2 国際的な人的交流の促進


(1) 国際観光の振興

  国際観光は,最も広い範囲の国民の参加が得られる国際交流の機会であり,その振興は,我が国をめぐる国際的な人的交流の拡大に大きく寄与するものである。
  昨今の国際経済情勢のなかで,その役割はますます重要となっていることから,運輸省では,総合的な国際観光振興策を推進している。

 ア 日本人海外旅行の促進

      (日本人海外旅行促進策の課題)
      日本人海外旅行を促進するためには,長期休暇の定著,海外旅行を阻害する諸制度の改善等の国内の環境整備を図るとともに,諸外国における日本人受入れのための観光地整備や人材育成への協力,諸外国の我が国での観光宣伝活動への協力などを,各国の関係者と連携しつつ,総合的に実施する必要がある。
      (日本人海外旅行促進策の展開)
      このような施策の一環として,61年2月に,オーストラリアへ,運輸省,国際観光振興会及び観光関連業界の代表者24名から成る官民合同の日本人海外旅行促進ミッションを派遣し,同国政府及び民間の関係者と,日本人受入れの阻害要因の除去,日本人旅行の促進策等について調査及び現地関係者との意見交換を行った。また,諸外国の観光開発への協力として,インドネシア西ジャワ地域の観光を中心とした地域開発について,61年2月から調査を実施している。
      現在,我が国に対しては,韓国からは高校生の修掌旅行の促進について,メキシコからは観光促進ミッション派遣について,マレーシア,タイなどからは観光開発への協力について,要請が寄せられているほか,オーストリア,トルコなどから直通航空路開設の要望に絡めた形で日本人旅行者の送り込み等について要請がなされている。
      このような要請も踏まえ,今後,これらの施策を一層積極的に推進することとしている。

 イ 外客受入対策等の推進

      (外客受入対策等の課題)
      外国人旅行者の訪日を促進するためには,国際観光振興会等による海外での外客誘致活動を積極的に展開するとともに,日本国内の外客受入体制の整備を促進する必要がある。特に,我が国の場合,外国人が不自由なく行動できるような国内的環境の素地に乏しいこと,外客のニーズが多様化しており,なかでも「日常的な日本」への関心が高まっていることなどから,きめの細かい受入体制整備を積極的に推進する必要性が大きい。
      (国際観光モデル地区構想)
      国際観光モデル地区構想は,59年3月の観光政策審議会意見具申「国際観光の新たな発展のために」の中で提言されたもので,個性豊かな観光資源を有し,外客の誘致,受入れにも意欲的な観光地を国際観光モデル地区として指定し,その地区の総合的な外客受入体制の整備を重点的に図ることにより,全国的な外客受入体制の整備を促進しようというものであり,これを通じて,外国人が不自由なくひとり歩きできる環境を創出し,相互理解の増進,地域振興等を図ることを目的としている。
      運輸省では,61年3月に,指定申請のあった38道府県43地域の中から15地区を国際観光モデル地区として指定した 〔1−4−3図〕が,指定を受けた地域では,地方公共団体が中心となって,今後の外客受入体制整備事業等の指針となるべき国際観光モデル地区整備実施計画の策定作業が行われており,今後これに即して,外客用の表示等の整備善意通訳やホーム・ビジットの普及などの事業が実施されることとなる。
      一方,運輸省では,61年7月モデル地区における外客用の表示等の適切な整備等に資するため,国際観光振興会に「外客用モデル表示・案内板等マニュアル検討委員会」を設置して,表示,案内板等のモデル・デザイン等の検討に若手したほか,各地区の事業について,国際観光振興会による外客誘致などを中心に,積極的な支援を行うこととしている。また,62年春に,国際観光モデル地区の第2次指定を行う予定である。
      (外客の旅行費用軽減策)
      近年,訪日外客の所得階層の多様化等により,外客の低廉な旅行へのニーズが高まっているが,60年秋以来の急激な円高により,新たに,訪日外客が低廉施設での宿泊・飲食や滞在日数の縮減などの対応を余儀なくされるという事態も生じており,外客受入対策の一環としての旅行費用軽減策の必要性は,更に増大している。このため,国際観光振興会では,低廉旅行のパンフレットの作成などの従来の施策に加え,外客が安い費用でかつ快適に宿泊できる民宿・ペンションを国際観光民宿・ペンションとしてリスト化し,外客への情報提供を行りているが,今後,更に外客の費用軽減策の充実を図っていく必要がある。

 ウ コンペンションの振興

      (コンベンションの意義及び効果)
      「コンベンション」とは,会議,展示会,イベントなどの,非日常的な人の集まりを意味し,その振興を図ることは,国家間,地域間の人の往来を活発化し,参加者相互又は参加者と地域との間の質の高い交流により,国際相互理解の増進に寄与するほか,消費機会の増大等に伴う内需拡大,サービス産業を中心とした幅広いコンベンション関連産業の発展,人,情報などの集積による地域の活性化等現在の我が国に課された問題の解決に貢献する多くの効果をもたらすものである。
      (コンベンション振興の課題)
      我が国では,昭和40年代初頭から国際観光振興会が国際会議の誘致などを行ってきたほか,近年に至り多くの地方公共団体でコンベンション振興への取組みが行われるようになってきた。しかしながら,コンベンションに関する伝統の欠如等から,誘致体制の不備,関連施設の不足,人材やノウハウの不足など多くの問題点を抱えており,国際的な比較ではコンベンション開催の実績もあまり上がっていない。このため,前述のようなコンベンションの今日的な意義を踏まえ,総合的なコンベンション振興策を講じる必要性が高まっている。
      このような状況のなかで,運輸省では,61年5月に省内にコンベンション相談窓口を設け,地方公共団体等に対するコンサルティング,関連事業者等の紹介などを行っているほか,同月成立した「民間事業者の能力の活用による特定施設の整備の促進に関する臨時措置法」に基づく国際会議場施設等の整備促進などを図っている。

(2) 国際航空の充実

  (拡大する国際航空)
  国際的な人的交流を促進していくためには,それを支える国際航空を充実することが必要不可欠であるあるが,新規地点への乗り入れ,長距離路線の直行化,機材の大型化,増便等による輸送力の増強等を中心とする最近における我が国をめぐる国際航空の充実には,目ざましいものがある。
  61年に入ってからの新たな動きとしては,まず,全日本空輸が初めて国際定期航空の分野に進出し,3月より米国のグァムヘ,7月よりロサンゼルス及びワシントンD.C.へ定期便を就航したほか,5月より新たにスペインのイベリア航空が南回りルートで参入した。
  新規地点との間の路線の開設としては,上記のワシントンD.C.のほか,4月よりオーストラリアのパース,ケアンズ及びブリスベーンへ,また,7月より米国のアトランタへの路線が開設された。なかでも米国のワシントンD.C.及びアトランタ路線については,日米間の政治経済関係の一層の緊密化,地域的な拡がり等を反映して,堅調な滑り出しを示している。新規直行路線としては,4月よりシベリア上空通過ソ連国内無着陸の日欧間直行便がパリ及びロンドンへ就航し,時間価値の大きいビジネス客を中心に非常な利便をもたらしている。また,需要の大幅な増加に対応して,日中間,日豪間等の路線において双方の企業が増便を行う等輸送力の拡大が図られた 〔1−4−4図〕
  (利用者利便の向上に向けて)
  今後とも我が国産業構造の変化によって,業務旅行ニーズの拡大・変化,観光旅行の多様化,旅行需要の拡大に対応したネットワークの拡充が国際的な人的交流を促進していく上で必要であるが,その際地方における観光の振興,臨空産業の展開等の見地から地方公共団体を中心として地方空港の国際化が唱えられていることを踏まえ,地方空港発着路線の開設を検討し,地方発着の国際旅客の利便向上,潜在需要の掘り起こしを図りいわば全国的レベルでの人的交流を深めていくことも肝要である。


表紙へ戻る 目次へ戻る 前へ戻る