1 航空企業の運営体制の見直し


(1) 運輸政策審議会における審議

  運輸大臣は,昭和60年9月,運輸政策審議会に対して「我が国航空企業の運営体制の在り方に関する基本方針について」を諮問し,これを受けて同審議会は,61年6月,運輸大臣に対して答申「今後の航空企業の運営体制の在り方について」を提出した。この答申は,安全運航の確保を基本としつつ,航空企業間の競争の促進を図ることによって利用者利便の向上を図ることを提言している。このような運営体制の見直しに至った経緯及び答申の概要は以下のとおりである。
  (答申に至った経緯)
  航空企業の運営体制については,従来,45年の閣議了解及び47年の運輸大臣達によって,航空企業間の過当競争を排してその共存共栄を図る観点から各社の事業分野が定められ,日本航空は国際線及び国内幹線を,全日本空輸は国内幹線及びローカル線並びに近距離国際チャーターを,東亜国内航空は国内ローカル線及び幹線を運営してきた。
  しかしながら,第1節で述べたように,このいわゆる「45・47体制」を定めてから今日までの間に航空輸送は急速な発展を遂げ,45年度と60年度の航空輸送量を比較すると,国際旅客数で4.6倍,国際貨物量で7.9倍,国内旅客数で2.8倍,国内貨物量で4.8倍となった。このような航空輸送の発展により,航空輸送は今や大衆の足として定着してきているが,これに伴い,利用者利便の向上のため,より一層の輸送サービスの向上が望まれるようになってきた。また,航空企業の側も,「45・47体制」の下において逐次業務を拡大し,各社とも新たな枠組における発展を期待するに至った。
  さらに,これらの変化に加え,60年の日米航空暫定合意において,日米間航空輸送について拡大均衡を図る方向で合意がなされ,日本貨物航空の新たな運航が認められたほか,一部の路線については,新規航空企業の乗入れ等を可能とする権益が確保された。また,輸送力の増強を図る上での隘路となっていた基幹空港の空港能力についても,関西国際空港の整備,新東京国際空港の整備及び東京国際空港の沖合展開といった大規模プロジェクトの推進により今後数年の間に拡大される目途がついた。
  こうした航空をめぐる様々な変化に対応するため,運輸政策審議会に対し上記の諮問を行ったものであり,同審議会における審議の結果,61年6月に次のような答申が提出されるに至った。
  (運輸政策審議会答申の概要)

 ア 基本的考え方

      今後は,安全運航の確保を基本としつつ,企業間の競争の促進を通じて利用者利便の向上を図る。ただし,我が国の場合,アメリカ型の自由化施策は,安全で安定した良質なサービスの提供という利用者利便の確保の面からみて最適であるとは断言し難い環境にあり,また,航空交通容量の不足という決定的な制約もあるため,当面は,各企業の自主的な判断をできる限り尊重し,弾力的な行政運営を行うことにより競争促進施策を進めることが適当である。

 イ 国際線の複数社制

      日本航空以外の他社についても,企業の能力等に応じ国際線への進出を積極的に推進する。複数社制の形態としては,高需要又は大きな需要増を期待し得る既存路線における複数社化が中心となる。

 ウ 日本航空の完全民営化

      日本航空の完全民営化は,企業間の競争条件の均等化,自主的かつ責任ある経営体制の確立のため,速やかにこれを実施することが望ましい。政府保有株式の放出に当たっては,円滑な事業活動の維持に配慮する必要がある。また,民営化に伴い政府の債務保証制度等が廃止される一方,競争促進に伴う輸送力の拡大を図る必要があるため,航空企業全体を対象とする新たな政策金融について検討する必要がある。
      完全民営化後も,緊急時の輸送手段の確保等社会的責任を十分果たしていくことを期待する。

 エ 国内線における競争促進施策の推進

      ダブル・トリプルトラッキングを推進すべきであるが,これらを積極的に推進する対象路線は,高需要路線及びある程度の需要がある主要空港間路線である。これらを推進するに当たり需要量等の基準を早急に検討すべきである。
      なお,競争促進施策の推進に当たっては,企業間の適正な競争が期待できないこととならないよう配慮する必要がある。
      さらに,中小航空企業については,生活上必要な離島路線の維持を可能とするよう採算路線の運営について配慮するとともに,経営基盤の強化に資する路線展開については,企業の性格と能力に応じ認めることが適当である。

 オ 安全の確保

      航空企業は,競争体制下にあっても競争に目を奪われて安全を損なうことがないよう,日々の事業活動を通じて安全の確保に全力を傾注すべきである。また,行政の立場からは,あらゆる機会を通じ厳格な指導監督を行っていくことが重要である。

 カ 航空交通容量の拡大

      競争促進施策を推進していくためには,空港の整備,航空交通管制体制の改善等により航空交通容量の一層の拡大を図ることが必要不可欠であり,そのための財源対策についても幅広く総合的に検討されるべきである。

(2) 運輸政策審議会答申の具体化

  運輸省としては,今後この答申の趣旨に沿った施策を展開することとしているが,具体的には以下の施策を実施し,又は検討している。

 ア 国際線

      従来,「45・47体制」の下で国際チャーター便運航の実績を積んできた全日本空輸は,61年3月から東京−グアム線,同年7月から東京−ロサンゼルス,ワシントン線の運航を開始した。
      国際線の複数社化については,必要に応じ相手国政府との調整を行い,逐次参入を進めていくこととしている。

 イ 日本航空の完全民営化

      日本航空の完全民営化については,今回の答申及び臨時行政改革推進審議会答申(61年6月)において,速やかな実施が求められている。
      完全民営化のための具体的措置は,日本航空株式会社法の廃止及び政府保有株式の放出であるが,日本航空株式会社法の廃止については,次期通常国会に関連する法案を提出すべく現在準備を進めている。
      また,政府保有株式の放出については,日本航空の円滑な事業活動の維持に十分配慮しつつ,関係省庁等との調整を図っていくとともに,売却益の空港整備への活用についても検討中である。

 ウ 国内線

      本答申においては,ダブル・トリプルトラック化推進に当たっての基準を策定することとされていたが,運輸省は,答申後直ちに以下の基準を策定し,航空企業に通知した。当面はこの基準の対象となる路線について,ダブル・トリプルトラック化を進めていくこととしている。

 @ ダブルトラック化

      年間需要70万人以上の路線
      ただし,札幌,東京(羽田,成田),名古屋,大阪,福岡,鹿児島及び那覇の各空港間を結ぶ路線にあっては,年間需要30万人以上の路線

 A トリプルトラック化

      年間需要100万人以上の路線
     なお,この基準は,その他の路線についてのダブル・トリプルトラック化を否定したものではなく,また,この基準そのものも適宜見直すこととしている。
      この基準に従って,日本航空の参入により61年7月から東京-鹿児島線のトリプルトラック化が,また,61年10月から東京-小松線及び名古屋-福岡線のダブルトラック化が実現されている。

 エ 安全の確保

      運輸省としては,従来より安全性の確保に関して事業者を厳しく指導監督してきているが,60年8月の日航機事故以後は,かかる惨事を二度と起こさぬよう,事業者への一斉点検の指示,日本航空への立入検査の実施及び業務改善勧告等を行う一方,新たに整備審査官を置き,航空機整備の指導監督体制を強化したところであり,今後も答申の趣旨を踏まえて,安全性確保のための指導監督を強力に行うこととしている。

 オ 航空交通容量の拡大

      第5次空港整備五箇年計画に基づき,3大プロジェクトの推進,一般空港の整備等を図る。


    表紙へ戻る 次へ進む