,差益を還元するよう指導している。また,やむを得ず運賃改定が必要な事業者については,今後とも引き続き燃料費の下落による適正な原価を織り込むこととし,極力改定幅を圧縮することにより差益を還元するよう指導している。

(3) 内需拡大対策

 ア 公共投資等の拡大

      (61年度上半期における公共事業等の前倒し施行等)
      61年4月の総合経済対策に基づき,61年度上半期における公共事業等の前倒し施行が決定され,政府全体で61年度施行予定額の77.4%の上半期施行をめざすこととなった。運輸省関係では,61年度の公共事業等(空港,港湾等の公共事業等並びに国鉄,日本鉄道建設公団及び新東京国際空港公団の公共投資関係事業をいう。)の額約1兆5,077億円のうち71%に当たる約1兆702億円を上半期に前倒し施行することとした。これは,過去最高の前倒し率である57年度の69%を上回る割合である。
      また,これに伴い61年度下半期における事業量の確保が必要となり,61年9月の総合経済対策において,公共投資等の追加により総額3兆円の事業規模を確保することとされた。運輸省関係では,空港,港湾及び海岸の各公共事業費の追加,日本鉄道建設公団の事業費の追加等を行うこととしている。

 イ 民間活力の活用の促進

      (公共的事業分野における民間活力の活用等)
     公共的事業分野における民間活力の活用等に資するため,関西国際空港については,関西国際空港(株)が61年度において空港島護岸,空港連絡橋の建設等を行うこととしている(61年度事業費として750億円を予定)。
      また,61年5月の「民間事業者の能力の活用による特定施設の整備の促進に関する臨時措置法」(民活法)の成立を踏まえ,運輸関係民活プロジェクト(対象施設:国際見本市場,国際会議場,旅客ターミナル,港湾業務用施設)の推進を図ることとしており,61〜62年度において東京竹芝地区再開発等4プロジェクトが差手される予定である。
      さらに,61年9月の総合経済対策において,民活法の対象施設整備事業の前倒しを促進するため,61年度又は62年度に着工される事業に対する建設費の助成及び日本開発銀行,北海道東北開発公庫からの貸出金利の引下げ並びに62年度税制改正における民活特償制度の償却率の引上げが決定されている。

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