3 航空交渉の推進
(1) 航空をめぐる国際環境
(航空交渉を通じて展開される国際航空政策)
現在の国際航空関係の枠組みのもとでは,定期国際航空運送業務は原則として関係二国間の航空協定に基づき運営され,二国間に提供される定期航空サービスの路線,輸送力,運賃等について双方の国の合意を要することが通例となっている。このため,航空政策の国際的な展開は,それぞれの国における航空企業の発達状況,航空交通容量の大きさ等各国がおかれた環境を背景にして二国間の航空交渉を通じて行われている。
(自由化のなかの米国航空界)
航空の分野において1978年以来自由競争を推し進める米国では,国内市場においては多くの新規参入と倒産による撤退,過疎路線の衰退と幹線ルートの輸送力の増加,特別割引運賃の普及と過疎路線における運賃の上昇等自由化のさまざまな影響が見られる。最近では,新規参入企業による低運賃攻勢に対抗して,大手企業を中心にネットワークの拡大,コンピューター予約システムの拡充等の規模の利益を追及した企業の合併や買収の動きが顕著に見られ,これを自由化に伴う寡占化の進行とみることもできる。また,国内市場を中心に拡張してきた企業の積極的な対外進出が自立っており,より具体的な形で自由化の波が米国から諸外国へ及ぶようになった。
(流動化する欧州,アジア)
欧州では,欧州域内航空に関しヨーロッパ共同体(EC)やヨーロッパ民間航空会議(ECAC)において,英蘭両国が中心となって輸送力規制の弾力化等徐々に規制緩和が具体化されつつある。一方,東南アジア諸国は,観光振興の観点からも輸送力の増強を図るとともに,自国発着の航空需要に一定の限界があることから三国間輸送の拡大を推し進めようとするなど自国航空企業のコスト面での競争力を背景に積極的な姿勢を示しており,今後ともその動きに注目する必要があろう。
(2) 航空交渉の推進
(我が国をめぐる航空交渉の基本目標)
伝統的な国際航空の枠組みのもとで,自由化を推進するインセンチィヴを有する国を中心に国際航空政策の積極的な展開が行われるという以上のような国際環境に留意しつつ,我が国は,機会均等という航空協定の基本的原則のもとに,輸送需要に適合した輸送力の供給を確保することにより,我が国をめぐる国際的な人的交流及び物的流通の促進にむけて努力することを航空交渉を推進するに当たっての基本目標にしてきている。また,61年6月の運輸政策審議会答申を踏まえ,我が国航空企業全体としての国際競争力,相手国との間の航空政策の調整等に配慮しつつ,我が国航空企業による国際線の複数社制を推進することが新たな交渉課題となった。
このような観点から過去一年間(60年9月〜61年8月)に,米国との7回に及ぶ航空交渉を含め,我が国との航空協定締結国38か国のうち13か国との間で25回にわたり,我が国航空企業による国際線の複数社制の推進,新規地点の追加,増便の取極め等航空関係の拡充を中心に協議が行われ,利用者の利便の増進に向けて航空交渉が推進された。
(航空権益の総合的均衡をめざす日米航空交渉〉
なかでも日米間では,航空権益の総合的均衡を図るべく今日まで30年に及ぶ航空協議が重ねられてきており,その間,改善された点は多いものの,なお是正すべき点が残されている。しかし,60年4月には,@日本貨物航空の米国乗り入れの実現,A日本-ミクロネシア間の交流の強化,B日本側の米国南部・東部地点への乗り入れ権を含む新規3路線の開設等,日米双方にとっての機会の拡大を内容とする暫定合意が成立し(外交文書の署名,交換は同年5月),また,61年7月には日本貨物航空の増便が認められ,両国間の航空権益の均衡化に向けて前進をみたところである。今後とも引き続き,双方の航空権益の総合的均衡に向けて交渉を推進していく必要がある。
(国際線複数社制の推進に向けて)
60年の日米暫定合意に基づき,同年5月より,貨物便の分野において日本貨物航空が2社日の本邦企業として米国乗り入れを果たした。
同社の参入により,近年低下傾向にあった当該路線における我が国航空企業の積取り比率は徐々に回復しつつある。一方,この暫定合意は旅客便の分野においても我が国の航空政策を転換する一つの契機となり,運輸政策審議会答申(60年12月の中間答申及び61年6月の最終答申)において我が国航空企業による国際線複数社制の推進という新しい方針が示され,これを踏まえ,全日本空輸が61年3月よりグァムヘ,61年7月よりロサンゼルス及びワシントンD.C.へ乗り入れを開始した。
このような状況において,61年6月に開催された英国との航空協議において両国の航空当局間で日本‐英国本土及び日本‐香港路線双方への新規企業の参入が競争促進の観点から歓迎される旨の基本合意が成立し,さらに,同年8月の協議において,とりあえず日本貨物航空の東京‐香港路線における週2便の運航が同年10月1日以降認められることとなった。
今後は,諸外国との航空交渉において,従来からの基本目標に加え,本邦企業全体としての国際競争力の確保について配慮するとともに,必要に応じ,相手国との間で航空政策の調整を行う等航空関係全体に配慮しつつ,我が国の複数の航空企業による国際航空路線網を形成することをめざして諸般の施策を推進する必要がある。
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