1 国際的な人的交流の現状及びその促進の必要性


(1) 国際的な人的交流の現状

  (我が国をめぐる国際的な人的交流の動向)
  我が国をめぐる人的国際交流の動向をみると,訪日外客数は,昭和60年においても,50年代の年平均10%を越える高い伸びを持続し,対前年比10%増の233万大と史上最高を記録した。しかしながら,これを月別で見ると,筑波で国際科学技術博覧会が開催された3月から9月の期間は,対前年同期比17%増の大幅な増加がみられたのに対し,10月以降は,国際科学技術博覧会開催中の外客増の反動と円高の影響等により,一転して前年比でマイナスとなっている。61年に入ってからも,さらに急激な円高が進むにつれ,訪日外客数は著しく減少しており,61年1月から6月の期間は対前年同期比12%減の大幅な減少となった。特に,台湾(同23%減),香港(同27%減),マレーシア(同34%減)など訪日外客の約半数を占めるアジア諸国(地域)からの減少が激しい。対各国通貨でみた円高の割合とその国からの訪日外客数の減少率の間には,ある程度の相関がみられ 〔1−4−1図〕,60年以来の急激な円高が訪日外客の減少に影響していることがわかる。

  また,日本人海外旅行者数は,60年1月から9月までの期間は対前年同期比8%増という堅調な伸びを示していたが,10月から12月までの伸び率は同2%増に満たず,結局,60年は対前年比6%増の495万人にとどまった。10月以降の伸び率鈍化の主な原因は,同年8月の日航機事故により航空機による旅行が敬遠されたためと思われる。さらに,61年1月から8月の期間はソ連の原発事故,欧州のテロ等のマイナス材料もあったが,円高による旅行費用軽減という好材料もあり,対前年比8%増となった。
  60年における各国(地域)の日本人旅行者の受入れ数は,アメリカの150万人(うちハワイ86万人,グアム30万人)を筆頭に,韓国,香港がそれぞれ64万人,台湾が62万人と続いており,日本人の海外旅行の目的地は,アジア・太平洋地域が主流であることがわかる。
  また,日本人旅行者の受け入れ数の伸びが著しかった国としては,最近観光地としての魅力が注目されてきた中国(対前年比27%増),オーストラリア(同31%増)が挙げられる。
  さらには,国際相互依存関係の深まり等を反映して,日本人の海外長期滞在者数,外国人の日本長期滞在者数も増加しており,60年に帰国した日本人,出国した外国人についてみると,滞在期間が3か月を超えている者は,それぞれ26万人,6.2万人であり,55年に比べ44%増,35%増となっている。
  (国際的な人的交流の他国との比較)
  我が国の人的国際交流量を諸外国と比較してみると,60年における入国外客数は,世界で一番多く外客を受け入れているイタリア(4,915万人)の約1/23にすぎず,シンガポール(303万人),タイ(244万人)などのアジア諸国にも及ばない。また,海外旅行者数を対人口比でみると,我が国は,年間,国民の約4%しか海外旅行をしておらず,他の先進諸国(アメリカ11%,西独27%,仏15%)に比べ極端に低い水準となっており,周囲を海に囲まれた国と比べても,イギリスの約38%はもとより,オーストラリアの約8%にも及ばない。
  このように,我が国は,貿易量など国際物流の面での世界の中で占める規模の大きさに比べ,人的交流の面では国際化が著しく立ち遅れているといえる。

(2) 国際的な人的交流の促進の必要性

  (相互理解の増進)
  国際観光振興会が,60年に訪日外客を対象にして行った調査によると,訪日後の外客の有する対日イメージは,訪日前に比べ「人々が親切で好感の持てる国」といったプラス・イメージが増加し,「ごみごみした騒々しい国」といったマイナス・イメージが減少するという変化がみられ 〔1−4−2図〕,訪日によって,外国人の対日イメージが大きく改善されていることがわかる。
  このように,実際に相互の国を往来し,人々の生活を見たり行動に触れ理解を深めることは,その国との良好な関係を確立する上で大きな効果を有するものであり,今後,相互依存関係の深まる国際社会において我が国の安定的な存立を確保するためには,双方向の人的交流を促進していくことが極めて重要となってきている。

  (国際収支の均衡等)
  一方,国際的な人の移動は,これに伴う国家間の財貨の移動をもたらす。現在,我が国の膨大な国際収支の黒字が諸外国との摩擦の一因となっているが,こうしたなかで,60年の我が国の旅行収支は,368億ドルの赤字であった。日本人海外旅行者は工人当たり約1,000ドルを海外で消費しており,仮に旅行者が100万人増えれば約10億ドルの経常収支の黒字幅縮小をもたらし,このような観点からも日本人の海外旅行を積極的に促進する必要がある。
  特に60年秋以来の円高は,海外パック旅行料金の値下がりや現地における円の購買力の増大など,海外旅行を行い噂すい環境をもたらしており,国民の余暇活動としての海外旅行の普及・定着とそれに伴う上述のような経済効果の拡大を図るための好機が到来しているといえよう。


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